« 喜歌劇「こうもり」 | トップページ | アーノンクールのブラームス交響曲全集 »

2020/11/11

『炎上』

Enjo1958年、大映。市川崑監督。市川雷蔵、中村鴈治郎、仲代達矢ほか。実際の放火事件に題材を取った三島由紀夫の名作『金閣寺』を映画化したもので、金閣(寺の猛反発を受けて映画では驟閣(しゅうかく)に変えている)の美に憑かれた挙句、これに放火焼失させた学僧の生い立ちから最期までを描く。アマゾンの紹介文。

昭和19年春、溝口吾一は田山道詮老師が住職を務める京都の驟閣寺に、徒弟として住み込むようになった。吾一にとって驟閣はこの世で最も美しいものであり、信仰に近いまでの憧憬の念を抱いていた。だが戦後、観光地と化した寺の経済は潤い、老師の生活も一変する。吾一の違和感は絶望へと変わり、やがて破局を迎える——。(引用終わり)

今年は三島の歿後50年に当たる。また、小池真理子がエッセイの中で三島文学のことを何度となく書いていたのに感化されて、これまで読んだことがなかった彼の小説から、代表作『金閣寺』を読んでみたのだけれど、正直言って読み通すだけで大変骨が折れた。

風景描写などでの文章の美しさ、巧みさを感じさせる箇所は少なくないものの、主人公の屈折した心理を、凝ったレトリックと比喩、逆説的な表現で描写している部分は、あまりに凝り過ぎて何を言っているのかよく分からない。

それならばと、別の角度からこの小説を味わうべく、三島本人も「手ばなしで褒めた」という本作を観てみることにした。結論的に言えば、現実の放火事件と、それを題材にした小説、それらを下敷きにした本作映画と、虚実3通りの世界が存在しているように感じた。

郷里の官能的で美しい娘・有為子に軽蔑された記憶や、学友・柏木に紹介された女性たちとの気まずい体験といった、小説世界では主人公の人生(女性)体験の重要な鍵となるエピソードが映画ではバッサリ省かれ、逆に小説では書かれなかった逮捕後の顛末について、映画では冒頭と最後で詳しく描写している。より現実の出来事に近づけた構成というべきだろうか。

大覚寺の境内に金閣に似せて建築した驟閣を、実際に炎上させて撮影したクライマックスは、60年以上も前のモノクロ映像とは思えないほどの迫力がある。それ以外でも、たとえセリフがなくても、陰影に富んだ美しい映像が語りかけてくるものは言葉以上に雄弁だ。

本作でトップスターとしての地位を確立した市川雷蔵は、以降も立て続けに名作映画を残したが、転移性肝癌のため昭和44年に37歳の若さで急逝した。

あの壮絶な三島割腹自殺事件は、その翌年のことである。

|

« 喜歌劇「こうもり」 | トップページ | アーノンクールのブラームス交響曲全集 »

コメント

巨匠・市川崑
文芸、サスペンス、コメディ、ドキメンタリー・・・とにかく多作で、Bestが選べない監督です。生誕100年の時に古い作品を貪るように観ました。で、僕の記憶に残っている作品をジャンル別に
<文芸Best5>
①「炎上」
脚本・和田夏十、撮影・宮川一夫、音楽・黛敏郎、そして市川雷蔵。すごいメンバーです。(黛敏郎のオペラ「金閣寺」がありますが未見。「炎上」へのアンサーが「五番町夕霧楼」。監督は違いますが63年版の佐久間良子がいいです。)
②「破戒」
同じキャストで、音楽は芥川也寸志。やはり奥さんの和田夏十と宮川一夫のカメラがなければ、このあたりの名作は生まれなかったでしょうね。
③「おとうと」
岸惠子みたいなお姉ちゃんがいたら・・・(僕には妹しかいなくて) 
④「細雪」
岸惠子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子の四姉妹。もうそれだけで・・・
⑤「古都」
山口百恵の二役&三浦友和、やはりこの二人でしょう!監督は違うけれど「伊豆の踊子」「潮騒」「春琴抄」もいいなぁ。

<ドキメンタリーBest3>
①「東京オリンピック」名作です!(キッパリ)
②「太平洋ひとりぼっち」
石原裕次郎主演で、純粋のドキメンタリーとはいえませんが、子供心に感動した覚えがあります。
③「映画女優」
これもドキメンタリーとは言いにくいですが、田中絹代の半生を吉永小百合が演じています。周辺の話が面白いです。
岩井俊二の『市川崑物語』は正真正銘のドキメンタリー。勉強になります。

<金田一耕助Best3>
①「犬神家の一族」76年作品、リメイク版はダメです。
②「悪魔の手毬唄」
③「女王蜂」
京都に来たばかりのころ立て続けに公開され、映画を観てはじめて横溝正史を読みました。
でも原作と違うところが結構あって・・・

<番外編>
「黒い十人の女」
やけに記憶に残っている映画です。岸恵子、山本富士子、宮城まり子、中村玉緒、岸田今日子。もうそれだけで・・・
三谷幸喜が「ザ・マジックアワー」でパロってました。

最後に(長くなってすみません)
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』めちゃ面白かったです。

投稿: ケイタロー | 2020/11/13 14:52

ケイタローさん
恒例のBest作品紹介、ありがとうございます。
え、これも市川崑作品だったのかと驚くばかりですが、
『炎上』以外、実際に観た作品は一つもありません。
追々機会を見てその作品世界を体験してみたいです。

投稿: まこてぃん | 2020/11/14 18:09

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 喜歌劇「こうもり」 | トップページ | アーノンクールのブラームス交響曲全集 »