2020/10/15

『エージェント:ライオン』

Lion2020年、仏。ダニー・ブーン、フィリップ・カトリーヌほか。日本初公開となる放映を行なったWOWOWの紹介文。

ある病院の精神科医ロマンは、自分がコードネーム“ライオン”であるスパイ、レオ・ミランだと主張する患者を担当するが、レオはロマンの婚約者ルイーズが誘拐されると予告。実際に誘拐事件が発生してしまい、他に頼れる者がいないロマンはレオに協力を依頼。病院から脱走したレオとともにロマンは、犯人一味が乗っていたバンを手掛かりに、ルイーズを追ってパリへ。やがて一味の目的が意外なものだと明らかになっていく。(引用終わり)

最初から最後まで全く先の読めない展開の連続で、96分間ハラハラドキドキさせられっぱなしだった。精神科の患者と医者だったはずの二人が、何をしでかすか分からない探偵(本人はスパイのつもり)と、彼に頼るしかない哀れな依頼者と立場を逆転させ、一風変わったバディものの冒険アクションを繰り広げる。

そう言えば、同じフランス映画の『最強のふたり』も、大金持ちの障害者と移民労働者の若者という、あり得ないコンビのバディものだったが、こういう設定はフランス映画のお家芸なのだろうか。

ジャケット写真でも想像がつくが、単なるアクション活劇ではなく、随所にユーモアやシャレが散りばめられていてかなり笑える。思い切り脱力もするけれど、そこは「緊張と緩和」の絶妙のバランスと言うべきか。演じているのはフランスで活躍しているコメディスター陣という。笑いのツボを心得た役者たちなのだろう。

WOWOWの惹句のとおり「理屈抜きに楽しめる痛快テイストのコメディアクション」で、日本で劇場未公開というのは惜しい。

10月14日 ジョグ4キロ

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2020/09/15

『よこがお』

Yokogao 2018年、日仏。深田晃司脚本・監督。筒井真理子、市川実日子、池松壮亮ほか。公式サイトの紹介文。

初めて訪れた美容院で、リサは「和道」という美容師を指名した。数日後、和道の自宅付近で待ち伏せ、偶然会ったふりをするリサ。近所だからと連絡先を交換し、和道を見送った彼女が戻ったのは、窓から向かいの彼の部屋が見える安アパートの一室だった――。リサは偽名で、彼女の本当の名前は市子。半年前までは訪問看護師として、その献身的な仕事ぶりで周囲から厚く信頼されていた。なかでも訪問先の大石家の長女・基子には、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。基子が市子に対して、憧れ以上の感情を抱いていたとは思いもせず――
ある日、基子の妹・サキが行方不明になる。すぐに無事保護されるが、逮捕された犯人は意外な人物だった。この事件との関与を疑われた市子は、ねじまげられた真実と予期せぬ裏切りにより、築き上げた生活のすべてを失ってゆく。自らの運命に復讐するように、市子は“リサ”へと姿を変え、和道に近づいたのだった。果たして彼女が心に誓った復讐とは何なのか――。(引用終わり)

サキの誘拐事件を契機として、市子と基子の間の感情のすれ違いから、本人たちも予想もつかない事態に発展し、ついには泥沼のような非難と復讐の応酬に至ってしまう。

ストーリーそのものにさほど新鮮味はないけれども、主人公たちの感情が揺れ動く様子が、たとえセリフなしでも克明に描写されている。何と言っても、主役二人の演技力の高さによるところが大きいだろう。

もうひとつは、映像作品としての構成の巧みさである。市子が訪問看護師をしていた当時と、彼女がリサに名前を変えてからと、2つの時期の話が交互に出てくる展開は、そうと知らなければ混乱してしまうが、冒頭の美容院のシーンで市子が髪を染めるのがヒントになる。

それが分かった上で観れば、両方の時期のエピソードを相互に連関させながら、大変緻密に構成された作品であることが理解できる。ラスト近くのクラクションなど、巧みな音声効果も印象的だった。

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2020/09/09

『パリ、テキサス』

Paris1984年、仏・西独。ヴィム・ヴェンダース監督。ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー他。

テキサスの砂漠をさまよい歩く男トラヴィス。倒れて口もきかない彼を、連絡を受けて駆けつけた弟ウォルトがロサンゼルスの自宅に引き取る。そこには、トラヴィスと別れた妻ジェーンの間に生まれた息子ハンターがいた。4年前に置き去りにされたハンターは、ウォルトとその妻アンに育てられていたのだ。やがて、ようやく自分に心を開いたハンターを連れて、トラヴィスはジェーンを探すため再びテキサスへと旅立つ…。

