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2021/09/11

アマデウスQのベートーヴェン弦楽四重奏曲全集

AmadeusイタリアQによる全集盤に続き、イギリスの名門アマデウスQによる全集盤を聴いた。

アマデウス弦楽四重奏団は、第二次大戦中ナチスの迫害から英国に逃れたユダヤ人音楽家であるヴァイオリンのブレイニン、ニッセル、ヴィオラのシドロフ、それに英国人チェリストのロヴェットの4人で結成され、1948年にロンドンでデビュー。その後、1987年にシドロフの死去により解散するまで、一度もメンバーを変えずに活動を続けたという稀有の経歴を有するカルテットである。

ドイツ・グラモフォンにいくつもの録音を残し、団体名の由来となったモーツァルトの弦楽四重奏曲は言うまでもなく、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲もまた、彼らのもっとも得意とするレパートリーとして高い評価を得てきたが、団体名による先入観が強すぎたのか、これまでモーツァルトのカルテット、クインテットのみに止まり、ベートーヴェンは1曲も聴かずにいた。

しかし、先日読んだ村上春樹の本でお勧めのLP盤として紹介されていて興味を持ったので、全集盤を取寄せて聴いてみた。その感想を単純化して言えば、これまで聴いた全集盤の演奏傾向を、ハード系からソフト系まで独断により並べてみるなら、最もハードなブダペストQと最もソフトなイタリアQを両極端として、その中間ややハード側にズスケQ、そしてこのアマデウスQはややソフト側に位置すると感じた。

メンバーの出身地または活動の中心地を適宜並べると、ハンガリー(ロシア)、旧東ドイツ、イギリス、イタリアと、なぜか地図上で反時計回りにハードからソフトまで位置しているのも面白い。

アマデウスQの演奏表現の特徴を、これまた独断によって単純化して言うなら、極端な精神主義にも、また過度の楽天主義にも傾くことなく、イギリスらしい中庸の美とでも言おうか、全体にバランスが取れた立ち位置をキープしている。聴いていて感じる安心感、安定感は抜群で、家に帰ってきて好みの銘柄のウイスキーのグラスを傾けている、というような気分が味わえる。(今は飲めないけれど・苦笑)

以上はあくまで演奏傾向だけの話で、演奏技術の完成度やアンサンブルの精度については、どの団体も飛び抜けた一級品だけに比較の意味はない。ただ録音については、さすがに後の時代ほど良いに決まっているので、ブダペスト盤がやや古びて聴こえてしまうのは仕方ない。他は似たり寄ったりだが、グラモフォンのスタジオでの録音と思われるアマデウス盤が最も綺麗に録れていると思った。

さて、またまた愛聴盤が増えてしまった。もう時間がいくらあっても足りない。(泣笑)

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コメント

オーケストラと違って四重奏団は、名前による先入観ってありますね。
とくに個人の名前がついていると
アマデウス、スメタナ、バルトーク、ボロディン、アルバン・ベルク、コダーイ・・・
本邦では巌本真理さん(関係ないか)

弦楽四重奏って、ソロやデュオを別にすれば最小の演奏形態なので、由来する作曲家のイメージやその国の民族性がもろに反映されて、そこが面白いです。
と言いながら、僕はいつもベートーヴェン。
どれにしようか、選ぶ手間がなくて好きです。(^^)

投稿: ケイタロー | 2021/09/12 20:19

ケイタローさん
確かに地名を冠した名前が大半のオーケストラとは違い、
カルテットの多くはリーダーや作曲者の名前がつきますね。
バリリ、ブッシュ、ヴェーグ、パノハ、タカーチ…。
団体名から何となく芸風が想像できるので、
「名は体を表す」ということかもしれません。

投稿: まこてぃん | 2021/09/13 10:54

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