歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
引き続いてダ・ポンテ台本、モーツァルト音楽による名作オペラ。2016年メトロポリタンオペラ公演の録画を鑑賞。METライブビューイングの紹介文。
18世紀のスペイン、セヴィリャ。貴族のドン・ジョヴァンニ(サイモン・キーンリーサイド)は、2000人以上の女を陥落させた筋金入りの女たらし。今日も騎士長(クワンチュル・ユン)の娘ドンナ・アンナ(ヒブラ・ゲルツマーヴァ)に夜這いをかけるが、騒がれて逃げだしたところを騎士長に見つかり、殺してしまう。懲りないジョヴァンニは村娘ツェルリーナ(セレーナ・マルフィ)を口説こうとして、棄てた女のドンナ・エルヴィーラ(マリン・ビストラム)に邪魔される。何かがうまくいかないと首を傾げる不敵なドン・ジョヴァンニに、破滅の時が近づいていた…。(引用終わり)
分類としては一応オペラ・ブッファということになるけれど、いきなり只事ならぬ雰囲気で始まる序曲を聴けば分かるように、放蕩者ドン・ジョヴァンニ(ドン・ファン)の地獄落ちという悲劇を内包した、ある意味特異な構成を有する作品である。
ただ、第1幕の最初でドン・ジョヴァンニが刺し殺した騎士長の亡霊はその後全く登場せず、第2幕の最後になって石像姿で突然現れ、ドン・ジョヴァンニに「悔い改めよ」と迫る。その直前まで舞台ではドン・ジョヴァンニの放蕩ぶりがこれでもかと演じられているわけだが、騎士長はどこかでそれを見ていて遂に我慢ならなくなったというのだろうか。
その辺りがどうにも腑に落ちないため石像の登場がいかにも唐突に感じられ、肝心の地獄落ちの場面がそこだけ浮いてしまった印象が否めない。大詰めにきての喜劇と悲劇の対照は見事かもしれないが、そこに至るまでも楽しげな場面に忍び寄る不吉な影など、モーツァルトなら苦もなく音にできたのではないか。単に自分がそれを聴きとれていないだけだろうか。
そこはさておくとして、音楽的には大変完成度の高い作品で、有名な「お手をどうぞ」「ぶってよマゼット」など、優雅なメロディの中にエロスやコケットリーを包み込んだアリアは見事である。簡にして要を得た管弦楽法も円熟の極みで、第1幕の最後で舞台上の複数の楽隊がそれぞれの音楽を重ねて演奏する箇所は唖然としてしまう。
4月23日 ジョグ6キロ
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
「地獄落ち」
当時の人たちはさぞ怖かったと思います。(今でもゾッとするけど)
騎士長は超越した存在なので、ドンナ・アンナと一体となってすべてを見ているんでしょう。
モーツァルトは、思わず口ずさんでしまうメロディーが綺羅星の如く、ですね。
それにしても
村上春樹の「騎士団長殺し」が発表されてからは、「ドン・ジョヴァンニ」を観ると小説が頭に浮かんで困ってしまいます。(笑)
小説でも騎士団長はイデアで、観念的な存在として描かれていて・・・
もう一つ、ショルティ/ウィーン・フィルの「ばらの騎士」も出てきて、こちらはメタファーで・・・?
どちらも不道徳な話ですが、オペラとどう関係するのかよく分からないところがあります。
すみません、また話が逸れて。(苦笑)
投稿: ケイタロー | 2020/04/25 13:59
ケイタローさん
素晴らしいメロディが続いた最後のどんでん返し。
劇的な効果という点では覿面の一語ですね。
前にも書いたように村上春樹は「食わず嫌い」で、
そういえばそんなタイトルの本が出てたような。
「ドン・ジョヴァンニ」のこととは思いもせず…。
投稿: まこてぃん | 2020/04/26 08:40