ヘレヴェッヘ盤「ロ短調ミサ」
ヘレヴェッヘは同曲を三度録音しているが、これは二度目の1996年に録音されたCDである。録音の日付や場所はブックレットにも記載がなく不明であるが、とても長く豊かな残響音から判断すると、どこかの教会での録音ではないかと思われる。
そのことと全く無関係ではあるまい。信仰心などかけらもない自分でさえ、天井が高くステンドグラスの美しい教会の椅子に座って、しばし神の栄光を讃える音楽に浸っている。そんなひと時を過ごすことが出来るような演奏である。
全体的には、以前聴いた「マタイ受難曲」と同様、穏やかで安らぎに満ちた音楽である。リヒター盤が冒頭の「キリエ」からして聴く者の肺腑を抉る強烈なメッセージ性を帯びているのに対し、ヘレヴェッヘの音楽はどこまでも温かく、聴く者を包み込んでくれる。「北風と太陽」とでも言えばよいのだろうか。
カウンター・テノールのアンドレアス・ショル、テノールのクリストフ・プレガルディエンの二人の歌唱が出色で、特にショルが歌う第26曲「アニュス・デイ」のアリアが胸を打った。女声陣も健闘しているが、ソプラノのヨハネッテ・ゾマーの声が、一部で割れたように聴こえるのが残念だ。録音のせいかもしれないけれど。
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