『リチャード・ジュエル』
2019年、米。クリント・イーストウッド監督。Wikipedia の紹介文。
1996年7月27日、警備員のリチャード・ジュエルはアトランタ五輪の会場近くの公園で爆発物を発見した。リチャードの通報のお陰で、多くの人たちが爆発前に避難できたが、それでも2人の死者と100人以上の負傷者を出す大惨事となった。
マスメディアは爆発物の第一発見者であるリチャードを英雄として持ち上げたが、数日後、地元紙が「FBIはリチャードが爆弾を仕掛けた可能性を疑っている」と報じた。それをきっかけに、マスメディアはリチャードを極悪人として糾弾するようになった。
FBIはリチャードの自宅に2回も家宅捜索に入り、彼の知人たちにも執拗な聞き込みをするなど常軌を逸した捜査を行った。ジュエルはかつての職場で知り合った弁護士ワトソン・ブライアントを呼び出し、彼と共にこの理不尽な状況と対峙していくことになる。(引用終わり)
リチャードは大変正義感が強く、一時は副保安官の職に就いていた。警備員の薄給で老母を養う今も、いずれは警官になりたいと願っているが、FBIはそうした彼の性向をある種の英雄願望と結び付けて嫌疑を強める一方、事情聴取での彼の協力を引き出す材料にしたりもする。
状況証拠だけで被疑者を拘束し、誘導尋問で自供を引き出そうとする杜撰な捜査を、あのFBIが本当に続けたとは信じがたいが、その情報がリークされてマスメディアの餌食になった瞬間から、リチャードは英雄から極悪犯罪人へと境遇が一変する。
もし同じような事件が、人々の情報網がSNSなどを含めて多様化する一方で、現職大統領がマスメディアを「フェイクニュース」と平気で断じる現在に起きていたらと思うと、真偽入り乱れた情報の混乱は想像すらつかない。
1996年に実際に起きた事件を題材に取りながら、イーストウッド監督が突き付けているのは、まさに現代に生きる我々が本当の意味での情報の取捨選択能力を持ち得ているのか、もしそうでないならどうすれば良いのかといった深刻な課題であると思う。
俳優陣では、主人公リチャードを演じたポール・ウォルター・ハウザーが本人にそっくりと話題になったそうだが、その母親ボビを演じたキャシー・ベイツがさすがの貫禄を見せていて、事件解決への分水嶺となった終盤の記者会見のシーンは圧巻だった。一匹狼の弁護士ワトソンを飄々と演じたサム・ロックウェルも好演、笑いをかみ殺しながらリチャードとともにFBIから揚々と立ち去るシーンが最高だった。
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