2022/05/28

『大河への道』

Taiga_20220528085501 2022年、「大河への道」フィルムパートナーズ。公式サイトの紹介文。

千葉県香取市。市役所の総務課に勤める池本保治(中井貴⼀)は、市の観光振興策を検討する会議で意見を求められ、苦し紛れに⼤河ドラマ制作を提案。思いがけずそれが通り、郷土の偉人、伊能忠敬を主人公とする大河ドラマの企画が立ち上がってしまう。ところが企画を進めるうちに、⽇本地図を完成させたのは伊能忠敬ではなかった!?彼は地図完成の3年前に亡くなっていた!という驚きの事実が明らかに……。江戸と令和、2つの時代を舞台に明かされていく⽇本初の全国地図誕生秘話。そこには地図を完成させるため、伊能忠敬の弟子たちが命を懸けて取り組んだとんでもない隠密作戦があった――。(引用終わり)

原作は立川志の輔の創作落語だが、伊能忠敬が地図完成の3年前に死去していたことが伏せられていたのは史実のようだ。実際、本作を観終えてから、肝心の「ちゅうけいさん」(地元千葉県香取市の人々は忠敬のことを親しみを込めてそう呼んでいるそうだ)が遺体でしか登場しなかったことに気づいた。

作品は忠敬の遺志を継いだ弟子たちや、それに共鳴しつつも幕府天文学者の立場との板挟みに悩む高橋景保(中井貴一)の奮闘ぶりを中心に描く。

落語が原作とあってクスリと笑わせるシーンも多いが、将軍の面前で忠敬の死が露見してしまう場面で、高橋が完成した地図を将軍に見せて感銘を与えるシーンには思わずこちらも涙ぐんでしまった。

おそらくロードショーで観る最後の映画となったが、それがとても良い「シャシン」で、さらに北川景子が女優としてまた一歩円熟味を増したことが確認できて(結局そこかい・笑)、決して万全とは言えない体調を押して観に行った甲斐があったというものだ。

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2022/05/04

『億男』

Oku 2018年、製作委員会。大友啓史監督。佐藤健、高橋一生ほか。KINENOTE の紹介文。

図書館司書の一男(佐藤健)は、兄が3000万円の借金を残して失踪して以来、夜もパン工場で働きながら借金を返済している。だがある日、窮屈に生きることしか選んでいない一男に愛想を尽かした妻の万佐子は、離婚届を残して娘・まどかと共に家を出てしまう。そんななか、突然一男は当選金額3億円という宝くじが当たる。これで借金を返せるだけでなく、家族の絆を修復することができるはず。
ところがネットを見ると、宝くじの高額当選者たちはみな悲惨な人生を送っているという記事ばかり。怖くなった一男は、大学時代の親友で、起業して億万長者となった九十九(高橋一生)にアドバイスを求めることに。久しぶりの再会と、九十九プロデュースの豪遊に浮かれて酔いつぶれた一男。だが翌朝目を覚ますと、3億円と共に九十九は姿を消していた。3億円と親友の行方を求めて、一男のお金をめぐる冒険が始まる……。(引用終わり)

Book 川村元気の同名小説(写真下)を映画化。映画のポスターとヴィジュアルの落差ありすぎ(笑)。それはともかく、紹介文などから、3億円を横領した親友九十九の行方を追い求める、一種のサスペンスものかと予想していたが全く違っていた。

九十九の関係者を当たって話を聞いていく中で、一男は「お金」というものの本質、それが人間をどう変えるかなど、これまで考えたこともなかった事柄と向き合うことになる。億などという大金と無縁で過ごしてきたフツーの人間の当惑、困惑ぶりを佐藤健が好演している。

金で買えないものはほとんどないけれど、しかし、金が全てを解決するとは限らない。そのことに思い至った一男の前に意外な結末が待ち受けていて、大きな円環を閉じるように本作は結末を迎える。

作中、大学の落語研究会に所属していた九十九が演じる落語「芝浜」がしばしば登場する。その内容を全く知らなかったのだが、観終わってから調べてみて、それが本作のストーリーと表裏一体となっていることに気がついた。知っていて観れば、ある程度結末の予想がついたかもしれない。

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2022/04/30

『ブラックバード 家族が家族であるうちに』

Blackbird 2019年、米・英。『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッチェル監督。公式サイトの紹介文。

