アーノンクール盤「マタイ受難曲」
バッハ歿後250年の2000年に、アーノンクールが手兵ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(CMW)と30年ぶりに再録音したCDを聴いた。
リヒター盤の峻烈さ、ヘレヴェッヘ盤の柔和さとはまた次元が異なり、仮に受難の物語を度外視しても純粋音楽として大変完成度の高い、どこを取っても美しい演奏に驚いた。
CMWの演奏は、音色やピッチが不安定とされがちな古楽器を用いたものとはとても思えなし、アルノルト・シェーンベルク合唱団、ウィーン少年合唱団のコーラスもこれ以上望めないほど素晴らしい。
そのうえで、福音史家のクリストフ・プレガルディエン、イエスのマティアス・ゲルネ、女声陣ではクリスティーネ・シェーファー、ベルナルダ・フィンク、ドロテア・レシュマンといった豪華歌手陣が起用され、それぞれが存分に実力を発揮しながらも、全体としてはアーノンクールの音楽世界にきっちり収まっている。
総体的にテンポがやや速く、リヒター盤等に馴染んだ人には若干物足りない部分もあるようだが、これだけ美しい演奏というのはそうないだろう。アーノンクールの円熟した手腕の賜物であるのはもちろんだけど、この受難曲の奥行きの深さというのを改めて感じさせる演奏である。
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