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2021/05/19

クリュイタンスのベートーヴェン交響曲全集

Cluytens

ベルリンフィル初のベートーヴェン交響曲全集として有名なセットである。かつて東芝EMIの千円盤LP「セラフィム名曲シリーズ」で発売されていて、「第7」は中学時代以来愛聴してきたが、今では同じ千円ほどでCD5枚組の全集盤が入手できるのだ。

雲一つない蒼天のように晴朗にして快活、どこにも余分な力が入らない演奏である。トスカニーニ盤の峻烈さも一つの行き方だけれど、妙な精神性の追求に走ることなく、こうして純粋に音楽美を堪能できるのも、ベートーヴェンの音楽の懐の深さだろう。

個人的感想を言えば、第1番から第7番まで尻上がりに完成度が高くなっていく感じがする。「田園」は確かに屈指の名演奏で、川が流れるように自然の動きと一体になったような音楽が心地よい。

第7番は第1楽章冒頭のオーボエ(多分ローター・コッホ)からして聴き惚れてしまい、生命力に満ちたリズムとメロディの饗宴で最後まで一気に聴かせる運びが見事である。こんなレコードを中学時代から聴いていたとは、自分は何と恵まれていたのだろう。

ただ、あとの第8、9番はマイクが遠いのか音がぼやけた印象があり、そのせいか聴いていても音楽に集中できない。「第九」も第3楽章までは何となく緊張感に欠ける。しかし、終楽章で声楽が入ると俄然音楽が生き生きするのは、オペラ指揮者としてのキャリアが長いクリュイタンスの特質だろうか。

トスカニーニ盤から10年も経っていないステレオ最初期の録音だが、最新リマスターの成果で細部まで鮮明な音響に甦っているのに驚く。特にチェロ・バスの低弦の動きが克明に再現されており、往時のベルリンフィルの重厚な音の秘密の一端を窺い知ることが出来る。

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