ある週末、医師のポール(サム・ニール)とその妻リリー(スーザン・サランドン)が暮らす瀟洒な海辺の家に娘たちが集まってくる。病が進行し、次第に体の自由が利かなくなっているリリーは安楽死する決意をしており、家族と最後の時間を一緒に過ごそうとしていた。
長女ジェニファー(ケイト・ウィンスレット)は母の決意を受け入れているものの、やはりどこか落ち着かず、夫マイケル(レイン・ウィルソン)の行動に苛立ちがち。家族だけで過ごすはずの週末にリリーの親友リズ(リンゼイ・ダンカン)がいることにも納得がいかない。詳しい事情を知らなかった15歳の息子ジョナサン(アンソン・ブーン)も、この訪問の意味を知ることに。
長らく連絡が取れなかった次女アナ(ミア・ワシコウスカ)も、くっついたり離れたりを繰り返している恋人クリス(ベックス・テイラー=クラウス)と共にやってくるが、姉と違い、母の決意を受け入れられておらず、ジェニファーと衝突を繰り返す。大きな秘密を共有する家族がともに週末を過ごすなか、それぞれが抱えていた秘密も浮かびあがりジェニファーとアンナの想いは揺れ動き、リリーの決意を覆そうと試みる…。(引用終わり)

安楽死を扱った作品は邦画『ドクター・デスの遺産』以来だが、本作では安楽死そのものの是非とか、実行に至るまでの経緯などより、本人と家族との関係性や、それとどう最終的に折り合いをつけて「その時」を迎えるかという、ヒューマンドラマとしての色彩が濃い。邦題に付された副題もその辺りを考慮したのだろう。

性格が対照的な二人の娘の間で、積年の確執と対立が表明化してハラハラさせられるが、それに加えて本人の親友リズが同席していることの意味が明らかになって、ストーリーはさらに込み入ってくる。

しかし、最後は収まるところに収まって、本人の希望どおりの結末を迎えることになるわけだが、安楽死を実行するだけでも容易でないところに、残された家族のことも考え、後顧の憂いなく旅立っていった主人公の勁さを思った。

8人の登場人物がアメリカのニューイングランド地方と思われる風光明媚な海辺の家に集まり、そして別れていくだけの単調な展開ではあるが、スーザン・サランドン、ケイト・ウィンスレット、2人のオスカー女優の共演などで最後まで飽きさせない。ただ、タイトルの「ブラックバード」が何を意味するのか、少し調べてみたけれど分からなかった。

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2022/04/10

『すばらしき世界』

Opensky2021年、製作委員会。西川美和監督。役所広司、仲野太賀ほか。公式サイトの紹介文。

13年ぶりに出所した三上が見る新たな世界とは―。
私たち観客はテレビマン、津乃田の覗き見るかのような視点によって、主人公三上の一挙一動を目の当たりにしていく。一度ぶち切れると手がつけられないトラブルメーカーである半面、他人の苦境を見過ごせない真っ直ぐな正義感の持ち主。
はたして、私たちの身近にいてもおかしくない三上という男の本当の顔はどれなのか。そして、人間がまっとうに生きるとはどういうことか、社会のルールとは何なのか、私たちが生きる今の時代は“すばらしき世界”なのか。
幾多の根源的なテーマを問いかけ、また、社会のレールを外れた三上と接する市井の人々の姿にも目を向けた本作は、決して特殊なケースを扱った作品ではない。殺人という大きな事件に関わらなくとも、日常の小さなきっかけで意図せず社会から排除されてしまうことは、誰の身にも起こりうる。そんな今の社会の問題点を鋭くえぐり、観客それぞれの胸に突きつけてくるのだ。(引用終わり)

原案は佐木隆三の小説『身分帳』。公式サイトによれば、身分帳とは刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもので、三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。

映画ではその三上の生い立ちや犯罪歴を振り返りつつ、出所したその日に「今度こそは堅気になる」と決心した彼が、社会の現実との度重なる衝突を経て、やがて何とか適応していく過程をリアルに描く。

中でも、いわゆる反社会的勢力に一度でも身を置いた人間に対する社会の厳しい目に耐えて、自らの生活を成り立たせていかなければならない彼の苦悩が、役所広司の演技と表情を通じてひしひしと伝わってきた。

もちろん、暴力を肯定したり正当化するつもりは全くない。他人の弱みにつけ込んだり、危害を加えることを示唆して金銭を要求するなど、非合法行為を生業にする連中は社会から排除されなければならない。