1985年の劇場公開時に一度観たことがある。しかし、冒頭トラヴィスが砂漠の中を黙々と歩くシーンと、ラスト近くでジェーンが長い告白をする中の “Every man has your voice.”(どの男の声もあなたなの)というセリフだけは覚えていたものの、主人公が最後に取った行動がいまひとつ理解できないでいた。

今回改めて観て、ようやく何となく分かった気がした。俗っぽい言い方で気恥ずかしいが、多分これは「男のけじめ」なのだろうと。

トラヴィスは家族の修復を願ってジェーンに会いに行ったけれど、ようやく見つけた彼女と実際に話してみてやはりそれは無理だと、どこかの時点で悟ったに違いない。ジェーンは4年前のままのジェーンだった。仮に縒りを戻して一緒に暮らしても、また同じことの繰り返しになるだけだと。

そうである以上、自分はもう身を引く以外にない。そして、ハンターには何の罪もない。弟夫婦には悪いけれど、実の母ともども自由に暮らして幸せになってほしい。万感の思いを呑み込んで、トラヴィスは黙ってヒューストンを後にするのである。そこに流れるライ・クーダーの Dark Was the Night …。

大変切ないエンディングだが、彼に出来ることはそれしかなかった。そして、それが一番良かったのだ。

9月9日 ジョグ2キロ

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2020/08/28

『心の旅路』

Randomharvest1942年、米。ジェームズ・ヒルトンの同名小説を、マーヴィン・ルロイ監督、ロナルド・コールマン、グリア・ガースン共演で映画化したもの。

第一次大戦で負傷して記憶喪失となったジョン・スミス(仮名)は、町で偶然出会った踊り子のポーラと恋に落ちる。彼女と結婚して幸せな日々を送っていたスミスだったが、旅先で交通事故に遭ったはずみに負傷以前の記憶を取り戻す。しかし、逆にその後のポーラと過ごした日々の記憶を失ってしまった。本来のチャールズ・レイニアとして実業家人生を歩み始めた彼のもとで、秘書マーガレットとして勤めながら彼の記憶が戻ることを祈るポーラだったが…。

タイトルも何も知らなかったが、あるところで紹介されていて興味をもったので、久々に戦前の古いモノクロ映画を鑑賞してみた。「王道」を行くメロドラマに記憶喪失を二度も絡ませたストーリーが秀逸である。

また、チャールズと姪キティとの実らなかったロマンスも、スピンオフものが一篇出来そうなくらい良く出来ている。その他、戦傷者を収容した精神病院の様子とか、戦後復興に伴う社会情勢の変化なども織り込まれ、社会派ドラマとしての奥行もある。

邦題『心の旅路』もなかなか気が利いているが、原題の Random Harvest とは、一体どういう意味なのだろうか。NYタイムズの書評では、第一大戦当時のドイツ軍による報告書にある “Bombs fell at random.”(爆弾は無作為に落ちた)から来ているとあり、Random はそこから取ったもののようである。

爆弾が無作為に落ちた結果、スミスが記憶喪失に陥り、それがもとでポーラと知り合い、さらに様々な偶然が random に作用して最終的な幸福という Harvest が得られたと、そういうことだろうか。

映画の中でチャールズ・レイニアの実家として Random Hall という立派なお屋敷が登場する。たぶんタイトルに引っ掛けた名称だろうが、英国ホーシャムには同名の古いB&Bホテルがあって、もしかするとそれを意識したのかもしれない。

ところで、DVDの特典映像として Don't TalkMarines in the Making なる短篇2本が収録されている。おそらく本篇と併せて上映されたものと思われるが、いずれも戦時下における米国民向けの啓発映画で、これが日本版DVDにも収録されている理由は不明である。

前者は民間工場の従業員といえども情報を妄りに口外せず、スパイ活動防止に協力すべきことをサスペンス映画仕立てで訴える。後者は海軍における軍事教練の模様を具体的に紹介するという実録もので、背後から黙って襲撃してくる日本兵への対処方法などというのもある。

総天然色の超大作『風と共に去りぬ』ほどではないにしても、細かいところまでピントの合った美しい映像と粋な音楽で綴られた本篇を鑑賞するのと合わせ、観客は単なるプロパガンダではない、戦時体制に関する具体的な知識も得る。そんな国を相手に、日本人はいざとなれば竹槍で戦えると信じていたのである。

