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2021/05/31

『いのちの停車場』

Station_202105272220012021年、製作委員会。吉永小百合、西田敏行ほか。配給元東映の紹介文。

東京の救命救急センターで働いていた、医師・白石咲和子(吉永小百合)は、ある事件の責任をとって退職し、実家の金沢に帰郷する。これまでひたむきに仕事に取り組んできた咲和子にとっては人生の分岐点。父(田中泯)と暮らしながら「まほろば診療所」で在宅医師として再出発をする。院長の仙川徹(西田敏行)と訪問看護師の星野麻世(広瀬すず)、東京から咲和子を追いかけてきた野呂(松坂桃李)と共に、咲和子は様々な事情から在宅医療を選び、治療が困難な患者たちと出会っていく。これまで「命を救う」現場で戦ってきた咲和子が「命をおくる」現場で見つけたものとは…?(引用終わり)

「命をおくる」現場、つまり終末期医療が本作のひとつのテーマで、死との向き合い方は人それぞれだと痛感させられたが、もうひとつ、地方の一診療所が取り組む在宅医療が重要な要素になっている。

それぞれの患者が在宅医療を選択した事情も、また人それぞれである。いつまでも現役で仕事をしていたい、家族の世話は他人に任せられない、国民医療費をムダに使いたくない、先進医療に消極的な病院は信用できない、などなど。

初めての在宅医療に戸惑っていた主人公は経験を重ねるにつれ、そうした個々の事情を酌んだ上で、その患者にとって最も望ましい医療とは何かを摸索するなかで、医師としてまた人間として新たな成長を遂げていく。

ところで、実際に自宅で死を迎えるのはいくつかの問題を孕んでいる。医師が臨終に立ち合い、死亡診断書を発行してくれる場合は良いが、そうでない場合は警察が入り、犯罪の恐れがないか「検視」が行なわれることがあると聞く。

そんなことがないよう、自分自身は最後は緩和ケア施設に入って、なるべく家族に迷惑をかけないようにしたいと思っているが、さらに現実的な理由として、もし自宅で死んだら我が家の狭い間取りでは棺桶を搬出するのが難しいということがある。

金沢など北陸地方は広い家が多いという統計を見たことがあるが、この作品(原作?)はそこまで押さえているのかもしれない。

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2021/05/28

クーベリックのベートーヴェン交響曲全集

Kubelikベートーヴェンの9つの交響曲を、全て異なるオーケストラを指揮して録音するという、画期的な全集盤として話題になったもので、1971年から75年にかけて各楽団の本拠地で収録されている。各曲ごとの演奏は次のとおり。

第1番 ロンドン交響楽団
第2番 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
第3番 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
第4番 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
第5番 ボストン交響楽団
第6番 パリ管弦楽団
第7番 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
第8番 クリーヴランド管弦楽団
第9番 バイエルン放送交響楽団

こうして見るとまさに世界の主要楽団の揃い踏みで、その聴き比べという楽しみもあるけれど、クーベリックの一貫した解釈がどの演奏からも窺える点が興味深い。どっしりと安定感のある正統派そのものの演奏で、かつての巨匠指揮者の芸を受け継ぐような悠然とした運びに安心して身を委ねることが出来る。

中でも手兵バイエルン放響を振った第九がピカ一の出来で、次いでウィーンフィルとの第7、ボストン響との第5が素晴らしかった。9、7、5と来て、ベルリンフィルとの「英雄」が期待ほどでなかったのは残念だが、カラヤン全盛期の当時のベルリンフィルとは相性が良くなかったのかもしれない。以前に書いた「流線形の音楽」との路線の違いとでも言うべきか。

ところで、ジャケットの楽団名の表記は、イスラエルフィルを除き基本的に現地語だが、ウィーンフィルのみ独英併記、またクリーヴランド管弦楽団の前に “members of” がついている。CDのレーベルは通常表記なのにちょっと不思議である。

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2021/05/25

1本多くない?

