歌劇「イドメネオ」
モーツァルトが24歳の時に作曲したオペラ・セリア。2017年メトロポリタンオペラ公演の録画を鑑賞。METライブビューイングの紹介文。
トロイ戦争終結後のクレタ島。戦争に出陣した国王イドメネオは、帰路の海で嵐に巻き込まれ、命と引き換えに、上陸して初めて出会った人間を生贄に捧げると海神ネプチューンに約束する。クレタ島に帰り着いたイドメネオが出会ったのは、なんと息子のイダマンテだった。イドメネオはイダマンテを亡命させようとするが、イドメネオの裏切りに激怒した海神は怪物を送り込む。次々と襲う天災に、窮地に立たされたイドメネオは…。(引用終わり)
当時父親からの独立を画策していたモーツァルトは、ギリシャ神話の父子葛藤の物語に自らの姿を投影していたと言われ、彼の青春の記念碑的存在となった名作オペラである。
その父子の葛藤というタテの糸に加えて、上記あらすじには出ていないが、捕虜となったトロイの王女イリアとイダマンテとの敵味方を越えた恋と、それに対するアルゴスの王女エレットラの嫉妬と妨害というヨコの糸が絡んで物語は展開する。
登場人物はそれぞれの悩みを抱えて苦悩しつつ解決方法を模索するわけだが、24歳のモーツァルトが書いた音楽はそれぞれの場面と人物の心情を的確に描写している。第3幕の4重唱は作曲者自身とても満足していたといい、一方ではエレットラの激しい気性そのままの変化に富むアリア、民衆の感情を表現した合唱の表現力も見事である。
ただ、これは当時の上演慣習なのだろうか、アリア、レチタティーヴォとも同じ歌詞を一から延々と繰り返すのが冗長に感じられる。適当に約めれば30分ぐらい節約できそうだが、それは忙しい現代人ゆえの貧しい発想だろうか。
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コメント
死ぬほど退屈なザルツブルク、疑い深い大司教、口うるさい父親から逃げ出そうともがいていた頃の作品。
モーツァルトは「ミュンヘンからの注文に喜び、・・・このオペラに特別の愛情を抱いていた。それは創造するものが最初に何かをやり遂げたときに感じる種類のものである。」とH.C.ロビンズ・ランド『モーツァルト』(中公新書)に書いてありました。若者には立ち向かう壁が必要なんですね。
(没後200年の時の本です。最近は読み直しても読んだ記憶がなくて・・・汗)
で、結局大司教と大喧嘩してウィーンに行って、翌年「後宮からの誘拐」の成功で確固たる地位を築いて・・・ここからしばらくが一番いい時期だったでしょうか。
たしかに繰り返されるレチタティーヴォやABA形式のアリアは、現代人には冗長に感じられますね。まぁ、一語一句追う必要はなくて、旋律の美しさや歌手のテクニックを味わえばいいんじゃないでしょうか。(^^)
マシュー・ポレンザーニは、この時期「愛の妙薬」「ばらの騎士」などMETの常連でしたが、最近は観る機会がなくて・・・。
投稿: ケイタロー | 2020/05/24 21:55
ケイタローさん
ほとんど神がかりとしか言いようのない
美しい作品ばかりのモーツァルトですが、
やはりどこかに人間くささというのか、
置かれていた状況なり心理が透けてしまう。
たとえ本人が意図しなくてもそれは避けられず、
逆に鑑賞する側にとっては興味が尽きない点ですね。
投稿: まこてぃん | 2020/05/25 18:22