8月26日 ジョグ2キロ

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2020/08/16

When I'm Sixty-four

映画「ガープの世界」のオープニングとエンディングは、裸の赤ん坊が青空を浮遊する印象的な映像が使用され、そのバックにビートルズの When I'm Sixty-four が流れる。まるでこの映像のために作られたのではないかと思うほどピッタリな選曲に舌を巻く。

歌の内容は、「年をとって髪が薄くなっても・・・君はまだ僕を必要として、僕にご飯を作ってくれるかな。僕が64歳になっても」といったもので(need と feed で韻を踏んでいる)、この歌の作曲当時64歳なんて遥か彼方の将来で、これはもう幾久しく変わらぬ愛を歌ったと考えて良いだろう。

作詞作曲はレノン=マッカートニーとなっている。ジョン・レノンは40歳で凶弾に斃れたが、ポール・マッカートニーは64歳をとっくに過ぎた78歳の今も相変わらず元気でご活躍のようだ。

ところで、映画の主役を務めたロビン・ウィリアムスは、薬物やアルコール依存などの病気を抱えた末に自殺したとされるが、死亡時の年齢は63歳を迎えた直後だった。「64歳になっても」とはいかなかったわけだが、この映画を観たあとでは「それが紛れもなく彼の人生だったのだ」と思えてならない。

時代と場所は全く異なるが、作曲家ヨハネス・ブラームスも64歳を前に癌で亡くなっている。彼の場合はあと約1か月で64歳になるというところだったが、当時の平均寿命はそんなものだったのかもしれない。

さて、自分は64歳まであと2年と3か月だ。64歳に特段の意味があるわけではないが、そこまで頑張ってみようかという目標にはなるかもしれない。64歳になっても、まだ音楽を聴き、オペラや映画を観ているだろうか。まだ少しは走って・・・ま、これはどうでもいいか。(笑)

8月16日 ジョグ2キロ

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2020/08/13

『ガープの世界』

Tsgarp1982年、米。ジョージ・ロイ・ヒル監督。ロビン・ウィリアムス主演。Yahoo! 映画の紹介文。

看護婦のジェニーは、男には束縛されず子供だけが欲しいという思いから、病院に運び込まれた傷病兵と一方的にセックスする。やがて生まれた子供はガープと名づけられた。思春期を迎えた学生ガープは、所属するレスリング部のコーチの娘ヘレンに恋をする。だがある日、ジェニーとガープは突然ニューヨークへ発ってしまう。親子は揃って小説家を志すようになり、ジェニーはウーマン・リブのベストセラー作家となる。ガープも作家の才能が開花し、へレンと結婚。子供も授かり、順風満帆な人生を送るかにみえたのだが…。(引用終わり)

ジョン・アーヴィング(レスリングのレフェリー役でカメオ出演)原作の同名小説を映画化。出生の経緯からして普通でない主人公の、あらゆる想像を超えた摩訶不思議な一生を辿る。

その一例がジャケット写真である。ガープとヘレンが新婚の住まいに契約しようとした家に、何と小型機が激突するのである(無傷で現れたパイロットはヒル監督のカメオ出演)。

これほど不吉なことはないと他を当たると思いきや、茫然とするヘレンや不動産屋に向かって、ガープは「この家に再び飛行機が衝突する確率は天文学的に小さい」と喜び、そのまま契約するのである。

一事が万事、思いも寄らぬ展開の連続に唖然とするうちに、ハチャメチャとも破天荒とも、何とも形容しがたい主人公の人生は唐突に終わりを迎える。その前の彼の述懐が意外に深い。

「過去の人生が一つの弧を描いてて、出来事が次の出来事につながってる。1本の線だ」

どれだけ奇想天外な出来事、悲惨な出来事であろうと、振り返ってみればその全てに意味がある。なぜなら、その繋がりの全体こそが人生に他ならないのだから。

人生かくあるべし。そこから外れたら軌道修正が必要だ。そういう普通の生き方、言うなれば道徳的な価値観、世界観に対するアンチテーゼのようである。原題の The World according to Garp とは、そうした「ガープ流の世界観」といった意味なのだろう。

それを開き直りと非難することは可能だけど、究極のプラス思考と言うこともできる。どちらが素晴らしい人生か。ロビン・ウィリアムスの底抜けの笑顔を見れば、答えは自ずと明らかである。曰く「人生は冒険だ」と。

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2020/07/08

『プリティ・ウーマン』

Prettywoman1990年、米。リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ。ご存じ、王道シンデレラ・ストーリーのロマンチックコメディ。映画ドットコムの紹介文。

