11月18日木曜日。63歳の誕生日はNYで迎えることになった。
まずはホテル近くの再開発エリア「ハドソン・ヤーズ」内にある地下鉄駅から日系クリニックに向かい、PCR検査の陰性証明書を受領することにする。
ちょうど通勤ラッシュの時間帯だったが、こちらは逆の都心方向なので混雑とは無縁だった。正面奥に見える蜂の巣の化け物みたいな建物は「ヴェッセル」という16階建てのアトラクションで、階段で上がることもできるそうだが、この時はコロナの影響で閉鎖されていた。
午後の早い便でボストンに移動する。ボストンはこれで3度目になるが、2005年にボストンマラソンを走り、その報告のためにこのブログを始めてから、もう17年近く経つわけだ。
市内観光はもう必要なく、ボストン交響楽団の演奏会を聴くことだけが目的なので、空港近くで都心への移動に便利なホテルにチェックインした。郊外で人通りは少ないが、ホテルの隣はFBI支部のビルなので治安は完璧だ。(笑)
近くのスーパーで買ったクラムチャウダーとパスタで軽く腹拵えしてから、バスと地下鉄を乗り継いでシンフォニーホールに向かう。ここも3度目になるが、毎回どちらの方角を向いているのか掴めない不思議な場所である。今回はさらにコロナ対策だろうか、ホール正面ではなく側面の通用口(?)から出入りするようになっていたので尚更だった。
プログラムは、イェルク・ヴィトマンという現代作曲家のトランペット協奏曲「天国に向かって(迷宮Ⅵ)」(アメリカ初演、ボストン響・ゲヴァントハウス管共同委嘱作品)と、マーラーの交響曲第1番である。独奏はホーカン・ハーデンベルガー、指揮は音楽監督のアンドリス・ネルソンスである。
協奏曲は独奏者が曲の途中で演奏しながら入場し、ステージ上を動き回ったり、客席に背を向けて演奏したりと、視覚にも訴える趣向を凝らした曲だったが、内容はいまひとつ理解できなかった。
こういう「尖った」曲の後では、マーラーの交響曲が古典音楽のように聴こえる。歌曲集「さすらう若人の歌」と同時並行で作曲され、青春の明暗両面をときに美しく、またときに残酷に抉り出したこの交響曲独特の魅力を、ネルソンスとボストン響は余すところなく表現していた。
聴衆の熱狂的な拍手喝采に応えて再度登場したマエストロが指揮台に立とうとしたとき、楽団員がやおら楽器を構えて指揮者なしの演奏を始めた。「ハッピー・バースデイ」のメロディが流れたのだ。聴衆も唱和する。
「え、何で俺の誕生日を?」と一瞬だけ思ったが、そんな訳があるはずはなく(笑)、この日は何とネルソンスの誕生日でもあったのだ。
偶然の一致とはいえ、おそらく生涯最後の誕生日にボストン響から思わぬプレゼントをもらったと、勝手な勘違いを許すことにした。予想外の事態が続いた旅の最後にようやく良いことがあったなと、感謝しながら会場を後にした。
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