歌劇「カルメン」
ジョルジュ・ビゼー作曲。2014年、メトロポリタンオペラ公演の録画を鑑賞。ライブビューイングの紹介文。
19世紀のスペイン、セヴィリャ。連隊の伍長ドン・ホセは、いずれ故郷に帰って幼なじみのミカエラと結婚する日を夢見ている。そんな彼の前に、自由奔放なジプシー女のカルメンが現れた。カルメンの手管に魅入られたホセは、けんか騒ぎを起こして捕らえられたカルメンを逃がし、営倉送りに。出所したホセはカルメンを愛するあまり、彼女を取り巻くならず者の仲間に加わる。しかし間もなくカルメンの心は花形闘牛士に傾いてゆき…。(引用終わり)
古今の数あるオペラの中で最も広く親しまれていると言って過言でない作品だが、組曲やハイライト盤で聴いたことはあるものの、全曲を通して鑑賞したのは実は初めてである。
ファム・ファタールを代表する奔放なジプシー女カルメンと、彼女に魅入られた真面目な兵士ドン・ホセの悲劇を残酷なまでにリアルに描いた、フランス版ヴェリズモオペラとでも言うべきか。ただし、似たような設定のプッチーニ「マノン・レスコー」がパリを、こちらはセヴィリャをそれぞれ舞台にしているのが面白い。
スペインの眩しい陽光と、その分濃い影の対照は、生と死、愛と憎しみ、秩序と自由といったコントラストをより鮮明にする。闘牛士エスカミーリョもただスペイン名物だから登場するのではない。闘牛は観客の眼前で繰り広げられる生と死の儀式であり、幕切れでカルメンの死と闘牛場の内部を重ね合わせたリチャード・エアの演出が光る。
それにしても、タイトルロールのアニータ・ラチヴェリシュヴィリ(ジョージア)、ドン・ホセのアレクサンドルス・アントネンコ(ラトヴィア)、エスカミーリョのイルダール・アブドラザコフ(ロシア)、ミカエラのアニータ・ハーティッグ(ルーマニア)と、主な役の全てを旧ソ連、東欧圏の歌手が占めているのに驚かされる。WOWOWの解説を担当した奥田佳道氏は、「大地に根差したような深い声の魅力と、冷戦崩壊後に西側で研鑽を積んだ成果が相俟った」という趣旨のことを述べている。
なお、指揮はスペイン出身の気鋭のマエストロ、パブロ・エラス=カサド。指揮棒を持たず、ジェスチャーもさほど大きくないが、滾るような情念に満ちたビゼーの音楽をMETオケからよく引き出していた。
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コメント
ついに出ました!
オペラの中のオペラ!(^^)
誰もが聞いたことがある、思わず口ずさんでしまうメロディー。
僕は「花の歌」が好きです。
フランスのオペラはやさしい語感がいいですね。
一昨年のMETアイーダでは、ラチベリシュビリ(舌を噛みそうだ)は堂々たるアムネリスで、ネトレプコと渡り合っていました。
ジョージアとロシア。スラブ特有の、あの胸板の厚さが太く張りのある声を生み出すのでしょうね。
投稿: ケイタロー | 2020/04/15 10:43
ケイタローさん
カルメン「ハバネラ」、ドン・ホセ「花の歌」など
確かにフランス語の語感がぴったりの曲想ですが、
ネイティブではない東欧圏の歌手の健闘が光ります。
「西側で研鑽」には当然語学も含まれるのでしょうね。
投稿: まこてぃん | 2020/04/15 18:48