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2022/02/08

『地獄の黙示録』特別完全版

Apocalypse1979年米。フランシス・コッポラ監督。マーロン・ブランド、マーティン・シーンほか。アマゾンの紹介文。

1960年代末、ベトナム戦争が激化するサイゴン。アメリカ陸軍情報省のウィラード大尉は、特別任務を命ぜられる。
それは、カンボジア奥地のジャングルで軍規を逸脱して“王国"を築いているカーツ大佐という人物を抹殺せよというものだった。4人の部下と巡視艇に乗り込んだウィラードは、カーツを求めてナン川をさかのぼり始める…。(引用終わり)

53分の当初未公開映像を加え、202分にも及ぶこの「特別完全版」は2001年に、さらには、これより20分短いデジタル修復版「ファイナル・カット」が2019年に製作されている。一粒で二度三度美味しいというのか、それだけコッポラ監督の思い入れに強い作品なのだろう。

軍用ヘリからワーグナー「ワルキューレの騎行」(ショルティ指揮・ウィーンフィル)を大音量で流しながらベトナムの村を焼き払うシーンがあまりに有名であるが、時間的な長さもさることながら、人間性を失わしめる戦争の狂気をリアルに描いたという内容に腰が引けていたが、一度は観ておかないとという気持ちで200分の長丁場に臨んだ。

意外なことにウィラードがカーツと直接対面することになるのは、冒頭約38分の「ワルキューレ」のシーンから延々約2時間、映画もほぼ終盤になってからである。どちらかというと、そこまでに積み重ねられる数々のエピソードの方が興味深かった。

とりわけ「特別完全版」で復元された、仏領インドシナ入植者のフランス人農場主一家のもとを訪れるシーンで、ベトコンは実はアメリカがこの地方からフランスを駆逐しようとして創設した組織だったという話は衝撃的だった。

そこへいくと、最後のカーツとの対決はあっけないというか、儀礼用の牛が登場した辺りからもう結末が見えてしまって興醒めだった。ウィラードの取り得た行動は、前任者のようにミイラ取りがミイラになるか、冷徹にミッションを完遂するか、ふたつにひとつだからだ。

しかし、全体的には200分の長さを感じさせない映画づくりはさすがに監督の手腕であろう。かつてカリフォルニアを訪れた時、コッポラが設立したワイナリーのメルローがとても美味しかったのを思い出すが、そうしたビジネス感覚にも恵まれた一種の才人なのであろう。

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コメント

やはり苦労して撮ったフィルムは使いたいんでしょうかね。
でも一般的に言って、完全版やディレクターズカットが初公開版を越えることはないように思います。
長ければいいってもんじゃない、酒米を磨くように、小説も映画もできるだけそぎ落とした方が・・・(笑)
というより「地獄の黙示録」の場合、違う映画になったような記憶があります。まさに一粒で二度三度、骨太な作品です。
ワーグナーとともにドアーズも印象的でした。

ベトナム戦争映画Best5
<狂気>
1「プラトーン」
2「地獄の黙示録」
3「フルメタル・ジャケット」
4「カジュアリティーズ」
5「ハンバーガー・ヒル」
<戦場以外>
1「ディア・ハンター」
2「グッドモーニング・ベトナム」
3「7月4日に生まれて」
4「ジェイコブス・ラダー」
5「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

ベトナム物は山ほどあるので、あくまで個人的趣味です。(^^)

投稿: ケイタロー | 2022/02/08 21:43

ケイタローさん
ときどきDVDの特典映像に未公開映像が
収録されていることがあり、やはり監督には
泣く泣く切ったシーンに陽の目を見させてやりたい
という親心みたいなものがあるのでしょうね。
それにしても恒例の Best5 すごいですね。
私が観た記憶があるのは『ディア・ハンター』だけです。
あとはタイトルすら知らないのもいくつか。(苦笑)

投稿: まこてぃん | 2022/02/09 19:21

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