Img_0979加入している某生命保険の外交員さんから毎年、ディズニーのカレンダーを頂く。子供が小さかった頃の慣例がそのまま続いているのだが、我が家で必要なカレンダーの部数にきっちり組み込まれている。(笑)

図柄は例年どれも似たり寄ったりだが、1枚の絵の中に「隠れミッキー」が確か5箇所だったか潜んでいるらしい。全部発見したことは一度もないけれど。

ところで、つい最近になって月の名前のバックのイラストに誤りを発見した。ト音記号や音符があるので、波打つ平行線は五線譜をデザインしたものと思われるが、よくよく見ると線が6本になっているのだ。

Img_0985

調べてみたら、音楽史上「六線譜」や「八線譜」が使われたことはあるものの、一般的ではなく定着しなかったそうだが、さすがに「夢と魔法の国」では使われる楽譜も普通ではないようだ。(笑)

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2021/05/22

「東京オリパラ強行論」3人衆

東京オリンピックとパラリンピックは、常識的な感覚からすると到底開催できると思えないが、五輪開幕まで2か月となった現時点においてもなお、IOCサイドは強行論を崩そうとしていない。

その中心人物は言うまでもなく、「日本人は忍耐強い」とか宣ったというバッハ会長であるが、側近のコーツ副会長が「緊急事態宣言下でも大丈夫」と更に踏み込めば、世界陸連のコー会長も「世界の数十億人が開催を望んでいる」と援護射撃を行っている。

ところで、今日の記事の主眼はオリパラ開催の是非ではない。これら3人衆の名前についてである。コーツ氏とコー氏(紛らわしい!)のファーストネームは、それぞれジョンとセバスチャンで、英語の「ジョン」はドイツ語では「ヨハン」に相当する。

もうお分かりだろう。3人衆の名前を繋ぎ合わせると「ヨハン・セバスチャン・バッハ」となるのだ。最近の五輪ニュースを見るたび、偉大なる「音楽の父」も草葉の陰でさぞ驚いているに違いないと思う、今日この頃なのである。(笑)

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2021/05/19

クリュイタンスのベートーヴェン交響曲全集

Cluytens

ベルリンフィル初のベートーヴェン交響曲全集として有名なセットである。かつて東芝EMIの千円盤LP「セラフィム名曲シリーズ」で発売されていて、「第7」は中学時代以来愛聴してきたが、今では同じ千円ほどでCD5枚組の全集盤が入手できるのだ。

雲一つない蒼天のように晴朗にして快活、どこにも余分な力が入らない演奏である。トスカニーニ盤の峻烈さも一つの行き方だけれど、妙な精神性の追求に走ることなく、こうして純粋に音楽美を堪能できるのも、ベートーヴェンの音楽の懐の深さだろう。

個人的感想を言えば、第1番から第7番まで尻上がりに完成度が高くなっていく感じがする。「田園」は確かに屈指の名演奏で、川が流れるように自然の動きと一体になったような音楽が心地よい。

第7番は第1楽章冒頭のオーボエ(多分ローター・コッホ)からして聴き惚れてしまい、生命力に満ちたリズムとメロディの饗宴で最後まで一気に聴かせる運びが見事である。こんなレコードを中学時代から聴いていたとは、自分は何と恵まれていたのだろう。

ただ、あとの第8、9番はマイクが遠いのか音がぼやけた印象があり、そのせいか聴いていても音楽に集中できない。「第九」も第3楽章までは何となく緊張感に欠ける。しかし、終楽章で声楽が入ると俄然音楽が生き生きするのは、オペラ指揮者としてのキャリアが長いクリュイタンスの特質だろうか。

トスカニーニ盤から10年も経っていないステレオ最初期の録音だが、最新リマスターの成果で細部まで鮮明な音響に甦っているのに驚く。特にチェロ・バスの低弦の動きが克明に再現されており、往時のベルリンフィルの重厚な音の秘密の一端を窺い知ることが出来る。

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2021/05/16

ノンアルワイン

Kimg13011禁酒生活も2年近くになった。元日だけは缶ビール1本程度飲むけれど、普段はもうアルコールが欲しいという気持ち自体が失せてしまった。人体の環境への適応力というのは大したものなのだ。

ただ、食事のときにお茶や水だけというのはいかにも味気なくて、少し前まではノンアルビールを飲んでいたのだが、最近薬が変わった関係で、冷たいものや泡の出るものはNGとなり、代わって登場したのがノンアルワインというわけである。帰省した息子がプレゼントしてくれたベルギー産のが意外に「イケる」飲み口で、自分でも取寄せて飲むようになった。

