2021/01/15

『嘘八百 京町ロワイヤル』

Royal 2020年、製作委員会。中井貴一、佐々木蔵之介、広末涼子ほか。アマゾンの紹介文。

贋物仕事から足を洗った古美術商・小池則夫と陶芸家・野田佐輔。京都と堺でそれぞれ再出発をしたのも束の間、あるTV番組に過去をスッパ抜かれて開運人生に暗雲が。そんな則夫の前に現れたのは謎の京美人・橘志野。千利休の弟子にして「天下一」と称された古田織部の幻の茶器≪はたかけ≫を騙し取られたと聞くと、堺から佐輔を呼び寄せ、愛と正義の贋物作戦。ところが、その茶器の背景にはとてつもない陰謀がうずまいていた…。(引用終わり)

前作『嘘八百』の続篇で、古美術商則夫と陶芸家佐輔がタッグを組み、過去を暴かれ恥をかかされた相手に一泡吹かせるという展開は前作同様である。そこに謎の美女志野が絡んで、復讐劇はさらに大仕掛けで手の込んだものになっている。そのクライマックスの場面は、実際に東本願寺渉成園で撮影されたそうである。

何といっても主人公二人の遣り取りが絶妙のテンポ感で面白く、彼らと加藤雅也や友近など脇役陣との絡みは笑える。ユーモアということでは、Ⓒの表記についてのお遊びも前作を踏襲している。

ところで、本作はある人物が豪華客船ダイヤモンド・プリンセスに乗船する場面で終わる。本作の公開は2020年1月31日。3日後の2月3日に横浜港に到着した同船に、その後何が起こったのかについては、今さら言うまでもないだろう。嘘でもハッタリでもない、この本物の偶然を一体誰が予想しえただろう。

なお、その船の映像をバックに、「つづく」…「かも」という字幕が現れ、さらなる続篇の製作が示唆されている。次はどんな「嘘」が見られるだろうか。

| | コメント (4)

2021/01/09

『グラン・トリノ』

Grantorino2008年、米。クリント・イーストウッド監督、主演。アマゾンの紹介文。

妻に先立たれ、一人暮らしの頑固な老人ウォルト。人に心を許さず、無礼な若者たちを罵り、自宅の芝生に一歩でも侵入されれば、ライフルを突きつける。そんな彼に、息子たちも寄り付こうとしない。学校にも行かず、仕事もなく、自分の進むべき道が分からない少年タオ。彼には手本となる父親がいない。二人は隣同士だが、挨拶を交わすことすらなかった。ある日、ウォルトが何より大切にしているヴィンテージ・カー<グラン・トリノ>を、タオが盗もうとするまでは――。
ウォルトがタオの謝罪を受け入れたときから、二人の不思議な関係が始まる。ウォルトから与えられる労働で、男としての自信を得るタオ。タオを一人前にする目標に喜びを見出すウォルト。しかし、タオは愚かな争いから、家族と共に命の危険にさらされる。彼の未来を守るため、最後にウォルトがつけた決着とは――?(引用終わり)

クリント・イーストウッド演じる頑固老人ウォルトの姿を見ていて、トランプ大統領の岩盤支持層というのは、恐らくこういう人たちで構成されているのだと思った。朝鮮戦争退役後はフォードの工員を長年勤め上げ、グラン・トリノに代表されるアメリカ車に限りない愛着を持つ。日本車なんてクソくらえだ。

アフリカ系、アジア系の人間への差別意識を隠そうともせず、タオやその姉スーを含むモン族の一家が隣に越してきたことを、当初はあからさまに毛嫌いしていた。しかし、タオが不良グループにけしかけられてウォルトのグラン・トリノを盗もうとしたことから、ウォルトとの不器用な交流が芽生える。

家のメンテナンスを教えるところから始まったそれは、やがて仕事口の世話や、男らしい喋り方、生き方の伝授にまで及ぶようになる。ウォルトの遺産だけが目当てで擦り寄ってくる実の家族よりも、ウォルトにとってタオは実の息子か孫のような存在になっていく。

そして、タオ一家が不良グループに襲撃された復讐として、ウォルトは命をかけた合法的な反撃を企て、それは見事に成功する。そのラストに至るまでの伏線の張り方、緊迫感の高め方は、映画人クリント・イーストウッドの総決算のような趣きがある。これまで観てきた彼の作品中、文句なしのベストと呼びたい。

| | コメント (4)