ハリウッドの娼婦ビビアンは偶然知り合ったウォール街の実業家エドワードにひと晩買われる。ビビアンに興味を持ったエドワードは1週間の契約を結ぶ。エドワードにとってはほんの気まぐれ、ビビアンにとっては最高のお客。その2人がいつしか惹かれ合い……。(引用終わり)

今日的な観点からすると性差別として非難されかねない内容を含むが、これまで目立った批判は出ていないようだ。ビビアンが明確な個性を持つ自立した一人の女性として登場し、エドワードはまさにそこに惹かれるという設定と、何よりもこの二人の微笑ましい恋愛プロセスを描く軽妙なタッチが、そうした批判から免じさせているのだろう。

ついさっきまで街頭で客引きをしていた娼婦が、通行人も振り向くようなレディに見事に変身する。作品の中でも言及される「シンデ**レラ」や、『マイ・フェア・レディ』を下敷きにしたようなストーリーだが、1週間3000ドルの契約で同居を決めるあたりがいかにも現代風で、もともと脚本のタイトルは『$3000』だったそうだ。

ところで、エドワードからビビアンへのサプライズプレゼントとして、LAからサンフランシスコまで小型機で飛び、オペラを観に行くというシーンがある(LAにはオペラハウスがないため)。演目はヴェルディの名作「椿姫」である。パリの高級娼婦だった主人公ヴィオレッタが、青年貴族アルフレードとの真実の恋に目覚める物語は、まるで本作のストーリーと二重写しのようだ。これが伏線となって、エドワードがビビアンを迎えに来るラストシーンを、名アリア「ああ、そはかの人か」が盛り上げる。

7月8日 ジョグ4キロ

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2020/06/29

『トゥルーマン・ショー』

Trumanshow1998年、米。ジム・キャリー主演。映画ドットコムの紹介文。

離島の町シーヘブンで生まれ育った男トゥルーマン。保険会社で働きながら、しっかり者の妻メリルと平穏な毎日を送る彼には、本人だけが知らない驚きの事実があった。実はトゥルーマンは生まれた時から毎日24時間すべてをテレビ番組「トゥルーマン・ショー」で生中継されており、彼が暮らす町は巨大なセット、住人も妻や親友に至るまで全員が俳優なのだ。自分が生きる世界に違和感を抱き始めた彼は、真実を突き止めようと奔走するが……。(引用終わり)

TVはニュースぐらいしか見ないので全く知らなかったのだけれど、リアリティショーというジャンルの番組が近年世界各地のTVで人気を博しているそうである。事前の台本や演出がなく、予測不可能で困難な状況に一般人出演者が直面する様子を、ドキュメンタリーやドラマのように楽しめる番組なのだそうだ。

しかし、この映画では主人公だけがその設定を知らされておらず、逆に彼以外は妻や親友も全て俳優で、行動からセリフまで全て指示されている。実際のTV番組ではさすがにそこまでやらないだろうが、その極端さこそが本作の面白いところだ。

生まれてから30年、つい最近に至るまで自分が置かれている環境に違和感はなかったのかなど、突っ込みどころは多々あるけれど、真実を求めて動き出した彼の勇気と行動力には思わず拍手を贈りたくなる。その様子を変に深刻ぶらず、明るく快活に演じ切ったジム・キャリーのキャラクターがいい。

一応の決着がついて番組は終了となるが、その瞬間に視聴者は「他の番組を」「『TVガイド』は?」と早くも他の番組を物色する。リアリティとか何とか言っても、結局TVというのは面白ければそれでいい「見世物」なのだ。別にそれが悪いとは言わないけれど。

6月29日 ジョグ2キロ
月間走行  9キロ

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2020/06/26

『ワンダーストラック』

Wonderstruck 2017年米。ブライアン・セルズニック原作の同名小説を映画化。トッド・ヘインズ監督。KINENOTE の紹介文。

1977年、ミネソタ。母親を交通事故で亡くし、おばさんのもとで暮らしている少年ベン(オークス・フェグリー)。実父を知らないベンは、母の遺品から父のある手がかりを見つけ出す……。その50年前の1927年、ニュージャージー。両親が離婚し、厳格な父に育てられている聴覚障害を持つ少女ローズ(ミリセント・シモンズ)は、いつも孤独を感じていた。そんなローズの宝物は、憧れの女優リリアン・メイヒューの記事を密かに集めたスクラップブックだった……。そしてある日、ベンは会ったことのない父を探しに、ローズは憧れの女優に会うために、それぞれニューヨークへと向かう。異なる時代に生きたふたりの物語は、やがて謎めいた因縁で結びつけられ、ひとつになっていく……。(引用終わり)

