『シャイン』
1995年、豪。スコット・ヒックス監督。ジェフリー・ラッシュ主演。アマゾンの紹介文。
デヴィッドは、幼いころからの父親の過剰な愛情と厳格なレッスンのもと、ピアノに打ち込んでいた。しかし父親の過剰な愛情に耐え切れず、デヴィッドはついに勘当同然のかたちで家を出てしまう。イギリスの音楽学校に留学したデヴィッドは、コンクールでラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」に挑戦することを決意する。この曲は難関中の難関。と同時に父親との思い出の曲でもあった。日夜練習に励んだ結果、デヴィッドは決勝で見事に弾きこなす。しかし、拍手をあびながら倒れ、以後精神に異常をきたしてしまう・・・。(引用終わり)
タイトルは『シャイニング』(1980年)に、DVDジャケットの写真は『ショーシャンクの空に』(1994年)に酷似しているが、悪質なパクリ作品などではなく(笑)、内容はこれらと全く無関係な音楽映画である。
実在するデヴィッド・ヘルフゴットなるピアニストについて、その名前すら知らなかったが(実名で登場する彼のライバル、ロジャー・ウッドワードは辛うじて名前だけ知っていた)、1947年生まれのオーストラリアの現役ピアニストで、91年には来日もしたそうである。
本作はその半生を部分的に脚色を加えながら映画化したもので、精神病と闘いながら見事にピアニストとして現役復帰を果たすまでの過程を描いている。著名なコンクールで優勝し、世界を舞台に活躍するようなレベルのピアニストは、毎日数時間の猛練習が欠かせないと聞いたことがあるが、それに加えて多くの聴衆を前にステージで演奏する緊張感に耐える精神力、集中力が求められるだろう。
彼の場合は、さらに父親からの過剰な期待に応えようとするプレッシャーまで加わり、遂に精神の異常を来してしまったわけである。そこからの回復過程では、ギリアンという女性と出会って結婚したことが大きく寄与したものと思われるが、映画中ではその辺りの詳細が明らかでないのが残念だ。
ただ、ひとつ思ったのは、デヴィッドがやたらに水に浸かったり浴びたりするのが好きなことで、バスタブに全身を浸したり、プールや海で戯れる姿が何度も登場する。これは一種の胎内回帰願望のように思われ、15歳も年上のギリアンに母性を感じていたのではないかと推察される。
父親の異常な愛情が主人公の人生に与えた影響が大きいのは確かであるが、その裏返しとして母性愛に飢えていたという側面もあるのではないだろうか。実の母親が夫の言いなりで、何となく冷淡な女性のように描かれているのも偶然ではないように思う。
ラフマニノフの協奏曲第3番(作中では「ラック・スリー」と略されていた)をはじめ、様々なピアノ曲がBGMに使用されて効果を上げているが、その音源の大半はヘルフゴット本人の演奏が使用されているそうだ。
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コメント
埃をかぶったサントラ盤を久しぶりに聞きました
情熱的なラフマニノフ
ショパン、リスト、ベートーヴェン・・・綺羅星の如し
天才だけが知る音楽の神秘
グールドと重なって見えた記憶があります
投稿: ケイタロー | 2021/09/09 09:24
ケイタローさん
サウンドトラックのCDが発売されていたとは
知りませんでした。営業にこれ努めたようですが、
日本では○ジコさんほどには売れてませんね。(笑)
本作を観たあとでは、グールドが「ちょっと変わった
フツーの人」ぐらいに思えてきます。
投稿: まこてぃん | 2021/09/10 17:38