2021/01/03

『約束のネバーランド』

Neverland2020年、製作委員会。浜辺美波、北川景子他。公式サイトの紹介文。

幸せに満ち溢れた楽園のような孤児院、「グレイス=フィールドハウス」。そこで暮らす孤児たちは、母親代わりでみんなから“ママ”と呼ばれている、イザベラ(北川景子)のもと、里親に引き取られる年齢になる日を待ちわびていた。エマ(浜辺美波)、レイ(城桧吏)、ノーマン(板垣李光人)の3人も、いつか外の世界で暮らすことで、より幸せな日々がやってくると信じていた。“その日”がくるまでは……。
里親が見つかり、孤児院を笑顔で後にするコニーを見送ったエマとノーマンは、彼女が肌身離さず抱きしめていた人形が、食堂に落ちているのを偶然見つける。忘れ物の人形を届けるため、決して近づいてはいけないと、ママから教わっていた「門」に向かった2人がそこで目にしたのは、無残にも命を奪われ、食料として出荷されるコニーの姿だった。
そう……、みんなが「楽園だと信じていた孤児院」は、実は「鬼に献上する食用児を育てる農園」で、さらには母親のように慕っていたママは、「最上級の食用児を育てる飼育監」だったのだ。全てが偽りだったと気がついた3人は、孤児たち全員を引き連れた、無謀ともいえる脱獄計画をスタートさせる……。(引用終わり)

原作は『週刊少年ジャンプ』連載の同名コミックで、既にTVアニメ化されているが、その「禁断の実写映画化」という触れ込みである。公式サイトを見る限り原作者が映画化に反対していたという記述はなく、何ゆえに「禁断」なのかは不明であるが(笑)。どちらかと言えば若い人向けの作品で、還暦を過ぎたオジサンが観るべきものではなかったかもしれない。

紹介文からも分かるように、一見するとカズオ・イシグロ原作の『わたしを離さないで』に似たストーリーであるけれど、イシグロ作品が医療の進歩と臓器移植といった重い問題提起を含んでいるのに対して、「外」の世界を支配する鬼に食べられるという本作の設定は、ファンタジックとも荒唐無稽とも言え、コミックの世界ならではなのかもしれない。

北川景子の悪役は『探偵はBARにいる3』以来か。美女であればあるほど悪役は冴えるという見本みたいな演技はさすがだった。これに対し、主役エマを演じた浜辺美波は、明るく健気という単純なキャラ設定にとどまり、内面の迷いや懊悩などがほとんど窺えないのは残念だ。その他、公式サイトでは伏せられているサプライズ・キャスト(?)が終盤に登場し、ちょっと驚いた。

| | コメント (0)

2020/12/16

『ミザリー』

Misery1990年、米。ロブ・ライナー監督。ジェームズ・カーン、キャシー・ベイツ他。映画ドットコムの紹介文。

ベストセラー小説「ミザリー」シリーズの人気作家ポール・シェルダンは、雪道で事故に遭い瀕死に陥ったところを、近くに住む元看護師の中年女性アニーに救われる。「ミザリー」シリーズの熱狂的な愛読者である彼女は、両足を骨折したポールを献身的に介護するが、新作でヒロインが死んだことを知ると逆上して態度を一変。命の危険を感じたポールは脱出を試みるが……。(引用終わり)

スティーヴン・キング原作の同名小説の映画化。両足を骨折したまま山中の一軒家に閉じ込められ、異常性格をもつ「愛読者」の女性に支配され虐待される作家の恐怖を克明に描いたサイコサスペンス。

舞台出身の女優キャシー・ベイツは、一見普通だが突如として態度を豹変させる元看護師役で迫真の演技をみせ、アカデミー主演女優賞を獲得した。「足潰しの刑」について淡々と説明した後、何の躊躇もなく実行する様子には鳥肌が立った。

一方、その家から一歩出た外の世界との対照が面白い。行方不明になった作家の捜索に当たる保安官バスターと、その妻ヴァージニア(原作にはない映画だけのキャラクター)の遣り取りは微笑ましく、普段は平穏な町で起きた事件の陰惨さを際立たせる演出となっている。

