スウィトナーのモーツァルト後期交響曲集
村上春樹の著書に触発されて、このところ半ば死蔵していたLP盤を気の向くまま取り出し、改めて聴き直している。
アニー・フィッシャーの記事で書いたとおり、おそらくは再生装置の違いによるものだろう、これまで抱いていた先入観を覆すような音質の良さ、演奏の素晴らしさに改めて気づくことが多い。
最近では、オトマール・スウィトナーがシュターツカペレ・ドレスデンを指揮した、モーツァルトの後期交響曲集を再聴して大きな感銘を受けた。手元にあるのは、第31番「パリ」、第35番「ハフナー」、第36番「リンツ」、第38番「プラハ」といずれもニックネームのついた4曲を集めたセラフィムの2枚組、それに第39番、第40番を収録した徳間エテルナ盤の2点である。
ともにドイツ・シャルプラッテン原盤で、ほぼ同時期の発売なのに、なぜか前者は安っぽいレーベルの廉価盤、片や後者は高級感漂う漆黒のレーベルのレギュラー盤と、扱いが全く違っているのが不思議だ。
そのせいもあってか、特に前者は音質まで手抜きしているような先入観とともに、残響がやたらに多い古くさい録音というイメージが自分の中で定着してしまっていた。
もう二度と聴くことはないだろうと針を落としてみたら、その輝かしく生気に溢れた音響にすっかり魅了された。演奏自体の素晴らしさは改めて言うまでもない。文字通り「快速に」駆け抜けるアレグロ楽章においても、メロディを支える各声部の細かな音の動きまで明瞭に聴こえ、同楽団の抜群の合奏能力を示している。
先入観というのは怖い。この歳になってなお、いやこの歳になったからこそなのか、自らの思い込みや外見に囚われ、本当の価値を見失っていたことを恥じると同時に、また新たな楽しみを発見した悦びを感じている。
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