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2020/02/21

歌劇「愛の妙薬」

Lelisirドニゼッティの代表作。オペラ・ブッファ(喜歌劇)でありながら従来のものとは一線を画し、ベルカントオペラの最高傑作のひとつに位置づけられている。

農場主の娘アディーナと村の純朴な青年ネモリーノの恋愛をめぐり、怪しげな商人が売りつけた「愛の妙薬」が引き起こす珍騒動を描いた他愛もないストーリーで、また音楽の形式的な面だけをみれば、まだモーツァルトやロッシーニの延長線上を脱していない。

しかし、登場人物それぞれの人間的な魅力を感じさせる台本、「人知れぬ涙」をはじめとする美しいアリアや重唱によって、全篇が見どころ聴きどころといって差し支えない、ロマンティックで心温まる喜歌劇となっている。

生涯に70本ものオペラを作曲したドニゼッティは非常な速筆で知られ、このオペラも何と2週間で作曲したという逸話が残されている。真偽のほどは不明であるが、ごく短期間にこれだけの大傑作が生まれたことは間違いないようだ。

今回鑑賞したのは、2002年8月にイタリア・マルケ州マチェラータで開催された音楽祭における野外公演の録画である。音楽祭はおろか指揮者や出演歌手の誰一人として知らない名前ばかりで、正直なところ田舎オペラ(失礼!)の野外公演にそれほど期待していなかった。

しかし、豈図らんや。これまで観て来たオペラの中でも屈指の面白さと、音楽的にもかなりの水準の高さを示した公演に、最後まで感心すること頻りであった。首都ローマから列車で4時間、人口4万人の小都市でもこれだけの公演を実現できるのは、かの地の文化的伝統がもつ底力とでも言うべきだろうか。

元競技場の建物を転用した野外劇場ゆえの制約から、舞台後方の雛壇にオーケストラが陣取り、指揮者は舞台の歌手たちに背を向けて振るという異例のスタイルにもかかわらず、アンサンブルの乱れはほとんど感じられず、それどころか歌手が歌いながら指揮者やオケメンバーに絡んだりする演出もあって楽しめた。

アディーナが読んでいた「トリスタンとイゾルデ」に出てくるような惚れ薬はないかと、ネモリーノが商人ドゥルカマーラに向かってレチタティーヴォで問いかける場面で、ピアノ伴奏も兼ねた指揮者がワーグナーのトリスタン和音をちょこっと弾くお遊びには思わずクスっとさせられた。ワーグナーの楽劇成立はこの作品から30年以上も後のことなのだけれど。(笑)

2月20日 ジョグ6キロ

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コメント

いいですね。
アドリア海からの心地よい夜風に吹かれて、「毒にも薬にもならない」(失礼!)オペラでけらけら笑って、帰りにオステリアでワインなんか飲んで・・・
マチェラータは田舎ですが(たぶん)、毎年夏の音楽祭でオペラが上演されています。今年は「トスカ」「ドン・ジョヴァンニ」「イル・トロヴァトーレ」のようです。夏にオペラが観られるのも野外劇場だからで、羨ましいですね。たしかにオペラの国の底力です。
ドニゼッティは、思わず口ずさんでしまう美しい旋律のアリアが多くて、大好きです。
「ランメルモールのルチア」、「アンナ・ボレーナ」・・・深い森が続きます。(笑)

投稿: ケイタロー | 2020/02/22 10:07

ケイタローさん
当夜は残念ながら「心地よい夜風」が弱かったのか、
ネモリーノを演じたマチャードは大汗をかいています。
気候変動で夏の音楽祭まで難しくなるとイヤですね。

投稿: まこてぃん | 2020/02/23 18:01

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