『ワンダーストラック』
2017年米。ブライアン・セルズニック原作の同名小説を映画化。トッド・ヘインズ監督。KINENOTE の紹介文。
1977年、ミネソタ。母親を交通事故で亡くし、おばさんのもとで暮らしている少年ベン(オークス・フェグリー)。実父を知らないベンは、母の遺品から父のある手がかりを見つけ出す……。その50年前の1927年、ニュージャージー。両親が離婚し、厳格な父に育てられている聴覚障害を持つ少女ローズ(ミリセント・シモンズ)は、いつも孤独を感じていた。そんなローズの宝物は、憧れの女優リリアン・メイヒューの記事を密かに集めたスクラップブックだった……。そしてある日、ベンは会ったことのない父を探しに、ローズは憧れの女優に会うために、それぞれニューヨークへと向かう。異なる時代に生きたふたりの物語は、やがて謎めいた因縁で結びつけられ、ひとつになっていく……。(引用終わり)
KINENOTE の分類では「サスペンス・ミステリー」とあるが、むしろ「ファンタジー・ヒューマン」と言う方が相応しい作品ではないかと思う。ベンとローズそれぞれの物語が、50年の時を越えて頻繁に行ったり来たりする構成に最初は戸惑うものの、NY自然史博物館という共通の場所に収斂していく辺りから目が離せなくなる。
秀逸なのは1927年と1977年、それぞれの時代を見事に再現した映像である。前者はモノクロでセリフは一切なし、劇伴が効果音を兼ねるサイレント映画風の作りになっているが、要所では聴覚障害者のローズが筆談で会話するため、大体のストーリーは理解できる。
一方、後者はいかにも70年代という感じのチープな色調で、ヒッピー風の若者が気怠そうに町を闊歩する、ベトナム戦争後のNYの街頭風景を映し出す。改装前のポートオーソリティ・バスターミナルの内部など、年代物のセブンアップの自販機が置かれていたり、一体どうやって撮影したのかと驚いてしまった。
さて、ひょんなことから自然史博物館に迷い込んだベンは、父親がそこで働くジェイミーという少年と仲良くなり、彼の情報を頼りに謎解きのカギとなるキンケイド書店に辿り着くことになる。少しだけネタバラシになるが、1927年のローズに兄から届くハガキにそのヒントがあるのだが、字幕は敢えてかどうかそこを訳していないので要注意である。
そこからラストにかけて、50年の時を繋ぐ因縁が順を追って明かされていき、冒頭のベンの悪夢をはじめとする様々な伏線が見事に回収されていく。全てが腑に落ちたとき、何とも言えない静かな感動が胸に迫ってきて、美しいラストシーンが全体を締め括る。子供から大人まで、観る者の心に温かいものを残す秀作である。
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