他に、作家のエージェントとして、かつてハンフリー・ボガートと数々の作品で共演したローレン・バコールが出演。相変わらずのクール・ビューティーぶりで、NYの敏腕編集者役にドンピシャだった。

| | コメント (2)

2020/12/13

『サイレント・トーキョー』

War_is_over2020年、製作委員会。秦建日子の小説を映画化。佐藤浩市、石田ゆり子他。公式サイトの紹介文。

12月24日、東京。恵比寿に爆弾を仕掛けたとTV局に電話が入る。半信半疑で中継に向かった来栖公太は、そこにいた主婦・山口アイコとともに犯人の罠にはまり、実行犯へと仕立てられてゆく。その様子を朝比奈仁が静かに見つめるなか、爆発は起きた。そして次の犯行予告が動画サイトに上げられる。「標的は渋谷・ハチ公前。要求は首相との生対談。期限は午後6時」。独自の捜査を行う刑事・世田志乃夫と泉大輝、不可解な行動をとるIT企業家・須永基樹、イヴの夜を楽しみたい会社員・高梨真奈美、そして一帯を封鎖する警察、事件を一層煽るマスコミ、騒ぎを聞きつけた野次馬たち。様々な思惑が交差する渋谷に“その時”が訪れる。それは、日本中を巻き込む運命のXmasの始まりだった。(引用終わり)

犯人が要求した「首相との生対談」で取り上げるはずだったテーマは、前安倍政権が推進した安全保障法制についてであり、本作はその安保法制に反対するメッセージが明確に籠められている。むしろ、パニック映画に仮託した反戦映画とさえ言えるかもしれない。

人畜無害(笑)の当ブログとして安保法制の問題に踏み込むことは避けるが、パニック映画としてはなかなかよく出来た作品であると思う。特筆すべきはヤマ場となる渋谷スクランブル交差点での爆破シーンで、栃木県足利市に実物大の交差点のセットを建造し(背景の建物等はCG)、多数のエキストラを動員して撮影されたそうで、実際に渋谷でロケしたようなリアリティに溢れている。

ただ、TV放映時のカットを避けるためか99分という尺に収めたことにより、登場人物の過去や相互関係に関する説明が不足しているのと、上に引用した紹介文の中に、犯人を誤認せしめる不正確な記述が含まれているのは残念である。

| | コメント (2)

2020/12/04

『ドクター・スリープ』

Drsleep2019年、米。キューブリック監督により映画化されたS・キング初期の代表作『シャイニング』から36年後、キング自身が発表した同名の続篇小説を映画化したもの。マイク・フラナガン監督。WOWOWの紹介文。

山奥にあるオーバールックホテルで冬だけの管理人になった父親ジャックが狂気にとらわれ、妻や幼い息子ダニーらに襲い掛かる惨劇を起こしてから約40年後。大人になったダニーは今も惨劇のトラウマに苦しむがホスピスで働き、“シャイニング(輝き)”と呼ぶ超能力で患者たちを癒やし、周囲から“ドクター・スリープ”と呼ばれる。そんなダニーの“シャイニング”はかつて会ったことがない少女アブラからのSOSを感じ取り……。(引用終わり)

小説としては同じ作家の続篇であっても、さすがに映画化されたものはそう単純にはいかない。前作が魑魅魍魎の跋扈するホテルでの恐怖体験を味わわせる純粋サスペンスものであるのに対して、本作は超能力者同士の対決を軸としたアクション・ホラーといった趣が強く、善悪の区別が明確なだけに結末の予想を含めてある意味安心して観ていられる。

もちろん、ただ単純に前作を踏まえた続篇というだけでなく、前作では曖昧なままになっていた「魑魅魍魎」の正体に踏み込んだ上で、それとの命を懸けた対決により、40年前の惨劇に最終決着をつけるという伏線回収が試みられている。

主演のユアン・マクレガーは、トラウマを抱えたダニーという人間の弱さ、それを克服するための涙ぐましい努力、そして遂に自分自身で問題を解決するまでの過程を説得力豊かに表現している。

一方、アブラと彼をつけ狙う謎のオカルト集団(?)の首魁、ローズ・ザ・ハットを演じたレベッカ・ファーガソンの魔女ぶりは背筋が寒くなるほどで、やはりこの手の映画はいい悪役がいないと締まらないと思った。

| | コメント (0)

