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2020/02/27

ハイティンク&VPOのブルックナー第7番

昨年のザルツブルク音楽祭最終日の8月31日、既に引退を表明していたベルナルト・ハイティンクの最後のコンサートが行われ、その模様が先日NHK-BSプレミアムで放送されたので録画視聴してみた。曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(独奏エマニュエル・アックス)とブルックナーの交響曲第7番。管弦楽はウィーンフィルである。

協奏曲の方は、冒頭のピアノソロのテーマがアルペジオで始まり「あれっ」と思ったが、これは指慣らしのアルペジオでコンサートを始める古いスタイルを踏襲したものだろうか。しかし、それ以外は特に印象に残らない演奏だった。そもそもアックスなるピアニスト、私見では室内楽や伴奏には重宝されても、協奏曲のソリストなど不向きなタイプである。本来出演予定だったマレイ・ペライアがキャンセルになり、その代役で登場したという話だ。

お目当てはもちろんブルックナーである。ハイティンクがウィーンフィルと進めていたブルックナー交響曲全集の録音が、途中で打ち切りの憂き目にあったことは少し前に書いたが、その結果として第7番は未収録のままで終わっていて、ウィーンフィルの音に最も適した曲だけに残念に思っていたのだ。

マエストロは杖をつき足元が覚束ない状態だが、一旦指揮台に上がると一変。的確な棒と鋭い眼光で、譜面台に置いたスコアを一度も開くことなく、1時間を超える大曲を完璧に振り切った。最初は椅子に腰かけていたけれど、ここぞという箇所では立ち上がり、体全体で熱い想いを伝える。

終演後は聴衆のスタンディングオヴェーションはもちろん、楽団員一同からも温かい拍手が贈られた。ただ一人拍手を続けたファンの気持ちが通じたのか、最後は誰もいなくなったステージに戻り、居残った一部聴衆の熱狂的な喝采に応えていた。

なお、BSの番組では「ベルナルト・ハイティンク わが音楽人生」と題する約50分のドキュメンタリーも放送され、気心の知れたオランダ人ジャーナリストの質問に答える形で、ハイティンクがこれまでの音楽人生を率直に語っていた。

コンサートの前にはまっさらのスコアを用意し、常に一から準備し直す。
大切なのはオケの楽員に心から敬意を払い、彼らをうまく動かすこと。

誠実にして謙虚、オケの信頼も厚いマエストロの人柄が窺える内容だったが、最後に面白いエピソードが紹介されていた。インタビューの中で、ベルリンフィルとのマーラー「大地の歌」のコンサートを控えてとあるので、2016年秋頃に収録されたものとみられるが、その時点で既に「いつか引退の時が来ると私は常に言っている」とマエストロは述べている。

しかし、その時期については、実は妻のパトリシアさんから教えてもらうことになっていると明かしているのだ。マエストロも「耳のいい音楽家」と一目置くパトリシアさんは、「(引退の時期は)あなたは自分では分からないはず。その時が来たら教えてあげる」と言ったそうで、巨匠指揮者の見事な引き際の陰に内助の功ありとは意外だった。

2月26日 ジョグ8キロ

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