『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』
2009年、カナダ。KINENOTE の紹介文(抜粋)。
グレン・グールドは、1955年のデビュー録音「ゴルトベルク変奏曲」が斬新な解釈と演奏でベストセラーとなり、一躍時代の寵児になった。真夏でも手袋とマフラーを手放さない。異様に低い椅子に座り、歌いながら演奏する。64年以降は一切のコンサート活動をやめ、レコードと放送だけの演奏活動を続けた。そうしたエキセントリックな言動ばかりが取りざたされる一方、並外れた演奏技術と高い芸術性を持つ演奏で人々を魅了した。本作はその才能とともに、グールドを愛した女性たちの証言など未公開の映像や写真、プライベートなホーム・レコーディングや日記の抜粋から、ひとりの人間としてのグレン・グールドの実像に焦点を当てる。(引用終わり)
バッハをはじめとするグレン・グールドの録音は何度も聴いて、その度に他のどんなピアニストとも異なる演奏に感嘆するばかりだが、グールド本人の人物像についてはご多分に洩れず、奇矯な言動とかコンサート活動の拒否といった事象から抱く「天才だけど一種の変人」というイメージしかなかった。
しかし、一見気難しくて取っつきにくい彼の素顔は実は意外に普通で、ただ人付き合いが苦手だったに過ぎないことが、本作を観てよく分かった。これまで公になることがなかった恋人との経緯が本人の口から語られていて、一時は真剣に結婚しようと考えていたものの、グールドの病気(心気症)のせいで実らなかったという。
これもまた意外だが剽軽な面も有していて、架空の人物に変装してみたり、動物園の象に向かってマーラー「子供の不思議な角笛」の「魚に説教するパドヴァのアントニウス」を歌って聞かせるといった映像が紹介されている。
ところで、彼独特の各音の粒立ちが良い演奏については、チリ出身のアルベルト・ゲレーロという教師から伝授された「フィンガー・タッピング」奏法によるという説明があった。簡単に言うと指を持ち上げることなく、指先だけで鍵盤を叩くような奏法らしい。詳しくは青柳いずみこ氏による解説を参照されたい。
しかし、この奏法ゆえにあの低い椅子と猫背の姿勢があり、またこの奏法によるレパートリーの制約ゆえにコンサート活動から引退したという青柳氏の解説には目から鱗の思いがした。ちなみに、演奏しながら歌う癖は、幼い頃に母(祖父がグリークの従弟に当たるらしい)からピアノを教わったときの習慣が抜けなかったからだという。
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コメント
「キセントリック」「孤独」「狂気」・・・
不思議な魅力に引きずられ聴きはじめたピアニストです。
ずいぶん前なのでよく覚えていませんが、グールドの生い立ちや人物像を知ることのできた映画でした。
TVのドキュメンタリーも観た記憶があります。
深夜、ヴォリュームを絞って聴く「平均律クラヴィーア曲集」が好きです。
投稿: ケイタロー | 2021/07/29 17:07
ケイタローさん
まだ観ていませんが、彼に関しては本作以外にも
『…27歳の記憶』や『…をめぐる32章』
という映画もあるようです。
そんな人物は現代の音楽家で他に思い当たらず、
それだけ特異な存在だったということですね。
投稿: まこてぃん | 2021/07/30 07:10