ハイレゾリューション(高解像度)オーディオ、いわゆるハイレゾについて、正直これまであまり興味はなかった。今のCDプレーヤーに買い替えたときの記事にも、そんなことはどうでもいいと書いた。
その理由としては、いくら録音再生のデジタル処理が高度化しようと、人間の耳が聴くのはデジタルの「データ」ではなく、それをアナログに変換した「音」である以上、その音質はデジタル・アナログ変換回路(DAC)や、変換後のアナログアンプの性能に依存するからである。
ただ闇雲にサンプリング周波数や量子化ビット数を増やせば良いというものではないはずなのに、やれ何kHzだ何ビットだというスペックのみを強調して、小さなイヤホンで再生する音がさぞ素晴らしいかのように宣伝するのは、苦境にあるオーディオメーカーの起死回生策ではないかと疑ってしまう。かつての4チャンネルステレオがそうであったように。
しかし、実際に体験もせずにそんなことを言っていても始まらないし、自分に残された時間も限られている。新たに対応機器を購入するまでもなく、今のCDプレーヤーに内蔵されたDACでハイレゾ再生が可能であることは分かっていたので、配信サイトを通じていくつかの音源を購入して試してみた。
これまでに数種類の音源を聴いた感想としては、CDと雲泥の差があるというほどではないというのが正直なところだ。ただし、高音部の歪感の少なさはハッキリ感じることが出来る。
CDのフォーマットはサンプリング周波数が44.1kHzで、22.05kHzの音まで記録可能だというけれども、そのぐらいの音域では1つの波形を約2回サンプルしただけの直線的な波形にしかならないから、いかに優秀なDACでも歪が生じてしまうし、それより高い音域はカットされてしまう。
それが192kHzのハイレゾの場合、22kHzの音なら約9回サンプルするから、少しは滑らかな波形に近づく。人間の可聴音域を遥かに超えるとは言え、96kHzの高音まで一応記録することが可能だ。
そうした高音域の記録精度の向上が、聴感上の歪感の減少をもたらしていると思われる。実際、オーケストラの第1ヴァイオリンが高い音をフォルテで演奏する際、CDではキンキンとした刺激的な音が気になる場合があるが、ハイレゾではその点はかなり改善されている。
高音域の改善とおそらく無関係ではないだろう。音の定位感、音場の広がりもCDよりも相当良いことは確かだ。突飛な連想だけれど、人間の可聴音域を上回る超音波を使って自らの位置を認識し、暗闇でも飛び回ることができるコウモリの習性を思い出した。
しかし・・・。
メリットを感じるのはそれぐらいで、ダイナミックレンジに関しては普通の住宅の一室で聴く限りはCDで十分であるし、パソコンを持ち込んで接続したり、マウスで選曲や再生を指示したりするのが面倒だ。
何より、配信されているハイレゾ音源の数が限られているうえに、価格がCDの倍以上もするとあっては、おいそれとCDから移行するというわけにはいかない。アナログ時代の特別に思い入れのある音源(ブルーノ・ワルターやジョージ・セルの名盤など)をより良い音質で楽しむぐらいのことになるのではないかと思う。
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