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2021/04/19

『大病人』

Lastdance1993年、ITAMIFILMS製作、東宝配給。伊丹十三脚本監督。三國連太郎、津川雅彦、宮本信子ほか。KINENOTE の紹介文。

俳優兼映画監督の向井武平は、ガンで余命いくばくもないオーケストラの指揮者が最後のコンサートに挑むという映画を自ら監督・主演していたが、撮影中に倒れて病院に運ばれる。妻・万里子の大学時代の友人でもある医師の緒方洪一郎が担当医となるが、向井の体はあともって一年という癌に冒されていた。緒方は向井に病名を偽り手術を施すが、暫くすると向井はまた倒れてしまう。映画の共演者であり愛人である神島彩を病室に密かに呼び出し情事を行うなど、何かと問題患者の向井に怒った緒方はつい軽率な発言をしてしまい、向井はショックのあまり自殺を図る。一命を取りとめた向井は緒方に真実を告げてくれと訴え、いがみあっていた二人は協力して死を迎えることになった。(引用終わり)

本作が製作された1990年代前半まで、癌に関して患者本人には告知しないケースが少なくなかったが、この頃を境にして時代は転換点を迎え、「インフォームドコンセント」の観点から本人に告知する方が主流となってきたという。

本作の中でもそのことが如実に現れている。前半まで向井は「胃潰瘍」とされたまま手術を受けるが、周囲の状況から「自分は癌ではないか」との疑念を抱く。自暴自棄の末に自殺を図った向井は、何とも幻想的な臨死体験をする。

奇跡的に一命を取りとめた向井はそれを境に死を覚悟し、残された時間をいかに有効に過ごすかを考えるようになる。癌の告知や余命宣告は医師にとっての敗北だという緒方医師に対して、向井は次のように言って正々堂々、むしろ晴れ晴れと告知を受けるのだ。

「俺を死なすと考えるなよ」「死ぬまで、俺を最もよく生かすと考えろ」「いいんだ。この先は俺の生き方の問題で、君らの管轄外だ」「やりたいことを全てやったあとの安らかなエンディング」「うらうらと春の日の照る中を、ヒバリが上がるように昇天したいよ」

全く同感である。自分も今そのことだけを考えていると言って過言ではない。やりたいこと全てが出来るわけではないが、体力と財力(笑)の許す限りのことをし終えて、悔いのない最期を迎えたい。向井のように満足気に、そして周囲の人たちの微笑みに囲まれて。チューブで機械に繋がれたまま、ただ生かされているだけの末期なんて真っ平御免である。

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コメント

「大病人」は観ていませんが伊丹監督は風変わりな人でした。俳優、物書き、デザイナー、レポーターとマルチタレントで料理もプロ級だったとか。「~の女」シリーズはバブル時代の社会悪をバッサリ切りながらどこか過剰な演出で笑わせる手法は当時建設業界にいた小生も参考にしました(笑)。 監督の偉業の一つは宮本信子さんを大女優に育てた事でしょう。美女役から普通のおばちゃん役までこなす多彩な才能には魅了されました。監督の死後引退かと思っていましたが「阪急電車15分の奇跡」で久々に名演を拝見し安心しました。監督の死について警察発表は「自殺」となっていますが小生はまったく信じていません。

投稿: ブッちゃん | 2021/04/25 11:02

ブッちゃん
エッセイ集『女たちよ!』はかつての愛読書でした。
宮本信子さんは語り口がどことなく昭和前期のような
イントネーションや声色を漂わせて独特ですね。
『阪急電車…』にはうちの娘が一瞬出演しています。

投稿: まこてぃん | 2021/04/26 09:20

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