曰く「低温低圧蒸留による脱アルコール製法により、本物ワインからアルコールを抜くことで、ノンアルワインを実現しています。日本のノンアル飲料と言うと、例えば、ぶどうジュースに様々な香料を加えて、ワインに似せたワイン風飲料などがありますが、ヴィンテンスは本物のワインのアルコールがない飲料であり、れっきとしたノンアルワインと言えます」とのことである。

ただ、禁酒法時代を思わせる現下の情勢で、飲食店筋からの需要も増加しているようで、最近は品薄傾向が続いている。取りあえず数本は確保してあるけれど、入手困難になれば「ぶどうジュース」のお世話にならざるをえなくなるかもしれない。

ところで、ワインを原料に作った商品ではあるけれど、ラベルの表記が「清涼飲料水」となっているのが面白い。

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2021/05/13

第1回ワクチン接種

Kimg1295 10日、母がコロナワクチン接種第1回を受けた。指定された時間に会場に向かうと、対象となった85歳以上の老人たちが、大抵は家族に付き添われて集まってきていた。

予約の段階では電話が繋がらなかったりといった混乱があったが、当日の運営は初日にもかかわらず意外にもスムーズそのもので、指定の枠よりも早い時間に問診から接種まで完了した。

接種の様子はTVニュースなどで散々見ていたが、実際あっという間に済んで、本人によれば痛みもほとんどなかったという。15分の待機時間も何事もなく過ぎ、第1回目は無事に終了した。

第2回は前に書いたように1か月以上先になっていて若干不安が残るが、後で電話窓口に確認したところ、3週間から6週間の間に接種すれば支障はないとのことのようで、今さら一旦キャンセルして予約を取り直すと更に後になるリスクもあることから、このまま指定された日程で接種することにしている。

ただ、ワクチン接種によって「発症や重症化を予防する効果」が期待されるというのであって、「コロナに罹らない」「罹っていても他人にうつさない」ということではないので(詳しくはここを)、従来の3密対策などが引き続き必要なことに変わりはない。

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2021/05/10

歌劇「ポーギーとベス」

Porgybess_20210509212101オペラネタは久しぶり。ガーシュウィンが1935年に作曲したオペラ。2020年2月、コロナ禍直前に行われたメトロポリタンオペラ公演の録画を鑑賞。METライブビューイングの紹介文。

1920年頃のチャールストン、海岸沿いにある黒人たちの集落。腕っ節自慢のクラウンは、サイコロ賭博の最中に仲間のロビンズを殺し、逃亡する。置き去りにされたクラウンの情婦ベスは、前から彼女を想っていた足の不自由なポーギーにかくまわれた。やがて2人は恋仲になる。沖にある離島に隠れていたクラウンは、ベスを諦めてはいなかった。ポーギーは、ベスとよりを戻そうと家に忍び込んだクラウンを乱闘の末、殺してしまう…。(引用終わり)

伝統的なヨーロッパオペラとは一線を画し、アメリカの社会や文化を色濃く反映したストーリーで、音楽的にはもう半ばミュージカルと言って良い。実際、ボストンのコロニアル劇場で行われた初演はパッとせず、ブロードウェイ・アルヴィン劇場でのNY初演から人気が出始めたという。

一方で、様式的にはナンバー・オペラのように、アリアや重唱、合唱とそれ以外の「地」の部分が明確に分かれていたり、結局のところ「ファム・ファタル」に最後まで翻弄される男の物語であったりという、やや古典的な匂いを感じたのも事実だ。

しかし、そこはさすがにメトロポリタンオペラである。警官など白人役以外は全て黒人キャストを起用。ジャズや黒人霊歌などの影響を受けた音楽、それにダイナミックなダンスなどで、ガーシュウィンが現地取材までして描こうとしたアメリカ南部の作品世界を完璧に再現していた。

なかでも、「ニーベルングの指環」でアルベリヒ役を好演していたエリック・オーウェンズが、冒頭ゲルブ総裁がアナウンスした風邪症状を感じさせない熱唱熱演ぶりで貫禄を示し、それに新進ソプラノのエンジェル・ブルーが互角に渡り合っていたのが印象的だった。

