『罪の声』
2020年、製作委員会。土井裕泰監督、野木亜紀子脚本。KINENOTE の紹介文。
平成が終わろうとしている頃、大日新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は既に時効となっている昭和最大の未解決事件を追う特別企画班に選ばれた。事件の真相を追い取材を重ねる中で、犯人グループが脅迫テープに3人の子どもの声を吹き込んだことが阿久津の心に引っかかる。
一方、京都で亡くなった父から受け継いだテーラーを営み家族3人で幸せに暮らす曽根俊也(星野源)は、ある日父の遺品の中から古いカセットテープを見つける。何となく気に掛かり再生すると、聞こえてきたのは確かに幼い頃の自分の声であるが、それはあの未解決事件で犯人グループが身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと全く同じ声でもあった。
事件の真相を追う阿久津と、脅迫テープに声を使用され知らないうちに事件に関わってしまった俊也ら3人の子供たちの人生が、35年の時を経て激しく交錯する。(引用終わり)
昭和59年から60年にかけて発生したグリコ・森永事件をモチーフにした塩田武士の同名小説を映画化したもの。最初の事件発生から既に37年、時効が成立してからでも21年が経過するが、社会に大きな衝撃を与えた同事件のことはいまだに鮮やかに記憶に残っている。
犯人(グループ)が突如として犯行から手を引く形で終息し、最終的には迷宮入りしてしまったこの事件の犯人像や動機などについて、当時ありとあらゆる推測が飛び交ったけれども、いずれも決定的な説得力を持つものではなく、事件の真相はいまだに闇の中、「深淵の底」である。
本作はそうした経緯を踏まえたうえで、真犯人に関する一見地道ながら説得力ある推理を提示している。これが真実にかなり近いのではないかと思わせるリアリティがあり、映画全体を支える屋台骨となっている。
ただ、映画では尺の制約があるからだろう、様々なスジがあまりに都合よく次々と繋がっていくけれど、付いていくのに苦労するし、そもそも当時の警察が総力を挙げても解明できなかった謎を、新聞記者たちの特別企画班がそんな簡単に解きほぐしてしまうだろうかと思ってしまう。
それはともかく、何も知らずに自分の声が犯行に使われてしまった三人の子供たちのその後の人生に焦点を当てたところが本作のキモで、ただの犯人捜しにとどまらない、重層的なヒューマンドラマとしての厚みを生み出している。
大阪京都はもちろん英国も含めた多数のロケ撮影を敢行した映像は美しく、142分の長さを全く感じさせない、カチッと締まった完成度の高い作品に仕上がっている。
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