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2020/01/24

歌劇「ノルマ」

Normaベッリーニの代表作にして、ベルカント・オペラの最高傑作のひとつに数えられる名作。2017年、メトロポリタンオペラ(MET)の公演録画を鑑賞。ライブビューイングの紹介文。

紀元前1世紀、ローマ帝国支配下のガリア(現在のフランス)地方。ドルイド教の巫女ノルマは、敵方のローマ帝国将軍ポッリオーネとひそかに愛し合い、2人の子供をもうけていた。だがポッリオーネはノルマに飽き、若い巫女のアダルジーザをローマに連れ帰ろうともくろんでいる。恋人の裏切りを知ったノルマは、怒りに任せてローマとの戦いを宣言。そこへ、アダルジーザに会うため神殿に入って捕らえられたポッリオーネが引き立てられてきた。自分のもとに戻るなら解放するとポッリオーネに迫るノルマだが…。(引用終わり)

ヴェルディ、プッチーニとイタリアオペラを集中的に観てきたが、今回は時代を遡って1831年に初演されたベルカント・オペラの傑作である。「ベルカント」とは「美しい歌」の意で、文字通り美しいメロディが次から次に現れ、「歌のついた芝居」というよりも「演技のついた名曲メドレー」の趣がある。音楽だけで十分楽しめる作品と言え、デジタル音声出力で改善した再生音の効果をさっそく実感することができた。

一方、ストーリーについてはヴェリズモ以前の作品のこと、相当に浮世離れしていて、主人公ノルマは巫女の長の身なのに、あろうことか敵将軍ポッリオーネと愛し合って子供を二人もうけているし、ポッリオーネはノルマに飽きたのか若い巫女アダルジーザに手を出し、自らの退任を機にローマに連れ去ろうとする始末である。

しかし、そうした設定によってこそ、主人公ノルマは矛盾だらけの特異な人物像として造形されている。一族の命運を託された巫女であり、アダルジーザの指導者にして良き友人、しかし実は恋敵でもある一方で、最愛の男を失いつつある一人の女であり、二児の母でもある。その立場立場に応じて、優しい愛情から激烈な復讐心まで、彼女の感情は非常に振れ幅が大きく、そして常に内面に大きな葛藤を抱えている。

数々のアリア、重唱は技巧的に大変難しいうえに、要求される表現内容は多彩を極め、ソプラノ歌手にとって屈指の難役となっている。それを見事に歌い切ってMETデビューを飾ったのがかのマリア・カラスであり、今でもMETで「ノルマ」と言えば常に彼女の名前が引き合いに出されるという。

一方では、冷静に状況判断して自ら身を引く決意をするアダルジーザは、いわば真っ当で普通の人間である。実際のところ、本作はノルマとアダルジーザ、対照的な二人のダブル主演の作品ではないかとすら思える。とりわけ二人の二重唱が重要な役割を果たしていて、今回上演でのラドヴァノフスキー、ディドナートという二枚看板による競演は聴きごたえ十分だった。

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コメント

相変わらずの三角関係。古代ローマでも人間は変わりません。(^^)
「清らかな女神よ」いいですね。大好きなアリアです。
やはりカラスでしょうか。ベルカントの微笑みと涙。

ロッシーニ、ドニゼッティ・・・イタリアオペラの深い森が続きます。

投稿: ケイタロー | 2020/01/24 15:39

ケイタローさん
カラスのベスト盤(?)で「清らかな…」を
聴いてみましたが、さすがに圧倒されました。
この声であの顔ですから舞台映えしないはずがない。
ロッシーニ、ドニゼッティは手元に1枚もなく、
県内某所から取り寄せるべく現在画策中です。

投稿: まこてぃん | 2020/01/25 14:55

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