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2020/09/12

歌劇「後宮からの逃走」

Serailモーツァルト26歳の1782年に初演されたジングシュピール・オペラ。1987年のショルティ指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場公演の録画を鑑賞。

18世紀トルコ。スペイン貴族ベルモンテの恋人コンスタンツェは航海中に海賊に襲われ、従僕ペドリッロ、侍女ブロンデともども、トルコの太守セリムに売られて海辺の後宮(ハーレム)に囚われている。コンスタンツェはセリムからの執拗な求愛にも応じず、ベルモンテへの愛を貫いていた。ペドリッロと恋仲にあるブロンデも、後宮の番人オスミンに言い寄られるが相手にしない。
ペドリッロから連絡を受けたベルモンテは後宮に乗り込み、コンスタンツェらを脱出させるために奮闘する。深夜の脱出計画は成功するかに見えたものの、再びオスミンに捕えられ、さらにベルモンテの父がセリムの宿敵だったこと判明する。絶体絶命の二人を待ち受けていた結末とは…。

トルコ軍楽隊の響きを取り入れた序曲は何度も聴いて親しんでいるものの、モーツァルトのオペラでは比較的若い時期の作品で、異国趣味の一風変わった作品ぐらいにしか思っていなかったが、なかなかどうして。

あらすじ自体は例によって他愛のないものだが、このオペラの作曲された年代が、故郷ザルツブルクと決別してウィーンに移住した、モーツァルトの人生の一大転機に当たることを考え合わせると、まことに興味深いものがある。

後宮に幽閉されていたコンスタンツェ(モーツァルトの妻と同じ名前なのは偶然らしい)は、父や大司教によってザルツブルクに閉じ込められていたモーツァルト自身。そこから脱出させてくれたベルモンテは、さしずめ彼の音楽を評価してくれた皇帝ヨーゼフ2世といったところか。あるいは、彼が持っていた音楽の才能そのものかもしれない。太守セリムの高い徳によってコンスタンツェが解放されるオペラのように、モーツァルトも父や大司教からの赦しと和解を願っていたに違いない。

そうした連想はともかく、音楽の素晴らしさは後の「フィガロ」他の傑作オペラにも決して見劣りしない。登場人物ごとの特色がよく表れたアリアや重唱の数々は、意表を突く転調や半音進行を交えた多彩なニュアンスを聴かせる。

ショルティはウィーンフィルを振ったCDが名盤の誉れ高いようだが、このコヴェントガーデン盤でも円熟した音楽づくりを見せている。歌手陣ではオスミン役のクルト・モルが圧倒的な存在感を示していて、ジャケット写真でも主役を差し置いて堂々と一人で写っている。(笑)

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コメント

気楽なジングシュピール。トルコ趣味もいいですね。
他愛のない話にぴったりの音楽。(失礼)でも、そこがモーツァルトのいいところで、後になれば深い洞察に満ちたシリアスなオペラもあるし。

クルト・モルといえば、クライバー/ウィーン国立歌劇場の「ばらの騎士」を思い出します。
バスが上手いと舞台が締まりますね。

で、このオペラには思い出があって(すいません、あと少し)
以前、ザルツブルク音楽祭で新解釈を観たんですが、終幕が下りる前からブーイングの嵐で・・・万雷の拍手っていうのはあるけれど。
一方、雷鳴のようなブーイングの中で懸命に拍手している人も結構いて。
自分の感性に正直なんだなぁ、とオペラの内容よりそっちの方に感心して。
で、僕は付和雷同して一緒になって足を踏み鳴らして。(^^)
ブーイングなんて、後にも先にもあの時だけです。

投稿: ケイタロー | 2020/09/14 09:50

ケイタローさん
ザルツブルク音楽祭の件、ちょっと調べてみましたが、
2003年のヘアハイム演出で、初日はブーイングのため
上演打ち切りの騒ぎにまでなったようですね。
おそらくその時のことかと思われますが、
いずれにしても、貴重な経験をされましたね。(笑)

投稿: まこてぃん | 2020/09/15 09:26

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