歌劇「マゼッパ」
チャイコフスキー2作目のオペラ。2019年、マリインスキー劇場公演の録画を鑑賞。指揮ワレリー・ゲルギエフ。
1709年のポルタヴァの戦いでロシアに敗れたウクライナの統領マゼッパを題材にしたプーシキンの詩「ポルタヴァ」を原作とし、チャイコフスキー自ら加筆した台本をもとに作曲された、悲恋と政治的裏切りの歴史ドラマである。
マゼッパの友人で裕福な地主コチュベイの娘マリアは、親子ほども年が離れたマゼッパに思いを寄せ、コチュベイの制止にもかかわらずマゼッパの元に駆け落ちしていく。娘を奪われたコチュベイはマゼッパに復讐しようと、ある計画を実行に移すが失敗し、同志ともども処刑されてしまう。
一連の経緯を知らされて正気を失ったマリアは、ポルタヴァの戦いから敗走してきたマゼッパと再会しても分からず、マゼッパに殺された幼馴染アンドレイを子供と勘違い、その遺骸を抱きながら子守唄を歌ううちに幕となる。この上なく陰惨で、どこにも救いのない悲劇である。
しかし、歌手(名前も知らない人ばかりだったが・笑)、管弦楽、合唱、民族色豊かなダンスや衣裳、舞台装置に至るまで、その全てが一級品で、ロシア文化の底力をまざまざと感じた。
と、これまでの記事ならここで終わるところだが、実は今回の鑑賞体験は自分にとって、大きな転換点となる可能性をもったものとなった。
オペラについては、前の記事で書いたように50作以上を集中的に観てきて、ひと通りの経験をしたつもりではいた。今回は久しぶりにオペラを観てみるかというぐらいの軽い気持ちで、オペラの本流がイタリアだとすれば、傍流のまた傍流に当たるロシアもの、その中でも決してメジャーとは言えない作品に大きな期待はしていなかった。
しかし、意外にも今回の鑑賞体験で、オペラというものがようやく本当に分かり始めたという実感が湧いたのだ。登場人物の心情に深く感情移入(一応悪役のマゼッパにすら)するとともに、それと一体となった音楽に心動かされ、これまでは余興としか思えなかったバレエにも目を奪われた。
上述した本公演の完成度の高さが直接のきっかけとなり、これまでのオペラ鑑賞体験がここに来てようやく結実したのだろうか。今後、オペラを観る自分の目が変わり、本当の意味でオペラを楽しめるようになるかもしれない。そのために自分に残された時間はあまりに少ないのだけれど、せめて主要作品だけでも再度観ておきたいと思った。
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コメント
まだ誰もマスクをしてなかった2019年の暮れ
翌年の生誕180年を記念しての「チャイコフスキー・フェスティバル」
ゲルギエフ率いるマリインスキー歌劇場と管弦楽団
「スペードの女王」を観たかったんですが、いつものようにお金と暇がなくて。(苦笑)
その後のコロナ禍で、ベートーヴェンの生誕250年も吹っ飛んで・・・
で、ロシアのオペラ
さすがツァーリの大帝国。マリインスキー劇場も女帝エカチェリーナ2世の命で建てられたもの。
おっしゃる通りロシア文化の底力でしょうね。輸入品のオペラを自家薬籠中の物にしています。
プーシキンなどの国民主義の影響を受けて、暗く重いテーマが多いし、メロディも民族的で、主人公がバリトンやバスの場合も多くて、土俗的で野太い声を響かせる独特な世界をつくっていますね。だから、ロシアのオペラには、やはりロシア人の歌手が向いているのかもしれません。(名前は知らなくても)
国ごとに違う民族性を反映するところがオペラの面白いところです。
オペラって、本当にいいですね!(どこかで聞いたセリフ:笑)
投稿: ケイタロー | 2021/06/06 20:27
ケイタローさん
言葉としては全く分かりませんが(苦笑)、
ロシア語の音の響きも関係しているでしょうね。
子音が目立って寒々とした感じがします。
投稿: まこてぃん | 2021/06/07 10:55