しかし、一旦組織に入ってしまった人間の社会的更生、生活の再建といった深刻な課題を掘り下げたのが本作であり、そうしたテーマに無関心な観客にとっては、どうしようもない人間の自業自得、全くの他人事としか思えず、生理的な拒否反応すら示すだろう。そのことを的確に表現しているのが、TVプロデューサー吉澤(長澤まさみ)の次のような発言である。

「社会のレールから外れた人が今ほど生きづらい世の中ってないと思うんです。一度間違ったら死ねと言わんばかりの不寛容がはびこって。だけど、レールの上を歩いてる私たちもちっとも幸福なんて感じてないから、はみ出た人を許せない。本当は思うことは三上さんと一緒なんです。だけど排除されるのが怖いから大きな声は出さないんです」

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2022/04/04

『ひまわり』

Girasoli

1970年、伊。ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニほか。アマゾンの紹介文。

ナポリで幸せな結婚式を挙げたジョヴァンナ(ソフィア・ローレン)とアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)。だがアントニオは厳冬のソ連戦線に送られ、行方不明になってしまう。戦後、復員兵から夫の情報を集め、ひとりモスクワを訪ねるジョヴァンナ。だが、そこで見たものは、アントニオの新しい妻と可愛い娘の姿だった……!(引用終わり)

映画ネタは久々だ。映画史に残る名作とされ、有名なひまわり畑のシーンがウクライナ南部で撮影されたとあって、最近またリバイバル上映されるなど話題になっているので観てみた。

戦争によって引き裂かれた夫婦の運命を描き、ヘンリー・マンシーニの切ないテーマ曲が全篇を彩るが、ストーリー展開にやや無理があるのが気になった。

駅で偶然会った復員兵がアントニオと同じ部隊に所属していたり、ツテもなくモスクワを訪れたジョヴァンナがソ連政府の役人の案内でウクライナを訪れたり、行き当たりばったりでアントニオたちの暮らす家に行きついたり。脚本構成上必要な設定であるとはいえ、偶然にしては出来過ぎの感が強い。

ただ、鉄道ファンの一人としては、列車や駅がこの映画で重要な役割を担っているところが興味深かった。アントニオの出征シーン。ウクライナを訪れたジョヴァンナが列車の車窓から見る広大なひまわり畑。モスクワでついにアントニオに再会したものの耐えきれず、動き出した列車に飛び乗るジョヴァンナ。遠路イタリアまでジョヴァンナに会いに行ったアントニオが、諦めてソ連に帰ろうとしたら鉄道ストで足止めを食ったことから変わる展開。そして、出征時と同じ駅でのラストの別離シーンと、本作の要所要所で鉄道や駅が絡んでいるのだ。

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2022/02/08

『地獄の黙示録』特別完全版

Apocalypse1979年米。フランシス・コッポラ監督。マーロン・ブランド、マーティン・シーンほか。アマゾンの紹介文。

1960年代末、ベトナム戦争が激化するサイゴン。アメリカ陸軍情報省のウィラード大尉は、特別任務を命ぜられる。
それは、カンボジア奥地のジャングルで軍規を逸脱して“王国"を築いているカーツ大佐という人物を抹殺せよというものだった。4人の部下と巡視艇に乗り込んだウィラードは、カーツを求めてナン川をさかのぼり始める…。(引用終わり)

53分の当初未公開映像を加え、202分にも及ぶこの「特別完全版」は2001年に、さらには、これより20分短いデジタル修復版「ファイナル・カット」が2019年に製作されている。一粒で二度三度美味しいというのか、それだけコッポラ監督の思い入れに強い作品なのだろう。

軍用ヘリからワーグナー「ワルキューレの騎行」(ショルティ指揮・ウィーンフィル)を大音量で流しながらベトナムの村を焼き払うシーンがあまりに有名であるが、時間的な長さもさることながら、人間性を失わしめる戦争の狂気をリアルに描いたという内容に腰が引けていたが、一度は観ておかないとという気持ちで200分の長丁場に臨んだ。

意外なことにウィラードがカーツと直接対面することになるのは、冒頭約38分の「ワルキューレ」のシーンから延々約2時間、映画もほぼ終盤になってからである。どちらかというと、そこまでに積み重ねられる数々のエピソードの方が興味深かった。

とりわけ「特別完全版」で復元された、仏領インドシナ入植者のフランス人農場主一家のもとを訪れるシーンで、ベトコンは実はアメリカがこの地方からフランスを駆逐しようとして創設した組織だったという話は衝撃的だった。

