ハイティンク&LSOのブラームス交響曲全集
ハイティンクが指揮したブラームスの交響曲全集は、1970年代にコンセルトヘボウ管と録音したもの、1990年代にボストン響(BSO)と録音したものがあるが、2003年から04年にかけてロンドン交響楽団(LSO)とライヴ録音したこの全集は、3度目にして最後のものである。
ただし、国内盤は第1番のみで、LSO自主レーベルによる英本国盤も現在ほとんど品切れか廃盤となっている。それと関係あるのかどうか、一般的な評価はBSO盤が最も高く、このLSO盤は「迫力と重厚感がない」「無気力」など散々な有様である。しかし、自分としてはこれが文句なしのベスト盤であり、他の指揮者のCDを含めても屈指の名演であると思う。
何よりも渋みを帯びたオケの響きが素晴らしく、いかにもブラームスという音響空間を作り出していて、その上に立って、ハイティンクらしく奇を衒うことのない正統派にして盤石の音楽が、まるで川が流れるように自然に進行していく。妥当極まるテンポ設定、楽器間のメロディの受け渡し、対旋律のさりげない強調など、これぞ職人技と唸らされる箇所は少なくない。
個人的な趣味を言えば、BSO盤は柔らかでまろやかな響きが魅力的ではあるものの、最後に録音された第1番を除き、第1クラリネットを担当した首席奏者ハロルド・ライトのヴィブラートがあまり好きではないのだ。それに対し、ヴィブラートの本場(?)ロンドンのクラリネットが、音色的にはいかにもイギリス的なのにノンヴィブラートなのが好ましい。
バービカンセンターは比較的デッドな音響ながら、DSDによる録音は各パートの分離が良く、極めて優秀である。ロンドンの聴衆は終始しわぶき一つ発せず、無論フライング拍手やブラヴォーなど皆無である。もしかしたらリハーサル時の録音ではないかと思うほどである。
ちなみに、ブックレットのデータから各演奏会のプログラムを再現すると次のとおり。
2003年5月17、18日 悲劇的序曲、二重協奏曲、交響曲第2番
2003年5月21、22日 セレナーデ第2番、交響曲第1番
2004年6月16、17日 交響曲第3番、交響曲第4番
なお、ブックレットでは交響曲第4番の演奏日付が同年5月16、17日となっているのは単純な誤植と思われる。5月17日はコリン・デイヴィス指揮による全く別の演奏会が行なわれているのだ。
二重協奏曲の独奏者は有名ソリストの招聘ではなく、LSOコンサートマスターのゴーダン・ニコリッチ、チェロ首席のティム・ヒューである。「独奏楽器付きの交響曲」と称されることが多いブラームスのコンチェルトには相応しく、何よりオーケストラの奏者を大切に考えるハイティンクらしい起用と言える。
ハイティンク&LSOのCDには、他にベートーヴェンの交響曲全集、ブルックナーの交響曲第4、9番があり、現在これらも取寄せているところだ。自分としては、知られざる名盤を発掘したような気でいるのだが、さてどうなるか。(笑)
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