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2021/05/07

『引っ越し大名!』

Hikkoshi2019年、製作委員会。星野源、高橋一生、高畑充希ほか。アマゾンの紹介文。

江戸時代の姫路藩。書庫にこもって本を読んでばかりの引きこもり侍・片桐春之介(星野源)は、突然【引っ越し奉行】に任命される。引っ越し奉行とは、すべての藩士とその家族全員で別の国に引っ越し(国替え)をする際の総責任者である。突然の大役に怖気づく春之助は、幼馴染で武芸の達人・鷹村源右衛門(高橋一生)や前任の引っ越し奉行の娘である於蘭(高畑充希)に助けを借りることに。こうして前代未聞の引っ越し準備が始まった! 移動人数10,000人! 距離600Km! 予算なし・・・!  果たして春之助は、この超難題プロジェクトを知恵と工夫で無事に成し遂げ、国を救うことができるのか?!(引用終わり)

公式サイトやDVDのジャケットなどから、ドタバタのコメディ作品を予想していたが、いい意味で裏切られた。もちろん笑える場面も少なくないが、それよりも主人公春之助が経験のない大仕事を通じて人間として成長していく様子や、幼馴染の源右衛門との厚い友情関係、引っ越し指南役となった於蘭との恋愛感情など、ヒューマンドラマとしてなかなかよく出来た作品であると思った。

自らの保身しか考えない上司たち、経費削減のためのリストラや断捨離など、今のサラリーマン社会にも通じるものがある。その面では時代劇向きとは思えない星野源が主役でも違和感はさほどなかったし、脇役のベテラン俳優陣がしっかり彼を盛り立てて雰囲気を作っている。姫路城や彦根城などの背景映像(合成かCGかも)は美しく、最後にはチャンバラあり、ホロリとさせる結末も用意されていて、娯楽作品として十分楽しめた。

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2021/05/04

ワクチン接種の予約完了

自分ではなく85歳の母の話である。先日市役所からコロナワクチンの接種券が届いていて、その案内に従い先月19日に1回目、今月1日に2回目の予約を、ともにインターネットで済ませた。ただし、指定日はそれぞれ5月10日と6月12日で、1か月以上の間隔が空いている。

本来は3週間の間隔を空けて2回分を一度に予約するのが望ましいと思うが、先月の段階では2回目の予約は出来ず、1日にアクセスした際は自動的に6月12日が割り当てられた。システム上の制約なのかもしれないが、ワクチンの有効性に影響がないのか心配になる。

電話受付の方は全くつながらなかったと聞くし、1日の予約開始の案内が当日の朝投函されていたりといった混乱が生じたが、他の市町村でもいろいろとトラブルが発生しているようである。

昨年の10万円の特別定額給付金に続いて、事務処理を市町村に丸投げしたことの弊害は明らかである。シロウト考えだけれど、国の方で標準的なシステムを開発して市町村に配布するとか、そういうことは出来なかったのだろうか。

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2021/05/01

トスカニーニのベートーヴェン交響曲全集

Toscanini1949年から53年にかけて、NBC交響楽団を指揮してカーネギーホールで録音された。不朽の名盤とされるが、これまで何となく敬遠していて、一度もきちんと聴く機会を持たなかった。とにかく古いモノラル録音で、キビキビと言えば聞こえは良いが、即物主義的で味わいに乏しい演奏だろうという勝手な先入観があったのだ。

結論的に言えば、両者とも全くの誤解であった。前者については、確かに1950年前後のモノラル録音には違いないが、クオリティは十分に高く、高音から低音までバランス良くとらえられ、Dレンジも結構広い。象徴的なのが「田園」の第4楽章で、ティンパニの炸裂、コントラバスの地を這うような音が見事である。

演奏内容について言えば、これも確かにテンポは速い。しかし、速すぎるということはなく、予想を少しだけ裏切る程度の速さであって、慣れればこれが結構快適になる。それよりも問題は音楽の中身で、精密機械のようなイン・テンポの流れの中で、旋律を十分に歌わせて、強弱の変化も鮮やかである。

実に、トスカニーニは「カンタービレの音楽家」なのであった。それもその筈、オペラの本場イタリアはパルマに生まれ、歌劇場のチェロ奏者からスタートし、オペラ指揮者としてのキャリアを積んできた音楽家ならではの特質と言えるだろう。

9曲いずれも素晴らしい演奏、録音であるが、意外なことに「田園」が最も印象に残った。前述した第4楽章の嵐から終楽章の牧歌に至る後半部が特に秀逸である。第7番終楽章の畳みかけるような迫力にも圧倒された。

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