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2020/03/07

シャイー&ゲヴァントハウスのベートーヴェン交響曲全集

Uccd1307 ブラームスに続いて、ベートーヴェンの交響曲全集も入手して試聴してみた。発売元の紹介文。

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターに就任以来、メンデルスゾーン、シューマン、バッハなどのディスクをリリースしてきたリッカルド・シャイー。長いキャリアの中で、まだ録音のなかったベートーヴェンも2007年から2009年にかけて取り組み、ついに交響曲全集を完成させました。今回の全集は9曲の交響曲に加え、8曲の序曲も収録。早めのテンポながらメロディを美しく歌わせ、第9番には児童合唱を参加させるなど、新たな試みも随所に取り入れています。ベートーヴェンを知り尽くしたオーケストラと21世紀の巨匠シャイーによる、デッカ久々のベートーヴェン全集です!(引用終わり)

曲と楽章によって差はあるけれど、紹介文にあるとおりテンポは確かに速い。「田園」第1楽章や第8番終楽章など、あっと驚くほどだ。しかし、ただ速いだけのアクロバット演奏ではなく、十分に練り上げられた合奏として完成の域に達している。さすがは伝統ある楽団と感心しているうちに、最初に感じた驚きや違和感は次第に薄れ、あたかもこれが本来のテンポだったのではないかと感じてしまう。

結局のところ、この演奏が目指しているのはただ速いのではなく、それによって楽曲の新たな側面に光を当て、初演当時の聴衆が感じたであろうような、新鮮な驚きと刺激をもたらすことではないか。以前聴いたバレンボイム盤でも同じねらいを感じたが、そこでは響きの粗削りさや、合奏の反求心性とでも言うのか、予定調和的な均衡にこだわらない演奏となっていた。

シャイーの場合は、まずはテンポ設定を抜本的に見直すことから始めたのだろう。その手法はかなりの成功を収めたと言える。過去どれだけ演奏され、録音されたか分からないベートーヴェンの交響曲だが、古楽器を使用した学究的アプローチ、モダン楽器とピリオド奏法の折衷といった変遷を経た今日でもなお、まだ気づかない魅力があることを再認識させてくれる。

さらに、スコアの細部にわたって入念な検討を行い、慣例的なスタイルにこだわらない演奏をしている箇所がかなりあるようだ。まだ一部しか気づいていないけれど、例えば「英雄」で発見したのは次の3箇所である。

・第2楽章207、208小節 第3ホルンの音型(運命の動機)を強調
2nd
・第4楽章20~27小節 弦楽器はピツィカートでなくアルコ

・同407小節 クラリネット、ファゴットのEs-F-Esの音型2回目が欠落
4th

また、第5番では以前ドホナーニ盤で気づかされた、第1楽章のホルンによる「運命の動機」2箇所についても、より鮮明に聴こえる。

快速テンポのおかげで、9曲の交響曲に加えて、8曲の序曲も含めて5枚のCDに収まったお得な全集盤である。「エグモント」は大変重厚な演奏で感心したけれど、初めて聴いた「アテネの廃墟」「命名祝日」「シュテファン王」は楽曲自体いかにも凡庸で、演奏機会が少ないのも頷ける。それも全て含めて、今年生誕250年を迎えたベートーヴェンの音楽を改めて堪能した。

3月6日 ジョグ8キロ

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