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2021/06/18

ワルターのマーラー交響曲集

Mahler_20210615204801前に書いたブルックナーの交響曲集に続いて、新規リマスターによるマーラーの交響曲集を聴いた。ただし、こちらはコロンビア交響楽団(C)とニューヨーク・フィルハーモニック(N)による演奏である。

曲目は第1番(C)、第2番「復活」(N)、第9番(C)、それに「大地の歌」(N)の4曲で、偶然だろうが、ブルックナーの場合と同様、セル指揮クリーヴランド管による交響曲集(第4、6番)とダブっていないところが面白い。

ワルター最晩年のステレオ録音として、作曲者の初期と晩年から2曲ずつが選ばれた理由は分からない。しかし、彼の交響曲の中では構成や楽想が比較的単純で分かりやすい第1、2番と、それらが次第に複雑化長大化(ある意味では冗長化)して第8番で頂点に達したあと、悟りの境地を開いたとでも言うべき最後の2曲(第10番は未完)とは好対照をなし、マーラーの交響曲のエッセンスを味わえるセレクションかもしれない。

そうした選曲のせいもあるかもしれないが、アルバム全体を通じて大変聴きやすく、見通しの良い演奏が展開されていることは特筆に値する。膨大なスコアの意外なところに対旋律が潜んでいて、それを明確に浮かび上がらせることで、楽曲の立体的な構造が可視化するというのか、聴いていてハッとさせられる箇所がいくつもあった。

それを助けているのが、ステレオ最初期の1960年前後というのが信じられないほど優秀な録音で、オリジナルテープからのリミックス、リマスターがそれを十全に引き出している。「復活」終楽章の合唱がやや遠くてぼやけた感じはあるけれど、クライマックスまで歪のない迫力ある音に驚嘆した。

ところで、「大地の歌」と第1番の余白に収録された「さすらう若人の歌」(C)でメゾを歌っているのは、ミルドレッド・ミラーという歌手である。ワルターの「大地の歌」と言えば、ウィーンフィルとの録音で共演したキャスリーン・フェリアーの伝説的な名唱が有名だが、こちらもなかなか味わいのある歌唱を聴かせている。「若人の歌」も瑞々しい表現が素晴らしい。

ネットで検索してみたが、この録音に関する情報以外、彼女について言及した記事はさほど多くなく、日本ではあまり馴染みのない歌手のようだ。本国アメリカの Wikipedia によれば、彼女は1924年にドイツ人移民の子ミルドレッド・ミュラーとしてオハイオ州クリーヴランドに生まれた(のちに改名したのは米国内の反ナチ感情を考慮したためという)。

1949年には両親の故郷シュツットガルトに移り、当地を含むいくつかの歌劇場、音楽祭でデビューを飾った。その活躍がメトロポリタンオペラのビング総裁の目に留まり、51年にはケルビーノ役でメットデビューを果たす。その後23年の長きに亘ってメットの看板歌手として活躍したが、配役としては男装のズボン役が多く、“Legs Miller ” の綽名をもっていたという。

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