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2021/08/18

イタリアQのベートーヴェン弦楽四重奏曲全集

Italianoイタリア弦楽四重奏団が1967年から75年にかけて録音したベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を聴いた。これまでアルバン・ベルクQ、ベルリン・ズスケQ、ブタペストQと聴いてきたが、いずれも一長一短というか、安心して身を(耳を)委ねられる全集に巡り合えずにいた。

以前に書いたように、この中ではズスケQが最もしっくり来るのだが、残念ながらおそらくズスケのものと思われる、拍子に合わせて足を踏み鳴らす音が入っていて集中を殺ぐのだ(小鳥の鳴き声はご愛嬌だけど・笑)。

その後、ブタペストQの全集を聴いたが、あまりの完成度の高さにかえって疲れるというのか、楽曲の構造は明瞭に把握できるとしても、音楽として楽しめるかというとそれは別問題という気がする。

そこで、かつて英グラモフォン誌が高く評価していたイタリア弦楽四重奏団の全集を聴いてみた。結論から言えば、大変素晴らしい演奏、そして録音で、これまで聴かなかったことを後悔している。

さすがにイタリアの団体だけあって音色はどこまでも明るく、各楽器が実に伸び伸びと歌っている。トスカニーニのベートーヴェン交響曲全集で感じた、音楽の基本はカンタービレという原理は、このカルテットにも通用するのである。難解とされる後期の楽曲でもそれは全く変わらい。

それでいて、アンサンブルの精度や求心力といった点で劣るのかというとそんなことはなく、美しいフレージングを支えているのは、各人の卓越した技量と完璧な合奏能力なのである。ちょうど、装飾の見事さに目を奪われがちな古代ローマの彫刻が、実は精緻な数学的バランスに基づいて制作されているように(よう知らんけど・笑)。

発売当初それほど評価されることがなかったこの全集盤だけれど、その後CD化で音質が改善したのか徐々に人気が高まったそうだ。時を経て熟成する弦楽器の名器のようなものだろうか。

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