クナッパーツブッシュ盤「パルジファル」全曲
先々月、このオペラを初めて鑑賞したときの記事で、「ほとんど動きのない映像はこの際抜きにして、様々な動機が複雑に絡み合う音楽だけを集中して聴けば、何とかとっかかりが得られるのかもしれないが、4時間半の長丁場に再挑戦する気力はすぐには出て来ないだろう」と書いたが、ようやくその気力が出てきたので、標記の全曲盤CDを聴いてみた。
1962年8月、バイロイト祝祭大劇場でのライヴ録音で、当時から名盤の誉れ高いものである。タイトルロールのジェス・トーマスをはじめ、グルネマンツのハンス・ホッター、アンフォルタスのジョージ・ロンドン、クンドリのアイリーン・ダリスなど、当時の名歌手を集めた声楽陣は豪華の一語に尽きる。
「音楽に集中して」と書いたけれども、やはりストーリーと歌詞が分からなければ、そこにワーグナーがつけた音楽の意味合いを本当に理解することは出来ないので、今回は図書館で借りた全曲対訳本を参照しながら聴いた。何度も聴き込めば「ああ、ここはこういう場面だ」と合点がいくようになるだろうが、さすがにその境地に達する時間はもう自分には残されていない。
1日1幕で3日がかりの鑑賞になったが、意外にそれほど間延びすることなく長丁場を乗り切ることが出来た。クナッパーツブッシュと言えば、これまで残響が極端に少ない貧弱な録音しか聴いたことがなかったが、ここでは独特な構造をしたバイロイト祝祭大劇場の音響を、フィリップスの技術陣が見事に捉えていて、客席のノイズを我慢しさえすれば十分に鑑賞に堪える。
ところで、このCDはタワーレコード限定盤として復刻発売されたもので、ブックレットの裏表紙(クリックで拡大表示)には初出時のLP盤の帯まで再現されている。昔懐かしい字体に加え、作品に冠された名称がただの「楽劇」だったり、指揮者名が「クナッペルツブッシュ」だったりするところに時代を感じる。
それより、LP5枚組で9千円という値段は、当時の物価を考えれば相当高価に違いなく、オペラ全曲盤というのはある種の贅沢品だったのだ。なにせ、ちょうど同じ頃に放送を開始したNHKFMの「オペラ・アワー」という番組は、「オペラのステレオ全曲録音」がタダで(笑)聴けるのがウリだったのだから(現在の「オペラ・ファンタスティカ」は海外放送局提供の最新ライヴ録音が中心である)。
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コメント
パルジファルはフェニーチェ劇場でのDVDを、CDではクーベリック、カラヤンを持っていますが、なかなかじっくり鑑賞したことはありません。数年前、新国立での演奏が評判高かったようですが..。
「図書館で借りた全曲対訳本を参照しながら聴いた・・・」の下りですが、先日、京橋でケイタローさんとサシ飲みした時、彼は高校時代にオペラのLPを借りて、対訳本見ながら・・・とお話しされて、びっくりでした。氏は歌舞伎もお詳しく、いろいろその話も伺えました。
投稿: 高橋 | 2022/04/27 10:31
高橋さん
やっぱり「気力」がないと聴き通せないですね。
自分も病気のことがなければとても・・・。
ケイタローさんも交えてまた飲める機会があればいいですが、
だんだんと身体がそれを許さなくなってきそうです。
投稿: まこてぃん | 2022/04/28 08:39