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2020/07/05

歌劇「ローエングリン」

Lohengrinワーグナー作の「3幕のロマン的歌劇」。1982年、バイロイト音楽祭の公演録画を鑑賞。

10世紀のブラバント公国(現アントワープ近郊)。公女エルザは行方不明になった弟ゴットフリートを殺めたとして、王位を狙う貴族テルラムントに告訴され窮地に立たされていたが、白鳥に曳かれた舟に乗って現れた騎士が神明裁判の決闘でテルラムントに勝利してエルザを救う。
騎士は決して自分の名前と素性を尋ねないことを条件に、彼女と結婚して公国を治めることになるが、テルラムントの妻の魔女オルトラートの奸計により、エルザは婚礼の夜ついに禁を破ってそれを尋ねてしまう。騎士は聖杯王パルジファルの息子ローエングリンだと明かし、再び現れた白鳥の舟で公国を去っていく。オルトルートの魔術で白鳥に姿を変えられていた弟ゴットフリートが元に戻り、公国の後継者となるところで幕となる。

白馬ならぬ白鳥の騎士がどこからともなく現れ、困っているお姫様を助ける。お伽噺のような粗筋を読んだ段階では全然ピンと来なかったが、精妙極まる第1幕前奏曲に始まるワーグナーの音楽に魅入られ、タイトルどおり独特のロマン的作品世界に最後まで引き込まれてしまった。

名前を明かさずともその佇まいだけでエルザをはじめ公国の人々を感服せしめる騎士をペーター・ホフマンが演じている。張りのあるヘルデンテノールの声に加え、立派な体格とハンサムな容貌に恵まれ、まるで本物の騎士が現れたかのようだ。

一方、カラン・アームストロング演じるエルザは、可哀そうだけれど主体性のないお姫様という以上のものはない。それよりも魔女オルトルートこそ、ローエングリンに対抗する強烈なキャラクターを持ち、本作の実質的な狂言回し役を担う。エリザベス・コネルの歌唱と演技は憎々しいばかりで、女イアーゴと言いたくなるほど。それに引き換え、言葉ばかり威勢の良い亭主テルラムントの情けないこと。(笑)

ところで、本作が芸術はもちろん文化、社会、政治など様々な分野にもたらした影響は計り知れない。本作にのめり込んだバイエルン国王ルートヴィヒ2世は、その名も新白鳥城というノイシュヴァンシュタインを築いて国家財政を破綻させ、その経緯をルキノ・ヴィスコンティは映画「ルートヴィヒ」で克明に描いた。

アドルフ・ヒトラーもことのほか本作を愛し、第3幕第3場の「ドイツの国のためにドイツの剣を!」は、戦意発揚の音楽としてナチスに利用されるところとなった。おそらくそれを踏まえてだろう、チャップリンは「独裁者」の中で、ヒンケルが地球儀の風船で戯れるシーンで本作の前奏曲を流している。

ただのお伽噺と思ったら大間違いなのだ。

7月5日 ジョグ2キロ 

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コメント

おっしゃる通り
「ローエングリン」とくれば「ルートヴィヒ」
この王がいなければ祝祭劇場もなかったわけで。
ペーター・ホフマン懐かしいです。むかしTVでよく観ました。ポピュラーも歌っていたし。

で、ヴィスコンティ。
ドイツ三部作の中で、一番好きな作品です。
狂王ヘルムート・バーガーは妖しく、従姉弟のシシィ・ロミー・シュナイダーは美しく・・・もちろん音楽の使い方も。
本物の貴族にしか描けない世界。
すみません、また映画の話になってしまって。(^^!

ヴィスコンティBest5
①『山猫』
②『ルートヴィヒ』
③『地獄に堕ちた勇者ども』
④『家族の肖像』
⑤『夏の嵐』

投稿: ケイタロー | 2020/07/07 09:21

ケイタローさん
ベスト5には入っていませんが、
「ベニスに死す」で交響曲第5番のアダージェットが
使われていなければ、今日マーラーの音楽がこれほど
聴かれることはなかったのではないかと思います。

今日7月7日はマーラーの誕生日(1860)。

投稿: まこてぃん | 2020/07/07 18:02

今日が誕生日でしたか。
アダージェットはアルマへのラブレターといわれているので、七夕にはぴったりですね。
好きな曲ですが、あまりにベタでロマンティックで・・・(失礼!)

で、「ベニスに死す」
映画では、観光のためコレラの流行が隠され、感染して死にゆくグスタフ・ダーク・ボガードがマーラーの最期と重なって。
今回のコロナではロックダウン。世界的な観光地だけに大変な打撃でしょうね。
リド島でヴェネツィア映画祭を観るのが夢です。(^^)

投稿: ケイタロー | 2020/07/07 21:37

ケイタローさん
1911年当時は隠そうとすれば隠せたのでしょう。
SNSが普及した今となってはとても無理ですが、
今回のコロナでも発生源については同様の隠蔽疑惑が
あるようで、人間のやることは変わりませんね。

投稿: まこてぃん | 2020/07/08 18:29

⑤『夏の嵐』

と言えばブルックナー第7番!!

投稿: frun 高橋 | 2020/07/12 20:44

frun高橋さん
ブルックナーもそうですが、
アリダ・ヴァリの相手役が何と「マーラー」中尉!
冒頭はヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」ですね。
だいぶ前に観て記憶が薄れかけていました。
http://makotin.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/post-cf5e.html

投稿: まこてぃん | 2020/07/13 09:18

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