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2021/07/10

『楽園』

Rakuen1_202107060845012019年、製作委員会。瀬々敬久脚本監督。KINENOTE の紹介文。

ある地方都市で起きた幼女失踪事件は、家族と周辺住民に深い影を落とした。それをきっかけに、知り合った孤独な青年・豪士(綾野剛)と、失踪した少女の親友だった紡(杉咲花)は、不幸な生い立ち、過去に受けた心の傷、それぞれの不遇に共感し合う。だが、事件から12年後に再び同じY字路で少女が姿を消す。一方、その場所に程近い集落で暮らす善次郎(佐藤浩市)は、亡くした妻の忘れ形見である愛犬と穏やかな日々を過ごしていたが、ある行き違いから周辺住民といさかいとなり、孤立を深める。次第に正気を失い、誰もが想像もつかなかった事件を引き起こす。(引用終わり)

吉田修一の短篇集『犯罪小説集』の2篇を原作とする作品。ひとつは幼女失踪事件を扱った『青田Y字路』、もうひとつは限界集落で起きた連続殺人事件を描く『万屋善次郎』である。

両者はそれぞれ栃木と山口で実際に起きた事件を題材にしたとされるが、地方の閉鎖的なコミュニティにおける事件の顛末をリアルに描いたという共通項があり、瀬々監督が原作者の了解のもとに両者を合体させた脚本を書いたという。

外国人差別や限界集落といった問題は、今や全国至るところにある問題であり、こうした事件はそれこそどこでも起こりうる。本作では描かれていないが、ネットでの誹謗中傷があっという間に拡散される昨今、特定の個人を集中攻撃して追い詰めるといった事態は頻繁に発生している。

その恐ろしさと対極にある「楽園」というタイトルはある種の皮肉だろうか。日本という「楽園」を目指した外国人労働者は、そこが決して楽園などでないことを思い知る。一方で、失踪事件を巡る自責の念に苛まれていた紡は、幼なじみの青年から「紡は、俺たちのために楽園つくれ」と励まされたことで心境が変化する。救いのない陰惨な内容のこの映画にあって、そこに唯一の微かな希望の光を見出すことが出来るだろう。

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