『グリーンブック』
2018年、米。ピーター・ファレリー監督。公式サイトの紹介文。
時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクターことドン・シャーリー。カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、<黒人用旅行ガイド=グリーンブック>を頼りに、出発するのだが─―。(引用終わり、一部加筆)
トニーとドンは実在の人物で、彼らの実体験がベースになっているそうだが、無教養でマッチョで下品なのが白人、知的な芸術家で上品なのが黒人と、普通とは逆の設定になっているところがミソである。
境遇も性格も正反対、最初はお互いへの嫌悪感も露わに険悪な雰囲気だった二人が、ツアーを続けるうち様々な出来事を通じて徐々にお互いを認め合うようになる。それはやがて周囲の人間にも良い影響を及ぼすようになる。ロードムービー仕立ての心温まるヒューマンドラマである。
音楽が持つ力も映画の主要テーマになっていて、ドンのピアノを中心にチェロ、ベースを加えたトリオの演奏はもちろん、旅先の黒人バーで弾いたショパンの練習曲「木枯らし」と、その後の地元メンバーとの即興セッションでバー全体が盛り上がる場面は感動的だった。
音楽ネタでもうひとつ。ドンがトニーに手紙の書き方を伝授する場面で、ドンが教えた詩的な文章の最後に、トニーが自分流に「追伸 子供にキスを」と書き添えたいと言うと、ドンは「交響曲の最後にブリキの太鼓を?」(字幕)とからかう。ここは実際は「ショスタコーヴィチの(交響曲)第7番の最後にカウベルを鳴らすようなものだ」となっていて、意味が分からないト二―が「“いい”ってことか?」と訊くと、ドンが「完璧だ」と返す。
ショスタコ7番のあの賑やかな終楽章の最後で「カランコロン」とカウベルが鳴れば噴き出すこと必至だが、一見堅物に見えるドンがなかなかシャレの分かる人物であることが分かる粋なシーンだ。彼がモスクワ音楽院で勉強した経歴を話す前半の場面が伏線になっている。
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コメント
「差別」は映画の重要なテーマの一つですが、とくにアメリカでの人種差別は、数えきれないほどの映画を生み出してきました。
古くは「アラバマ物語」や「夜の大捜査線」
思いつくままに
「ミシシッピー・バーニング」「ドライビング・ミス・デイジー」「評決のとき」「それでも夜は明ける」「デトロイト」「アミスタッド」「ドゥ・ザ・ライト・シング」「最強のふたり」「ブラック・クランズマン」・・・まだまだあると思います。
最近観た「黒い司法 0%からの奇跡」もアラバマ州が舞台でした。
どれも名作ですが
「差別する白人」と「抑圧される黒人」の立場が逆転して・・・
二人の葛藤が友情に昇華し・・・
人権意識に目覚めた「優しい警官」が・・・
ステレオタイプ設定も多くて、モーテンセンがオスカーを取れなかったのも、そのあたりが嫌われたのかも。
でも、同じテーマで飽きもせず(失礼!)作品を作り続けるアメリカのフィルムメーカーには感心します。それだけ人種差別は根深く、今日的なテーマで、映画のメッセージ性に期待しているんだと思います。かつ興行的にも成功して。
で、翻って日本では・・・?
僕たちも「差別」とは無縁ではないはずですが・・・
投稿: ケイタロー | 2020/03/28 21:22
ケイタローさん
思いつくままでもこれだけ挙げられるとはさすがですね。
私が観たのはこのうちでは3本だけ、
タイトルも知らないのが5本…。(汗)
黒人差別ものと並んでもうひとつのパターンは
反ナチスドイツものというジャンルもありますね。
あ、作品の例示は結構ですから。(笑)
投稿: まこてぃん | 2020/03/29 09:46