『キネマの神様』
原田マハ著。版元の紹介文。
39歳独身の歩(あゆみ)は、社内抗争に巻き込まれて会社を辞める。歩の父は趣味は映画とギャンブルという人で、借金を繰り返していた。ある日、歩が書いた映画に対する熱い思いを、父が映画専門誌「映友」のサイトに投稿したことから、歩は編集部にスカウトされる。だが実は、サイトの管理人が面白がっていたのは父自身の文章だったことが判明。「映友」は部数低迷を打開するために、また歩は父のギャンブル依存を断つために、父の映画ブログ「キネマの神様」をスタートさせた——。(引用終わり)
来月封切りの同名映画の原作ということで手に取った。この作家の作品は初めて読んだが、著者自身「導入部から三分の一はほぼ自分の体験に基づいて描いている」という物語にいきなり引き込まれた。六本木ヒルズを思わせる「アーバンピーク東京」のキャリアウーマンから一転、父が勤めるマンション管理人の仕事を手伝うことになった歩の境遇には同情を禁じ得ない。
物語の後半は、歩の父が「ゴウ」の名でブログに書いた映画評に対し、「ローズ・バッド」という謎の人物から的確かつ辛辣なレスポンスが投稿され、その遣り取りが評判となって「映友」も勢いを取り戻すが、実はその人物とは…という展開となる。著者が「残りの三分の二は完全なファンタジーだ。(中略)こんなあたたかい奇跡が起きればいい」と述べているとおり、もしこんなことが起きたら素晴らしいなという、美しき絵空事の世界だ。
登場人物がいずれも根は善人ばかりで、そのほとんどが映画好きという設定に少々甘さを感じたものの(渡米した歩の友人・清音が実は悪党かもしれないと最後まで期待していたが・笑)、映画好きという一点だけで人と人がこれだけ共感し、連帯できるのだというストレートな物語には、有無を言わせぬ迫力がある。普段あまり映画を観ないという著者が創作した、(少なくとも素人目には)玄人跣の映画評にも驚かされた。
ただ、この原作と映画の公式サイトで紹介されている「ストーリー」とはだいぶ異なる。映画のシナリオに沿った「ディレクターズ・カット」という「もうひとつの物語」も刊行されているようなので、そちらも読んでみたくなった。
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