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2020/07/23

歌劇「エレクトラ」

Elektraリヒャルト・シュトラウス(作曲)とホーフマンスタール(台本)のコンビによるオペラ第1弾で、1909年に初演された。メトロポリタンオペラ2016年公演の録画と、「サロメ」と同じベーム指揮ウィーンフィルによる映画版の2種類を鑑賞した。METライブビューイングの紹介文。

神話の時代のミケーネ王国。父のミケーネ王アガメムノンを母のクリテムネストラとその愛人エギストに殺された王女エレクトラは、復讐を心に誓っているが、頼みの弟オレストは追放され、行方が知れない。罪の意識に怯えるクリテムネストラは、悩みを解決してほしいとエレクトラに訴えるが、突き放される。その時オレストの死が伝えられ、絶望したエレクトラは一人で復讐を果たそうと決意する。だが、オレストは生きていた。再会した姉弟はみごとに復讐を遂げるが・・・。(引用終わり)

父王を母とその愛人に殺された姉弟の壮絶な復讐を描いたギリシャ悲劇をオペラ化したもの。異常性愛の「サロメ」のあとは不倫殺人に対する復讐劇と、観る方にも覚悟が必要な重い作品が続く。ジャケット写真は何だか四谷怪談みたいだし。(笑)

しかし、「サロメ」でも書いたように、そんな内容にもかかわらず、あるいはだからこそか、リヒャルト・シュトラウスの音楽の力だけで見せてしまうオペラと言って過言ではない。本作では管弦楽の規模が更に拡大し、100名を超える大編成のオーケストラが繰り広げる音楽の迫力は大変なもので、通常のオペラが「音楽付きの芝居」としたら、これはもう「芝居付きの一大交響詩」とでも言うべきだろう。

その点、ベームが病気をおして指揮台に立ち、生涯最後の録音となったウィーンフィルとの演奏は他の追随を許さないものがある。ゲッツ・フリードリヒのオーソドックスな演出も相俟って、本作の決定盤とされるのも頷ける。

エレクトラを演じたレオニー・リザネクは音域、声量とも申し分なく、大編成のオケに負けない堂々とした歌唱、演技である。「サロメ」でヘロディアスを演じたアストリッド・ヴァルナイが、クリテムネストラを憎たらしいほどの上手さで演じている。オレスト役のF=ディースカウは若干線が細く、これから人を殺めるという鬼気に乏しい。

MET公演はタイトルロールのニーナ・ステンメが迫真の演技、歌唱を見せているが、パトリス・シェローの現代風の舞台には違和感があり、結末でエレクトラが気を失って倒れるのではなく、茫然と座したままカーテンが降りるのは消化不良な感じがした。

以下は余談になる。エレクトラ(Elektra)という名前はギリシャ語のエレクトロン(琥珀)に由来するそうで、彼女が琥珀色の目をしていたからだそうだ。琥珀は布で擦ると静電気を発することから、electricity(電気)の語源になっている。

また、オレスト(Orestes)という名前からは、黄金期の西武ライオンズを牽引した「カリブの怪人」こと、オレステス・デストラーデを思い出す。しかし、復讐のためとはいえ、母親とその愛人を殺したギリシャ悲劇中の人物の名を我が子につけた親の気持ちとは、一体どんなものだったのだろう。

7月21日 ジョグ2キロ

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コメント

ロマン主義というより古典主義
古代ギリシアへの憧憬って・・・
僕たちには理解できないけれど、ヨーロッパ芸術の通奏低音でしょうか。

METに限らず、新演出にはいつも違和感がありますが、逆に音楽に集中できるような気もします。
エレクトラもサロメ同様出ずっぱりで、ニーナ・ステンメはMETの同じシーズンにトゥーランドット姫、翌年には王女イゾルデと、ワグナー歌手の実力を見せつけました。

シュトラウス&ホフマンスタールBest3
① 「ばらの騎士」
② 「ナクソス島のアリアドネ」
③ 「エレクトラ」
※「影のない女」も有名ですが観たことなくて・・・(^^)

投稿: ケイタロー | 2020/07/24 10:26

ケイタローさん
ギリシャへの憧憬が残っているからこそ、
何年か前に財政破綻の寸前まで行ったギリシャを
EUは最後まで見捨てなかったという指摘があります。
いま「ばらの騎士」鑑賞中です。しばしお待ちを。(笑)

投稿: まこてぃん | 2020/07/25 18:11

「エレクトラ」は大好きなオペラの1つです。
日本ではシノポリ、小澤で聞きましたが、やはり本場.ドイツで鑑賞したいです。このベーム盤は映像が凄くて、落ち着いて鑑賞できませんね。

ラスト「あの声が聞こえないかだって?それは私から出てるのよ!!」というあたりのリザネクの大雨下の舞がなかなかです。

F・ディスカウが少し演技が大根なのが残念です。

投稿: frun 高橋 | 2020/07/25 18:38

frun高橋さん
確かに映画版オペラの表現力は凄いものがあります。
もし、シュトラウスやワーグナーがこれを知ったら、
もっととんでもない作品を生み出したでしょう。
と同時に、歌手には歌唱力に加えて演技力や容姿も
劇場以上に要求されるので、その兼ね合いが難しい。

投稿: まこてぃん | 2020/07/26 08:29

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