歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」「道化師」
それぞれマスカーニとレオンカヴァッロが作曲したヴェリズモオペラだが、両者はともに南イタリアを舞台とした兄弟作と言える関係にあり、上演時間も合わせて2時間強なので、2本立てで上演することが慣例となっている。今回鑑賞したのは2015年メトロポリタンオペラ公演の録画で、通常は別々のテノール歌手が演じる両方の主役を、マルセロ・アルヴァレスが一人で演じて話題となったものである。指揮ファビオ・ルイージ、演出デイヴィッド・マクヴィカー。ライブビューイングの紹介文。
「カヴァレリア・ルスティカーナ」19世紀末のシチリア、ヴィッツィーニ。居酒屋の息子トゥリッドゥはローラと恋仲だったが、兵役にとられている間に、ローラは資産家の馬車屋アルフィオと結婚してしまう。トゥリッドゥは腹立ちまぎれに村娘のサントゥッツァと親しくなるが、それをやっかんだローラは再びトゥリッドゥと逢い引きする仲に。トゥリッドゥに突き放されたサントウッツァは、怒りのあまりアルフィオにすべてを打ち明けるが・・・。
「道化師」19世紀後半、南イタリアのある村。道化師のカニオ率いる旅回りの芝居一座が到着し、今夜の芝居の宣伝を始める。一座の花形は、カニオの妻で女優のネッダ。だが独占欲の強い年上の夫に飽きていたネッダは、新しい恋人を作っていた。ネッダに横恋慕する一座のトニオは、ネッダと恋人との逢い引きの現場をカニオに通報。憤激を抑えて芝居の準備にかかるカニオだが、次第に芝居の内容と現実との区別がつかなくなり・・・。
(引用終わり)
両方とも初めて観たのだけれど、「カヴァレリア…」は場面転換の際に奏される大変美しい「間奏曲」が有名で、「田舎の騎士道」といった意味のタイトルとも合わせて、「鄙にはまれな高潔の士が、愛する女性のために犠牲となる、気高くも悲しい物語」かと勝手に想像していたら、全くもってとんでもなかった。例によって男女の三角関係のもつれをこれでもかとリアルに描き、ヴェリズモオペラのジャンルを確立した記念碑的作品なのである。
主人公のトゥリッドゥというのが本当に情けない男で、本能の赴くまま女から女へ走り、不倫も平気でやるかと思えば、いざ決闘の前になると、自分が死んだらひとりぼっちになるサントゥッツァが可哀そうと母親に泣きつくマザコンぶり。絶対に感情移入できない人物だが、だからこそ、そんな人間だったらどう思いどう行動するのか、それを想像してみることで人間というものを考えるヒントになる。そこがオペラの、いやお芝居全般の存在意義なのだろう。偶然だが、この録画を観た日の糸井重里「今日のダーリン」に同じようなことが書いてあった。
いま、世にフィクションが足りてないように思うのだが、実は、それは、昔からいくらでもあったはずだ。現実ばかりを凝視して、正義と悪とを裁いているより、もっと味もコクもある嘘のおもしろさに出合いましょう。そう、『源氏物語』だって、シェイクスピアだって、『ゴッドファザー』だって、イケナイ話の山盛りだ。ホントとウソとどっちでもないものが、世界のすべてさ。
シェイクスピアのみならず、近松門左衛門が唱えた「虚実皮膜論」もこれと同じ趣旨だと思うが、次の「道化師」がまさにそれをテーマにしたような作品であるのが面白い。主人公の道化師は、妻に浮気されている実生活とウリふたつの芝居を演じるうちに、現実と虚構の区別がつかなくなり、妻と不倫相手を相次いで刺し殺してしまうのである。しかも、このウソみたいな物語について、作曲者レオンカヴァッロは司法官だった父が現実に担当した事件をヒントにしたと説明しているから(諸説あり)、さらに驚いてしまう。
ストーリーはかくのごとく現代の昼メロ(よう知らんけど・笑)も真っ青のドロドロ愛憎劇だが、両者とも音楽は場面に応じて巧みに物語を盛り上げ、ここぞというアリアは大変美しい。ヴェリズモ時代になってもベルカントの伝統は死んだわけではないのだ。それぞれ、映画『ゴッドファーザー PARTⅢ』と『アンタッチャブル』のヤマ場で大変効果的に用いられているそうだ。間奏曲は「カヴァレリア…」だけが有名だが、「道化師」の方も大層美しく、隠れた名曲と言えるのではないか。
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コメント
「Cav and Pag」
作品も作曲家もライバル関係。しかも、ほとんどこの1作だけで後世に名を残した2人です。切なく美しいメロディーが血みどろの愛憎劇を虚しく飾る、ヴェリズモオペラの傑作ですね。
舞台のシシリーはマフィアの故郷。
で、「カヴァ」といえば「ゴッドファーザーPART III」。前2作の出来に比べると今ひとつですが、マスカーニの音楽が印象的です。陰惨な物語にオペラの虚構と美しいアリアが重なり、間奏曲が終幕でのアル・パチーノの悲しみを極限まで高めます。もう出ない涙を、さらに絞り出させるようなメロディーですよね。(^^! ! !
コッポラの音楽の使い方は見事です。(お父さんのセンスもあるけど)
「地獄の黙示録」の「ワルキューレの騎行」と双璧ではないかと。
投稿: ケイタロー | 2020/02/12 14:21
ケイタローさん
ご指摘を受けて初めて知ったのですが、
フランシス・F・コッポラの父、
カーマイン・コッポラは音楽家で、
NBC交響楽団のフルート奏者だったのですね。
その後、息子の映画の音楽を担当して、親子で
アカデミー賞を受賞するなど活躍されたとか。
そりゃ、音楽の使い方が上手いのも道理だわ(笑)。
投稿: まこてぃん | 2020/02/13 10:30