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2020/10/12

歌劇「フィデリオ」

Fedelioベートーヴェン唯一のオペラ。1805年、アン・デア・ウィーン劇場で初演。2004年のアーノンクール指揮チューリヒ歌劇場公演のDVDを鑑賞。

セヴィリャ郊外の刑務所。フロレスタンは政敵である刑務所長ピツァロにより無実の罪で捕らえられ不当に監禁されている。フロレスタンの妻レオノーレは男装してフィデリオという偽名で刑務所に潜入、看守ロッコのもとで助手として働きながらフロレスタンを救出する機会を窺っていた。
ある日、ピツァロはフロレスタンの旧友で司法大臣のドン・フェルナンドが視察に来ると知り、その前にフロレスタンを暗殺しようと決心する。地下牢で剣を抜いたピツァロがフロレスタンを刺そうとした刹那、間に割って入ったレオノーレは「まず妻を殺せ!」と自分の正体を明らかにする。ちょうどその時大臣到着を知らせるラッパが鳴り響き、ピツァロの悪事が白日の下に晒される。フロレスタンはじめ囚人全員が解放され、一同がレオノーレの勇気と神を讃えるなか幕が下りる。

ベートーヴェンが何度も改訂を繰り返し、序曲だけで4種類あるなど大変な心血を注いだ作品である。内容的にも自由、解放、夫婦愛を讃える啓蒙主義的な色彩が強く、オペラにしては肩肘張った堅苦しい作品ではないかと敬遠していたが、意外にもそれほど説教臭くはなかった。

レオノーレとフロレスタンの崇高な夫婦愛を賞賛するだけではなく、ロッコの娘マルツェリーネがフロレスタンの男装姿フィデリオに惚れ込み、そのマルツェリーネに横恋慕した門番ヤキーノがしつこく言い寄りといった、よくありがちな実らぬ恋愛を織り交ぜている面白さもある。

しかし、何よりもベートーヴェンの音楽そのものが、諸々の欠点を覆い隠して余りあるほどの説得力をもっている。アーノンクールが指揮したチューリヒ歌劇場の演奏がまた素晴らしく、オケと合唱はとんでもなく上手いし、舞台上の歌手たちのアンサンブルはスタジオでのセッション録音かと思うほどに完璧である。特に、第2幕からしか登場しないフロレスタン役のヨナス・カウフマンが、声楽的には無理があるというベートーヴェンの要求に見事に応えている。

余談を少々。「フィデリオ」という名前は、英語の fidelity(忠実、貞節)と同様、ラテン語の fides(信用)に由来するものと思われ、夫フロレスタンに忠誠を尽くす妻の理想像という意味を籠めた偽名なのだろう。さらに余談になるが、オーディオ用語の high fidelity は「高忠実度(再生)」を意味し、Hi-Fi と略される。それをもじったのが Wi-Fi である。

10月11日 ジョグ4キロ

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コメント

先輩のハイドンやモーツァルトとちがって、なぜベートーヴェンはたった1曲しかオペラを作曲しなかったのか?
あるいは、できなかったのか?
時は、フランス革命を経てナポレオン戦争の最中。
やっぱり、切った張ったの恋愛じゃなくて、自由とか博愛とか理念がないとダメだったんでしょうか。
第九にも繋がる理念が。

2004年だと、カウフマンはリリックな声でしょうね。
その後バリトンっぽく変わってしまたけれど・・・

投稿: ケイタロー | 2020/10/12 14:59

ケイタローさん
まさに仰るとおりで、ベートーヴェンは1827年の手紙で、
「オペラをまた書きたかったが、道徳的で人を高める
ような台本が見つからなかった」と書いているそうです。
第九の件もそうで、第2幕最後の合唱の冒頭に出てくる、
「優しき妻を得た者は」という歌詞は第九と全く同じです!

投稿: まこてぃん | 2020/10/12 18:17

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