シャイー&ゲヴァントハウスのブラームス交響曲全集
2012年から13年にかけて録音された比較的新しい全集盤を試聴してみた。発売元の紹介文。
ベートーヴェンに続き、伝統あるオーケストラに新風を吹き込むシャイーのブラームス。この3枚組では、交響曲全曲といくつかの管弦楽曲に、世界初録音となる間奏曲(ピアノ曲からの編曲)やブラームス自身のオーケストレーションによるワルツ集《愛の歌》を収録。さらには、交響曲第1番第2楽章の初演版、あとから削除された交響曲第4番の冒頭など、資料的価値の高い録音も収録されています。一度は聴いておきたい録音です。(引用終わり)
以前から第4番第1楽章の削除された冒頭部分には興味があり、実際に音として聴けるのは貴重な機会である。また、第1番第2楽章の初演版も収録されていて、とりあえずその2つが聴きたくて、この「資料的価値の高い」「一度は聴いておきたい録音」を入手してみたわけだが、現行版との相違が分かって大変興味深かった。
特に第4番第1楽章は、現行版冒頭アウフタクトのHを引っ張る演奏に違和感を感じてきただけに、なるほど元はそうなっていたのかと膝を打つ思いだった。また、第1番第2楽章は現行版の方が断然優れていて、着想から21年の歳月をかけてもなお、初演後の改訂も厭わなかったブラームスの飽くなき執念が窺える。
ところで、これらの資料的価値は別としても、この交響曲全集の演奏は大変ユニークである。いずれの曲でも、手垢のついた慣例的演奏を一旦ご破算にして、スコアに書かれているとおり忠実に、基本的にインテンポで演奏することを志向しているものと思われる。
最も顕著な例が第1番終楽章である。285小節から300小節にかけて、さらに407小節から416小節にかけて、通常はテンポを落として演奏するけれども、譜面にはテンポに関する指示はなく(297小節からは calando (カランド=だんだん遅く、だんだん弱く)とあるが)、シャイーは譜面どおりテンポを変えずに演奏している。
また、コーダ431小節以降のティンパニの6連符の連打の最後を、譜面にはないクレシェンドで目立たせる演奏が流行りみたいになっているが、ここでもシャイーは譜面どおりである。以前のシャイーならこういう箇所はここぞとばかり派手にやったのではないかしら。(吉田秀和風・笑)
第1番では第2楽章の3小節目、ホルンの嬰イ音に付された gestopft (ゲシュトップフト=右手でベルを塞ぐ奏法)の解釈もユニークだ。通常はベルを半分だけ塞いだ暗い音色で演奏するらしいが、シャイーはベルを完全に塞いだ「ビー」とか「ジー」という金属的な音色で演奏させている。うちにあった15種類のLPとCDを確認してみたが、そうした演奏例は皆無だった。
そうした細かいところで気になる箇所はあるものの、全体としてはインテンポで、過剰なロマン派的色付けを排した演奏で、自分の好みにも合致している。とりわけ第3番、第4番は出色の演奏であると思う。録音も極めて優秀で、ブラームス独特の渋いオーケストレーションの細部まで聴きとれる。
俄然興味が湧いたので、ベートーヴェンの交響曲全集も入手して試聴してみようかと思っている。
2月23日 ジョグ6キロ
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