2020/11/28

『リチャード・ジュエル』

Jewel2019年、米。クリント・イーストウッド監督。Wikipedia の紹介文。

1996年7月27日、警備員のリチャード・ジュエルはアトランタ五輪の会場近くの公園で爆発物を発見した。リチャードの通報のお陰で、多くの人たちが爆発前に避難できたが、それでも2人の死者と100人以上の負傷者を出す大惨事となった。
マスメディアは爆発物の第一発見者であるリチャードを英雄として持ち上げたが、数日後、地元紙が「FBIはリチャードが爆弾を仕掛けた可能性を疑っている」と報じた。それをきっかけに、マスメディアはリチャードを極悪人として糾弾するようになった。
FBIはリチャードの自宅に2回も家宅捜索に入り、彼の知人たちにも執拗な聞き込みをするなど常軌を逸した捜査を行った。ジュエルはかつての職場で知り合った弁護士ワトソン・ブライアントを呼び出し、彼と共にこの理不尽な状況と対峙していくことになる。(引用終わり)

リチャードは大変正義感が強く、一時は副保安官の職に就いていた。警備員の薄給で老母を養う今も、いずれは警官になりたいと願っているが、FBIはそうした彼の性向をある種の英雄願望と結び付けて嫌疑を強める一方、事情聴取での彼の協力を引き出す材料にしたりもする。

状況証拠だけで被疑者を拘束し、誘導尋問で自供を引き出そうとする杜撰な捜査を、あのFBIが本当に続けたとは信じがたいが、その情報がリークされてマスメディアの餌食になった瞬間から、リチャードは英雄から極悪犯罪人へと境遇が一変する。

もし同じような事件が、人々の情報網がSNSなどを含めて多様化する一方で、現職大統領がマスメディアを「フェイクニュース」と平気で断じる現在に起きていたらと思うと、真偽入り乱れた情報の混乱は想像すらつかない。

1996年に実際に起きた事件を題材に取りながら、イーストウッド監督が突き付けているのは、まさに現代に生きる我々が本当の意味での情報の取捨選択能力を持ち得ているのか、もしそうでないならどうすれば良いのかといった深刻な課題であると思う。

俳優陣では、主人公リチャードを演じたポール・ウォルター・ハウザーが本人にそっくりと話題になったそうだが、その母親ボビを演じたキャシー・ベイツがさすがの貫禄を見せていて、事件解決への分水嶺となった終盤の記者会見のシーンは圧巻だった。一匹狼の弁護士ワトソンを飄々と演じたサム・ロックウェルも好演、笑いをかみ殺しながらリチャードとともにFBIから揚々と立ち去るシーンが最高だった。

| | コメント (0)

2020/11/17

『ドクター・デスの遺産 BLACK FILE』

Drdeath2020年、製作委員会。綾野剛、北川景子ほか。公式サイトの紹介文。

「苦しむことなく殺してさしあげます。」ある闇サイトで依頼を受け、人を安楽死させる連続殺人犯ドクター・デス。その人物の存在が明らかになったのは、「お父さんが殺された。」という少年からの通報がきっかけだった。警視庁捜査一課のNo.1コンビ犬養(綾野剛)と高千穂(北川景子)は、さっそく捜査を開始。すると似たような事件が次々と浮上する。捜査チームのリーダー麻生(石黒賢)、新米刑事の沢田(岡田健史)、室岡(前野朋哉)、青木(青山美郷)と共に事件の解明を急ぐが、被害者遺族たちの証言は、どれも犯人を擁護するものばかりだった。ドクター・デスは本当に猟奇殺人犯なのか? それとも救いの神なのか? そして、驚愕の事実と更なる悲劇が犬養と高千穂に降りかかる。(引用終わり)

つい最近、京都でALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者を安楽死させたとして医師2人が逮捕される事件が起きた。亡くなられた患者や家族への配慮からだろう、この映画の公開に合わせて事件が言及されることはないようだけれど、あまりの偶然に驚かざるをえない。

中山七里の原作は既に読んでいたので、真犯人や事件の全容を把握した上での鑑賞となったが、スピード感溢れるクライム・サスペンス映画として、最後まで飽きさせない作品に仕上がっていると思う。男女の変則的バディものという原作の設定をうまく利用していて、綾野剛と北川景子が息のあった共演ぶりを見せていた。