そこへいくと、最後のカーツとの対決はあっけないというか、儀礼用の牛が登場した辺りからもう結末が見えてしまって興醒めだった。ウィラードの取り得た行動は、前任者のようにミイラ取りがミイラになるか、冷徹にミッションを完遂するか、ふたつにひとつだからだ。

しかし、全体的には200分の長さを感じさせない映画づくりはさすがに監督の手腕であろう。かつてカリフォルニアを訪れた時、コッポラが設立したワイナリーのメルローがとても美味しかったのを思い出すが、そうしたビジネス感覚にも恵まれた一種の才人なのであろう。

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2021/12/25

『ラブ・アクチュアリー』

Actually2003年、英、米。リチャード・カーティス脚本、監督。ヒュー・グラント、リーアム・ニーソン、エマ・トンプソン他。KINENOTE の紹介文。

12月のロンドン、人々は幸せなクリスマスを迎えようと、ささやかな夢を胸に毎日を過ごしていた。秘書に恋をした英国首相、義理の息子との関係に悩む父親、ポルトガル人のメイドと恋に落ちる小説家、夫の浮気に気付き、悶々とした日々を過ごす熟年の主婦、親友の恋人に思いをよせる新進画家、新曲のクリスマスソングに起死回生を賭ける元ロックスター——。クリスマスに人生のクライマックスを迎えることを、誰もが願っていた。そしてイブの夜、全てのドラマが、ハッピーエンドに向かって動き始めた。様々な人々の「愛」についての物語。(引用終わり)

映画ネタは久々だ。『ノッティング・ヒルの恋人』の脚本を書いたリチャード・カーティスの初監督作品である。初めてだけに撮影の勘所が十分掴み切れなかったのか、出来上がったフィルムは3時間半もあったそうで、これを80分もカットしないといけないのかと、監督自身頭を抱えたと特典映像で明かしている。(笑)

それぞれの事情を抱えた9組(片思い、三角関係を含む)が繰り広げる多彩なドラマが、クリスマスの5週前から同時進行する「グランドホテル形式」の作品。主要登場人物だけでも19名。冒頭に挙げた名優3人ですらとりわけて登場シーンが多いわけではないが、短時間のエピソードの中でもそれぞれに味のある演技を見せている(特に、我らがミスター・ビーンことローワン・アトキンソン!)。

事前にストーリーを読んだが、複雑な人間関係に頭がついていけず、ネットに出ていた人物相関図を参考に予習してから鑑賞したのは正解だった。結末については詳細に書けないけれど、どのカップルも概ねハッピーエンドでクリスマスを迎えることになるのは、ほぼ予想どおり。この季節にピッタリのハートウォーミングなラブコメディの佳作と言えよう。

ところで、『ノッティング…』で登場した日本ネタは本作でも健在で、ひとつはマークの画廊で開催された「ハダカのクリスマス」と題する個展の作者が Yushio Mahoto と日本風の名前(わざと間違えている?)になっている。もうひとつは英国首相がご機嫌で一人ダンスに興じているところをスタッフに見つかってしまった際に、「日本大使とのアポは4時に」と、さもどうでもよいことのように指示するシーンがある。監督自身の日本観の一端が窺えるようで興味深い。

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2021/10/26

『ノッティングヒルの恋人』

Nottinghill1999年、米。ロジャー・ミッチェル監督。リチャード・カーティス脚本。ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラント他。アマゾンの紹介文。

ビバリーヒルズに住む世界一有名な美人女優のアナが、イギリスでロケしている最中、西ロンドンのノッティングヒルで出会った旅行書専門書店主のウィリアムと恋に落ちる。育った環境も、現在の仕事も、まったく違う2人の恋はどう展開するのか? 名作『ローマの休日』を下敷きに、本当の恋を求め合う2人の姿をコミカルにつづる。(引用終わり)

リチャード・カーティス繋がりでもう1本。製作国は一応アメリカとなっているものの、ほぼ全篇ノッティングヒルを含むイギリスの現地でロケ撮影されたそうだ。

「逆シンデレラ」のようなストーリーだけど、上記紹介文のように『ローマの休日』を下敷きにしたものとも言える。出会ってからお約束のハッピーエンドまで二転三転の展開は、結果が分かっていても最後まで観客を飽きさせない。

「こういう人、実際いるよね」という脇役陣の味のある演技。ウィリアムが通りを歩くうちに周りの景色が夏から秋へ、そして冬になりやがて春がやってくるというカメラワークの巧さ。随所に散りばめられたドライなユーモア(現地人のマネをしたがる日本人の習性を皮肉ったシーンは秀逸)など、ラブコメはこうやって作るのだというお手本のような作品だと思う。