KINENOTE の分類では「サスペンス・ミステリー」とあるが、むしろ「ファンタジー・ヒューマン」と言う方が相応しい作品ではないかと思う。ベンとローズそれぞれの物語が、50年の時を越えて頻繁に行ったり来たりする構成に最初は戸惑うものの、NY自然史博物館という共通の場所に収斂していく辺りから目が離せなくなる。

秀逸なのは1927年と1977年、それぞれの時代を見事に再現した映像である。前者はモノクロでセリフは一切なし、劇伴が効果音を兼ねるサイレント映画風の作りになっているが、要所では聴覚障害者のローズが筆談で会話するため、大体のストーリーは理解できる。

一方、後者はいかにも70年代という感じのチープな色調で、ヒッピー風の若者が気怠そうに町を闊歩する、ベトナム戦争後のNYの街頭風景を映し出す。改装前のポートオーソリティ・バスターミナルの内部など、年代物のセブンアップの自販機が置かれていたり、一体どうやって撮影したのかと驚いてしまった。

さて、ひょんなことから自然史博物館に迷い込んだベンは、父親がそこで働くジェイミーという少年と仲良くなり、彼の情報を頼りに謎解きのカギとなるキンケイド書店に辿り着くことになる。少しだけネタバラシになるが、1927年のローズに兄から届くハガキにそのヒントがあるのだが、字幕は敢えてかどうかそこを訳していないので要注意である。

そこからラストにかけて、50年の時を繋ぐ因縁が順を追って明かされていき、冒頭のベンの悪夢をはじめとする様々な伏線が見事に回収されていく。全てが腑に落ちたとき、何とも言えない静かな感動が胸に迫ってきて、美しいラストシーンが全体を締め括る。子供から大人まで、観る者の心に温かいものを残す秀作である。

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2020/06/17

『ロング・エンゲージメント』

Engagement2004年仏。『アメリ』と同じ、ジャン=ピエール・ジュネ監督、オドレイ・トトゥ主演。アマゾンの紹介文。

第一次大戦下のフランス。前線の塹壕を5人の兵士が連行されて行く。過酷な戦場から逃れるため自らの身体を傷つけたフランス兵たちだ。彼らは刑のかわりにドイツ軍の標的となるような敵陣との中間地点に置き去りにされた。そのなかの最も若い兵士がマチルドの婚約者マネクだった。
終戦後も全く音沙汰のないマネクの安否を気づかうマチルドのもとに、戦場で彼に出会ったというエスペランザから手紙が届く。その日からマチルドの懸命な捜索が始まった。プロの探偵を雇い、新聞に告知を出し、必死に捜索を続けるマチルド。兵士たちの知人など関係者が浮かぶたびにどこにでも出向き、さまざまな出会いと証言を重ねていく。
だがマネクの最期を見たものは一人もいない。「マネクに何かあれば、私にはわかるはず---」果たして、その愛の直感は、奇跡を起こし、マチルドを彼へと導くのか?(引用終わり)

戦争で生死行方ともに不明になった恋人を探し求めるという単純なストーリーだけれど、登場人物の人間関係がかなり複雑で、そこを押さえておかないとマチルドの捜索の内容が分からない。『アメリ』でもそうだったが、この監督の作品は説明が極端に少ないので、最初観たときは途中でついていけなくなり、再度メモを取りながら観直す破目になった。

しかし、それだけの価値はある作品だ。悲惨な戦争に引き裂かれた男女の愛。マチルドは小児麻痺の体をおして恋人を探し求めるが、別の女性は恋人を殺した人間への復讐に執念を燃やす。やむを得ない事情で不倫に至ってしまった過去を隠して生きる未亡人、別人に成りすまして密かに戦後を生き延びる元兵士もいる。

そういった様々なエピソードが、ひとつひとつ丁寧に描かれているけれど、それがセリフによる説明ではなく、美しい映像によって直感的に表現されているのが本作最大の特徴であろう。ラスト近く、マチルドが川岸の東屋で化粧直しするシーンは、ルノアールの絵画のような美しさに圧倒される。また、畑の中で農夫が兵隊に徴用される僅か十数秒のシーンですら強い印象を残すが、そのためにわざわざ麻を一から栽培し、ヘリで草を揺らして撮影したというから恐れ入る。

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