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2020/10/21

セルの「新世界」

Szellドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調作品95。「新世界より」という標題で知られた名曲中の名曲である。「家路」として有名な第2楽章のテーマが全国各地の小学校の下校音楽になっていたり、第4楽章の主題が繁華街「新世界」に近いJR新今宮駅の発車メロディに使われているほどだ。

ただ、個人的な感想を言えば、あまりに名曲すぎて何度も聴く気が起こらないのが正直なところ。メロディや構成、オーケストレーションを含め、よほどよく出来た曲なのか、プロアマ問わず誰が演奏しようとそれなりに聴こえるという不思議な楽曲で、何となく面白味がないのである。その代わり、心を震わせるような名演奏というのにも出くわしたことがない。「新世界に名演駄演なし」というのが持論だった。

しかし、ジョージ・セルは違った。全体的にセルの持ち味であるキビキビとした演奏で、余計な感情移入を排した純音楽的な表現が貫かれている。なかでも驚いたのが、第2楽章の中間部46小節目以降である。それまでのほのぼのとした雰囲気が一転、人生の悲哀を切々と語るかのような表現に度肝を抜かれた。Meno という指示のある78小節目からの痛切さはいかばかりだろう。

その後、木管楽器から始まる6連符の特徴的なリズムを持つテーマでほっと救われ、全管弦楽のクライマックスを築いた後、冒頭のテーマの再現となるが、今度はイングリッシュホルンは4小節でお役御免となる。そこまで各パート4人で伴奏していた弦楽器群が続きを受け持ち、最初は各パート2人、そして最後はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3人だけの合奏となる。

下手をすると甘ったるいムードミュージックになりかねない箇所だが、ここでのセルの表現は休符を含めて精緻を極めており、息を呑むような迫力すら感じさせる。こんな演奏は他では絶対にないだろう。

セルはハンガリー生まれだが、母方にチェコの血が混じっているそうで、チェコ音楽には人一倍の思い入れと自信を有していたという。その自負がただものでないことを十分に感じさせる演奏である。新世界にも名演はあったのだ。

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コメント

ソニーのリマスター盤ですね。セル盤は聞いたことがありませんが、50年代の録音がクリアに聴ける、昨今の技術の進歩に感謝です。
そして、おっしゃるとおり「誰が演奏してもそれなりに聴こえる不思議な楽曲」。
管の上手下手、アンサンブルの乱れが素人でもわかる曲なのに・・・

それはひとえに、
涙なくして聴けない2楽章。まだ十分明るい校庭に、このメロディーが流れると帰らなければならなかった、あの寂しさを思い出して、ホロッとします。
そして、勇壮なテーマで始まる4楽章。勇気凜々。時々過去のテーマが亡霊のように蘇り・・・もう勢いだけで一気呵成に突っ走る演奏も可。これぞオーケストラの醍醐味。終わりよければすべてよし!
のおかげだと思うんです。

で、これまた僕の思い込みですが、民族色の強い音楽は、やはりその国の演奏家がいいのではないかと。セルにもボヘミアの血が流れているようですが、ここは生粋の(クーベリック、アンチェルもいるけれど)ノイマンとチェコ・フィルです。これしか持っていないので。(^^!

投稿: ケイタロー | 2020/10/22 14:52

新今宮駅が「新世界」とは、ストレートながら知りませんでした(^^;。今度、聴きに行きます(笑)。11/7-9に大阪.京橋、12/17-19に再び大阪と2回出張がありますので。ご時世ゆえ、ちょっと今回はお会いできそうにないですね。残念。さて「新世界」ですが、これは過去に数回、演奏したこともあります。Hnは4楽章後半の段々加速して吹奏していく個所がなかなか合わず苦労したことがあります。セルはドヴォ8もいいですね。「新世界」については小澤さんの演奏も好きです。カラヤン・チェコフィルという組み合わせは、自分のブログに書きましたが、お互い、前半はうまく合わないものの、後半はカラヤンの手に収まるって感じの演奏でした。ケイタローさんのクーベリック、アンチェル、そしてノイマンも素晴らしいですね。「ノイマン・チェコフィル」「カラヤ・ベルリンフィル」「オーマンディ・フィラデルフィア」「メータ・ロスフィル」等は当時はこれで一語でしたね(笑)。

投稿: frun 高橋 | 2020/10/22 15:59

ケイタローさん
仰るとおりで、要するに「格好いい」曲なのでしょう。
終楽章の最後も、一旦ピアニシモまで落としておいて、
冒頭主題をフォルティシモで総奏して盛り上げる…。
心憎い演出ですね。そのくせ、最後の最後の和音は
なぜかディミニュエンドして終わるという不思議!

frun 高橋さん
私は演奏したことはありませんが、スコアを細かく見ていくと、
リズムが結構難しかったり、合わせづらい箇所がありますね。
本文に書いた弦楽器の用法など凝ったこともしてまして、
第2楽章冒頭は変ニ長調なのにクラリネットはA管を指定。
3小節目に低い des があり、Bb管では出ないからです。
今回は残念ですが、またお会いできる機会があれば是非!

投稿: まこてぃん | 2020/10/23 18:42

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