歌劇「魔笛」
モーツァルト最後のオペラ(ケッヘル番号は「皇帝ティートの慈悲」の方が後だが)。サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場、1983年公演のビデオを鑑賞。グルベローヴァ(夜の女王)、ポップ(パミーナ)、アライサ(タミーノ)、モル(ザラストロ)、ブレンデル(パパゲーノ)など豪華な歌手陣、演出はエヴァーディングによるオーソドックスなもの。
岩山で大蛇に襲われたところを夜の女王の3人の侍女に助けられた王子タミーノは、夜の女王からザラストロに連れ去られた娘パミーナを助け出すよう頼まれる。パミーナの肖像画に一目惚れしたタミーノは「魔法の笛」を与えられ、パミーナを救出するためザラストロの神殿に向かう。しかし、悪人のはずのザラストロは実は「光の世界」を支配する祭司で、「夜の世界」を支配する女王と対立していた。タミーノとパミーナを結びつけて「光の世界」の後継者にしたいザラストロは、そのための試練を受けるよう2人に命じる。タミーノに同行していた鳥刺しのパパゲーノも、若い娘を紹介すると言われ試練に付き合うことに同意するが…。
ドイツの大衆的な歌芝居の流れを引く「ジングシュピール」に属し、歌の合間はレチタティーヴォではなく演劇同様のセリフで繋ぐ。フランスでいえば、「カルメン」が元々そうであった「オペラコミック」に相当するだろうか。
ダ・ポンテ3部作以上に荒唐無稽なストーリーに加え、民衆劇らしい素朴なメルヘンもあれば、オペラブッファの滑稽さもあり、一方では崇高かつ厳粛な宗教的色彩もありと、多様な要素がごった煮にように同居した魔訶不思議な作品である。
宗教面について言えば、舞台となったエジプトの神イシスとオシリスを称えるシーンがあるけれど、裏にはモーツアルト自身や台本作家のシカネーダーも会員だった宗教結社フリーメイソンの思想が影響しているとされ、一方でザラストロはペルシャのゾロアスター(ツァラトゥストラ)を暗示しているという説もあり、なかなか一筋縄ではいかない。
ただ、ダ・ポンテ台本のオペラでもそうであったように、いやそれ以上にモーツァルトの音楽の素晴らしさが、そんな諸々の蟠りを吹き飛ばして、純粋音楽作品として高い完成度を示している。それぞれの登場人物の性格を活写した名アリアがいくつもあり、特に夜の女王の2つのアリアは聴く者を捕らえて離さない迫力がある。本上演でのグルベローヴァの歌唱にはただただ圧倒された。
なお、序曲の途中、展開部の直前に冒頭の3つの和音が再度管楽器だけで出てくるが、この上演では舞台裏に配置した「バンダ」(別働隊)に演奏させているようだ。映像ではサヴァリッシュが目の前のオケではなく、まだ開いていないカーテンに向かって指揮している。楽譜にはそんなことは書かれておらず、第2幕で同様の演出が出てくるのを踏まえた独自の解釈と思われる。謹厳実直を絵に描いたようなサヴァリッシュにしては粋なことをするものだ。(笑)
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コメント
若者が姫を助け出すために次々と難関をクリアする、そんなゲームがあったような?
善と悪が入れ替わり、何とも奇妙なストーリーですが(フリーメイソンの同志は理解できる?)、音楽は完璧!
夜の女王とザラストロのアリアが好きです。コロラトゥーラの技巧とバスの豊かな低音。ここだけリピートして聴きます。
グルベローヴァは、一時毎年のように来日してましたが、聴き逃しているうちにお年を召してしまって・・・(^^!
サヴァリッシュは、『N響ザ・レジェンド』で先月もベートーヴェンやってました。相性がよくて、N響がドイツっぽくなった?張本人だと池辺晋一郎さんが言ってました。(なるほど)
投稿: ケイタロー | 2020/05/16 17:01
ケイタローさん
スーパーマリオですか? 懐かしい!
しかし、ここでは姫と一緒に水と火、2つの関門を
クリアすればOKなので、難易度は高くないかも。(笑)
N響はサヴァリッシュの他にもスイトナー、シュタイン、
ブロムシュテットなどドイツ系指揮者が多かったですからね。
その反省から少し前にシャルル・デュトワを招いたのですが、
練習が厳しすぎて団員が楽音ならぬ「音を上げた」とか。
(真偽のほどは不明ですが)
投稿: まこてぃん | 2020/05/17 18:48