歌劇「アンドレア・シェニエ」
ジョルダーノの代表作で、ヴェリズモ・オペラの傑作。1896年の初演と同じミラノ・スカラ座における1985年公演の録画を鑑賞。タイトルロールは若き日のホセ・カレーラス、指揮はリッカルド・シャイーである。
フランス革命時代の大きく揺れ動く社会情勢を背景に、革命の理想を追い求め最後は断頭台で処刑された実在の詩人アンドレア・シェニエをモデルに、貴族の令嬢マッダレーナとの純愛、元貴族の召使で革命後は政府高官となったジェラールとの三角関係を軸に、数々の劇的なアリアとそれを彩る重厚な管弦楽で構成された娯楽大作である。
革命前夜の貴族社会を風刺たっぷりに描く第1幕は、バレエやダンスが挿入されてやや冗長に感じたが、ここで旧体制に対する詩人シェニエと召使ジェラールの反発が明らかとなる。革命から数年を経た第2幕以降はリアリズムに満ちたドラマが展開し、最後まで目が離せなくなった。
貴族の身分のみならず人間としての尊厳まで失ったマッダレーナの悲運。彼女に思いを寄せながらも、マッダレーナのシェニエに対する深い愛情に打たれるジェラールの男気。同じイッリカの脚本になるプッチーニ「トスカ」と登場人物の相似関係が指摘される本作だが、ドラマとしての厚みは「トスカ」に勝るとも劣らない。
第3幕のマッダレーナの有名なアリア「母が死んで」は、1993年の映画『フィラデルフィア』の中で、トム・ハンクス演じる主人公の弁護士が愛聴するという設定のマリア・カラスの歌唱で登場する。
エイズに感染して解雇された彼が、自分の弁護を引き受けてくれたデンゼル・ワシントン演じるもう一人の弁護士にこのアリアを聴かせ、その内容説明に重ね合わせて自らの心境を理解してもらうという重要な場面だ。今回初めてオペラ全体を通して観て、ようやくこのアリアの内容とともに、映画で使われた意図がよく理解できた。
3月9日 ジョグ6キロ
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コメント
ジョルダーノは守備範囲外でした。(^^!オペラ全体を観たことがありません。
「フィラデルフィア」のアリアも知りませんでした。ジョナサン・デミの意図でしょうか。
アリアはいろいろな歌手が歌っているのでCDで聞いてみると、ほとんどテノールとソプラノ、シェニエとマッダレーナですね。やはりカラスがいいなぁ。
フランス革命の自由と平等の思想が芸術に与えた影響は大きいのでしょうね。
ベートーヴェン「フィデリオ」
プーランク「カルメル会修道女の対話」etc.
投稿: ケイタロー | 2020/03/10 23:00
ケイタローさんでも知らないオペラや映画があったとは
意外でしたし、正直少しホッとしました。(笑)
「アンドレア・シェニエ」はイタリアオペラには珍しい、
男性(男声)が主役の「プリモ・ウォーモ・オペラ」で、
マッダレーナ単独のアリアは「母は死んで」のみです。
それをうまく映画に織り込んだのは素晴らしいセンスですね。
投稿: まこてぃん | 2020/03/11 21:39