ところで、日本人と言えば、ウィリアムの家の玄関から見えるところに、艶やかな振袖姿の日本人女性が微笑む等身大の巨大ポスターが飾られている。クレジットには出て来ないが、スティーブン・セガールの娘の藤谷文子だそうだ。フジカラーの店頭ポスターみたいに見えるけれど、彼女が同社のCMに起用されたことはないようなので、本作のためにわざわざ製作したのだろう。

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2021/10/20

『ミスター・ビーン』Vol.1,2,3

Mrbean『イエスタデイ』の脚本家リチャード・カーティス繋がりで観てみた。以前にNHKが深夜時間帯に放送していたのを断片的に観た記憶はあるが、これはたぶん同シリーズの総集篇のようなものだろう。というのも、一時世界的な人気を博した『ミスター・ビーン』だけれど、実はTVの30分番組が14本と、劇場版が2本、これらがその全てなのである。

いい歳をした中年男のビーンが行く先々で子供めいた悪戯を繰り返し、大抵の場合自分自身がそのトバッチリを受けて散々な目に遭うのに、性懲りもなくそれを繰り返すコントは、全く肩の凝らない娯楽として気楽に楽しめる。しかし、中には視覚障碍者ネタや、王室を侮辱したと取られかねない相当際どいものもあり、英国らしい風刺、ブラックユーモアの伝統を感じさせる。

英国の伝統ということでは、シェイクスピア以来の芝居、道化の伝統や、チャップリンの影響を色濃く感じさせるし、一方ではアメリカのシチュエーション・コメディ(シットコム)の要素も窺える。

ところで、主演のローワン・アトキンソンとリチャード・カーティスはオックスフォード大学の同窓で、在学中から演劇活動を共にしていたことが、メイキング映像の中で紹介されている。荒唐無稽なコントのように見える『ミスター・ビーン』だが、実は綿密な台本を製作し、細部の演出にもこだわっていて、アドリブは一切ないということだった。さすがはオックスフォードというか、人気の秘密はそんなところにもあることが了解できた。

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2021/09/29

『イエスタデイ』

Yesterday2019年、英。ダニー・ボイル監督、リチャード・カーティス脚本。WOWOWの紹介文。

売れないミュージシャンのジャックは、幼なじみでもあるマネジャー、エリーに励まされる毎日。世界規模で12秒間の大停電が起きた際、交通事故に遭ったジャックは意識を失うが、目覚めると世界の音楽の歴史にザ・ビートルズは存在しなかった。ザ・ビートルズの曲の数々を自作として歌い始めたジャックは、たちまち世間の注目を浴びるように。人気歌手エド・シーランから声が掛かるなど、ジャックは音楽界で大成功を収めるが……。(引用終わり)

中学時代からクラシック音楽ひと筋で来た自分だけれど、さすがにビートルズの名曲のいくつかは知っているし、DVDジャケットの写真がアルバム「アビイ・ロード」のパロディであることぐらいは分かる。

上の紹介文には「たちまち世間の注目を浴びるように」とあるが、そこは少し違っているように思う。ジャックは誰も聴いたことのないビートルズの曲を歌い始めるもなかなか芽が出ず、小さなスタジオで列車の騒音に悩まされながら録音したCDを、バイト先のスーパーで景品に配ったりといった苦労の末に、徐々に売れ出したというのが本当のところだ。

「本物」のビートルズだって、最初からいきなりスーパー・スターになったわけではなく、それ相応の下積み時代の苦労を経験しているはずで(よう知らんけど・笑)、本作は奇想天外なストーリーながらも、その辺りは意外にリアリティがあるなと思った。

お約束のハッピーエンドのラブストーリーに若干甘さを感じるものの、主演のヒメーシュ・パテル自身が歌ったビートルズの名曲の数々、本人役で出演したエド・シーランとのやり取り、また随所に散りばめられたユーモアなど、結構楽しめる1本だった。エンドロールの尺を「ヘイ・ジュード」のフルコーラスにピッタリ合わせたところは、ボイル監督のこだわりというか職人技を感じた。

ところで、このパラレルワールド(?)に存在しないのはビートルズだけでなく、他に少なくとも「コカ・コーラ」「煙草」「ハリー・ポッター」は存在しないことになっている。「煙草のない世の中だったら、たとえビートルズが聴けなくても行ってみたい」と真剣に思ってしまった。(苦笑)

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