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2022/04/10

『すばらしき世界』

Opensky2021年、製作委員会。西川美和監督。役所広司、仲野太賀ほか。公式サイトの紹介文。

13年ぶりに出所した三上が見る新たな世界とは―。
私たち観客はテレビマン、津乃田の覗き見るかのような視点によって、主人公三上の一挙一動を目の当たりにしていく。一度ぶち切れると手がつけられないトラブルメーカーである半面、他人の苦境を見過ごせない真っ直ぐな正義感の持ち主。
はたして、私たちの身近にいてもおかしくない三上という男の本当の顔はどれなのか。そして、人間がまっとうに生きるとはどういうことか、社会のルールとは何なのか、私たちが生きる今の時代は“すばらしき世界”なのか。
幾多の根源的なテーマを問いかけ、また、社会のレールを外れた三上と接する市井の人々の姿にも目を向けた本作は、決して特殊なケースを扱った作品ではない。殺人という大きな事件に関わらなくとも、日常の小さなきっかけで意図せず社会から排除されてしまうことは、誰の身にも起こりうる。そんな今の社会の問題点を鋭くえぐり、観客それぞれの胸に突きつけてくるのだ。(引用終わり)

原案は佐木隆三の小説『身分帳』。公式サイトによれば、身分帳とは刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもので、三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。

映画ではその三上の生い立ちや犯罪歴を振り返りつつ、出所したその日に「今度こそは堅気になる」と決心した彼が、社会の現実との度重なる衝突を経て、やがて何とか適応していく過程をリアルに描く。

中でも、いわゆる反社会的勢力に一度でも身を置いた人間に対する社会の厳しい目に耐えて、自らの生活を成り立たせていかなければならない彼の苦悩が、役所広司の演技と表情を通じてひしひしと伝わってきた。

もちろん、暴力を肯定したり正当化するつもりは全くない。他人の弱みにつけ込んだり、危害を加えることを示唆して金銭を要求するなど、非合法行為を生業にする連中は社会から排除されなければならない。

しかし、一旦組織に入ってしまった人間の社会的更生、生活の再建といった深刻な課題を掘り下げたのが本作であり、そうしたテーマに無関心な観客にとっては、どうしようもない人間の自業自得、全くの他人事としか思えず、生理的な拒否反応すら示すだろう。そのことを的確に表現しているのが、TVプロデューサー吉澤(長澤まさみ)の次のような発言である。

「社会のレールから外れた人が今ほど生きづらい世の中ってないと思うんです。一度間違ったら死ねと言わんばかりの不寛容がはびこって。だけど、レールの上を歩いてる私たちもちっとも幸福なんて感じてないから、はみ出た人を許せない。本当は思うことは三上さんと一緒なんです。だけど排除されるのが怖いから大きな声は出さないんです」

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