ただ、原作では安楽死問題の本質的な部分について、より掘り下げた記述があったと記憶するが、さすがに映像作品でそこにどこまで踏み込むかは難しく、本作ではその部分に関しては不十分と言えば言える。しかし、それはあくまで原作との対比においてであり、中途半端な問題提起に止まるぐらいなら、映画としては基本的にサスペンスものとして割り切ってしまった方が良いとの判断があったのではないか。

さて、明日から日光・中禅寺湖方面に Go To してくるので、次回更新までしばしお待ちを。

| | コメント (0)

2020/11/11

『炎上』

Enjo1958年、大映。市川崑監督。市川雷蔵、中村鴈治郎、仲代達矢ほか。実際の放火事件に題材を取った三島由紀夫の名作『金閣寺』を映画化したもので、金閣(寺の猛反発を受けて映画では驟閣(しゅうかく)に変えている)の美に憑かれた挙句、これに放火焼失させた学僧の生い立ちから最期までを描く。アマゾンの紹介文。

昭和19年春、溝口吾一は田山道詮老師が住職を務める京都の驟閣寺に、徒弟として住み込むようになった。吾一にとって驟閣はこの世で最も美しいものであり、信仰に近いまでの憧憬の念を抱いていた。だが戦後、観光地と化した寺の経済は潤い、老師の生活も一変する。吾一の違和感は絶望へと変わり、やがて破局を迎える——。(引用終わり)

今年は三島の歿後50年に当たる。また、小池真理子がエッセイの中で三島文学のことを何度となく書いていたのに感化されて、これまで読んだことがなかった彼の小説から、代表作『金閣寺』を読んでみたのだけれど、正直言って読み通すだけで大変骨が折れた。

風景描写などでの文章の美しさ、巧みさを感じさせる箇所は少なくないものの、主人公の屈折した心理を、凝ったレトリックと比喩、逆説的な表現で描写している部分は、あまりに凝り過ぎて何を言っているのかよく分からない。

それならばと、別の角度からこの小説を味わうべく、三島本人も「手ばなしで褒めた」という本作を観てみることにした。結論的に言えば、現実の放火事件と、それを題材にした小説、それらを下敷きにした本作映画と、虚実3通りの世界が存在しているように感じた。

郷里の官能的で美しい娘・有為子に軽蔑された記憶や、学友・柏木に紹介された女性たちとの気まずい体験といった、小説世界では主人公の人生(女性)体験の重要な鍵となるエピソードが映画ではバッサリ省かれ、逆に小説では書かれなかった逮捕後の顛末について、映画では冒頭と最後で詳しく描写している。より現実の出来事に近づけた構成というべきだろうか。

大覚寺の境内に金閣に似せて建築した驟閣を、実際に炎上させて撮影したクライマックスは、60年以上も前のモノクロ映像とは思えないほどの迫力がある。それ以外でも、たとえセリフがなくても、陰影に富んだ美しい映像が語りかけてくるものは言葉以上に雄弁だ。

本作でトップスターとしての地位を確立した市川雷蔵は、以降も立て続けに名作映画を残したが、転移性肝癌のため昭和44年に37歳の若さで急逝した。

あの壮絶な三島割腹自殺事件は、その翌年のことである。

| | コメント (2)

2020/11/05

TVドラマ版『恋』

Tbs原作に続いて、2013年12月にTBS系列で放送されたTVドラマ版を観てみた。ドラマの出来については小池氏も太鼓判を押したそうで、確かに原作にほぼ忠実に映像化されていて、109分の尺の中に小説のエッセンスがうまく収まっている。勝也との最初の出会いや、最後のマルメロのエピソードについては若干設定を変えているものの、「こういうのもアリかな」と思わせる巧みな改変だ。

俳優陣では雛子役の田中麗奈がピッタリで、気怠さを漂わせながら自由奔放に生きる元子爵令嬢を完璧に演じていた。信太郎役の井浦新、勝也役の斎藤工も文句ないところだが、主役布美子の石原さとみが表情、セリフともやや単調な演技に終始していたのは残念である。

ところで、本ドラマはDVD化されておらず、TBSオンデマンドからレンタルして観るという形になった。オンデマンド配信は初めての体験で手探り状態だったが、TVにLANケーブルを繋いでインターネット接続が出来ること、PCを介さず直接TVで動画配信が受けられること、ADSL回線でも安定したHD映像が観られること。そうしたことを今回初めて知って良い勉強になった。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