『心の旅路』
1942年、米。ジェームズ・ヒルトンの同名小説を、マーヴィン・ルロイ監督、ロナルド・コールマン、グリア・ガースン共演で映画化したもの。
第一次大戦で負傷して記憶喪失となったジョン・スミス(仮名)は、町で偶然出会った踊り子のポーラと恋に落ちる。彼女と結婚して幸せな日々を送っていたスミスだったが、旅先で交通事故に遭ったはずみに負傷以前の記憶を取り戻す。しかし、逆にその後のポーラと過ごした日々の記憶を失ってしまった。本来のチャールズ・レイニアとして実業家人生を歩み始めた彼のもとで、秘書マーガレットとして勤めながら彼の記憶が戻ることを祈るポーラだったが…。
タイトルも何も知らなかったが、あるところで紹介されていて興味をもったので、久々に戦前の古いモノクロ映画を鑑賞してみた。「王道」を行くメロドラマに記憶喪失を二度も絡ませたストーリーが秀逸である。
また、チャールズと姪キティとの実らなかったロマンスも、スピンオフものが一篇出来そうなくらい良く出来ている。その他、戦傷者を収容した精神病院の様子とか、戦後復興に伴う社会情勢の変化なども織り込まれ、社会派ドラマとしての奥行もある。
邦題『心の旅路』もなかなか気が利いているが、原題の Random Harvest とは、一体どういう意味なのだろうか。NYタイムズの書評では、第一大戦当時のドイツ軍による報告書にある “Bombs fell at random.”(爆弾は無作為に落ちた)から来ているとあり、Random はそこから取ったもののようである。
爆弾が無作為に落ちた結果、スミスが記憶喪失に陥り、それがもとでポーラと知り合い、さらに様々な偶然が random に作用して最終的な幸福という Harvest が得られたと、そういうことだろうか。
映画の中でチャールズ・レイニアの実家として Random Hall という立派なお屋敷が登場する。たぶんタイトルに引っ掛けた名称だろうが、英国ホーシャムには同名の古いB&Bホテルがあって、もしかするとそれを意識したのかもしれない。
ところで、DVDの特典映像として Don't Talk と Marines in the Making なる短篇2本が収録されている。おそらく本篇と併せて上映されたものと思われるが、いずれも戦時下における米国民向けの啓発映画で、これが日本版DVDにも収録されている理由は不明である。
前者は民間工場の従業員といえども情報を妄りに口外せず、スパイ活動防止に協力すべきことをサスペンス映画仕立てで訴える。後者は海軍における軍事教練の模様を具体的に紹介するという実録もので、背後から黙って襲撃してくる日本兵への対処方法などというのもある。
総天然色の超大作『風と共に去りぬ』ほどではないにしても、細かいところまでピントの合った美しい映像と粋な音楽で綴られた本篇を鑑賞するのと合わせ、観客は単なるプロパガンダではない、戦時体制に関する具体的な知識も得る。そんな国を相手に、日本人はいざとなれば竹槍で戦えると信じていたのである。
8月26日 ジョグ2キロ
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コメント
名作です
ずいぶん前の記憶ですが
昔の恋愛映画にはいいものが多いですね
「めぐり逢い」とか「哀愁」とか
思わずウルウルします
それにしても・・・
1942年の映画
真珠湾の翌年。早くもミッドウェー海戦で敗北、
大本営がガナルカナルからの撤退を決めた年です。
敵はこんなメロドラマを作っていたんですね。
こりゃ勝てるわけないか。(^^!
投稿: ケイタロー | 2020/08/28 16:20
ケイタローさん
本作の日本公開は1947年。意外と早かったのですね。
当時の日本人がどんな感想を持ったのか興味深いです。
戦争の反省もあったとは思いますが、時代はもはや
掌返しで親米化路線を歩み始めます。人々は憧れの眼差し
でスクリーンに見入っていたのかもしれません。
投稿: まこてぃん | 2020/08/29 09:03