歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」
1902年に初演されたフランチェスコ・チレアの代表作。18世紀フランスに実在した大女優アドリアーナ(アドリエンヌ)・ルクヴルールの熱烈な恋と非業の死を描いたヴェリズモ・オペラの傑作。2019年メトロポリタンオペラ(MET)公演の録画を鑑賞。METライブビューイングの紹介文。
18世紀前半のパリ。有名な劇場コメディ・フランセーズの大人気女優アドリアーナ・ルクヴルールは、ザクセン伯爵の旗手マウリツィオと愛し合っている。マウリツィオは実は伯爵本人で、職務で大貴族のブイヨン公妃と会わなければならなかったが、公妃はマウリツィオに恋心を抱いていた。ある事件をきっかけに恋敵だと知ったアドリアーナとブイヨン公妃は火花を散らし、夜会の席で朗読を所望されたアドリアーナは、暗に公妃の不義をなじる内容の詩を読み上げる。激怒した公妃は、毒を仕込んだスミレの花束をアドリアーナに送りつけるのだった。(引用終わり)
男女の三角関係が煮詰まって主人公の死で終わるという、オペラの定番とも言うべきストーリーながら、同じ男を巡って争う二人の女性の激しい嫉妬と鞘当てに焦点を当て、それが毒殺事件にまで発展する過程をつぶさに描いているのが本作最大の特徴である。
アドリアーナとブイヨン公妃がともに主役とも言うべき作品で、力量あるソプラノとメゾが揃わないとこのオペラはサマにならない。とりわけアドリアーナ役には並外れた歌唱力に加え、大女優に相応しい容姿風格や演技力が求められるため、なかなか上演される機会に恵まれず、METで過去にアドリアーナを演じたのは、テバルディ、スコット、カバリエ、フレーニといった大御所たちに限られる。
今回の上演ではアドリアーナにアンナ・ネトレプコ、ブイヨン公妃にアニータ・ラチヴェリシュヴィリのロシア・ジョージア(グルジア)コンビを起用、ともに持ち味のやや暗い声質を生かした、女同士の火花が散るような怨念の対決を迫力たっぷりに演じている。一方、マウリツィオを演じたピョートル・ベチャワは誠実純朴な印象で、終始女性二人の間で板挟みになったままで終わってしまった感じである。
有名な「私は創造の神の卑しいしもべです」をはじめとするドラマティックなアリアや二重唱もさることながら、管弦楽の繊細な音色は他のイタリアオペラにあまり見られないほどの見事さで、本作を演奏する機会の少ないMETオケからチレア独特の甘くて激しい音楽の奔流を引き出したのはジャナンドレア・ノセダの手腕だろう。
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コメント
僕も、同じMETの公演をライブビューイングで観ました。
ネトレプコはますますグラマラスで・・・
もう肺病で死ぬような役はできそうもなくて・・・(大きなお世話ですが)
で、ふと思ったんですが、「一発屋」っていますよね。(失礼!)
今回のチレア「アドリアーナ・ルクヴルール」
前回のジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」
他にもマスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」
レオンカヴァッロ「道化師」
フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」などなど。
(他に作品はあっても、ほとんど上演されない。)
オペラ以外でも
パッヘルベル「カノン」
アルビノーニ「アダージョ」
バーバー「弦楽のためのアダージョ」
バダジェフスカ「乙女の祈り」などなど。
(まだまだありそうです。)
歴史の風雪に耐えて生き残った、だからこそ名作なんですね。
すみません。関係ない話で。(^^!
投稿: ケイタロー | 2020/03/13 21:43
ケイタローさん
一発屋、確かにいますね。他にも
オルフ「カルミナ・ブラーナ」
デュカス「魔法使いの弟子」
ラロ「スペイン交響曲」など。
むろん他の作品もあり、「一発屋」では
ないという反論もありそうですが。
なお、サミュエル・バーバーは
「私が作曲したのはアダージョだけではない!」
と憤慨していたとか。(笑)
投稿: まこてぃん | 2020/03/14 18:02