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2019/11/25

歌劇「ラ・ボエーム」

Labohemeプッチーニの作品中、いや全てのオペラ作品中でも屈指の人気を誇る傑作。パリの屋根裏部屋で暮らす芸術家4人組のひとり、詩人のロドルフォとお針子ミミの悲恋を中心に描く。

今回鑑賞したのは、1965年にミラノ・スカラ座で収録された映画版(写真)と、2014年メトロポリタンオペラ公演のライブ映像。前者はミレッラ・フレーニ(ミミ)、ジャンニ・ライモンディ(ロドルフォ)、カラヤン(指揮)、後者はそれぞれ、クリスティーヌ・オポライス、ヴィットーリオ・グリゴーロ、ステファーノ・ランザーニといった面々、演出はともにフランコ・ゼフィレッリである。

オポライスは何と前日夜に「蝶々夫人」のタイトルロールを歌った翌朝、MET総裁のゲルブから急遽電話が入り、その日の昼公演の「ラ・ボエーム」のミミ役がキャンセルとなったので、代役で歌ってくれと依頼された。24時間に2つの役でMETにロール・デビューした歌手は、MET史上初めてという快挙だそうだ。

その事情を感じさせないほどの出来映えはさすがと言えるが、それでも歌に関してはフレーニの方がやはり一日の長がある。若干線が細いながらもよく通る声は、病弱という設定のミミにぴったりだし、最後のベッドでの場面など万感の思いを籠める箇所で、あえてソット・ヴォーチェというのか、「大事なことは小さな声で言うのよ」といった表現が素晴らしい効果を上げている。

ゼフィレッリの舞台の見事なことは言うまでもない。実はアメリカ滞在時にMETの舞台をナマで見たことがあり、第2幕冒頭のパリ街頭のシーンには心底驚愕した覚えがある。まるで巨大な印象派の絵画がそのまま動き出したかのような錯覚に襲われたものだ。幕が開いた瞬間、観客から思わず溜息が漏れ、拍手が起きるのはいつものことという。

もう一か所、印象に残る演出があった。第3幕で最初降っていた雪が一旦止み、その後ミミとロドルフォが別れる決意をする場面になる。「花の季節になったら別れよう」と二人は決心し、「ずっとこのまま冬だったらいいのに!」とミミが歌うと、また静かに雪が降り始めるという演出は心憎いばかりだ。

音楽の面では、それまでのオペラでは、筋書きはレチタティーヴォの部分で言わば散文調に淡々と進み、情感が高まったところで詩的な歌詞のアリアとなって一旦時間が止まるような構成だったのが、この作品ではレチタティーヴォとアリアの両方で筋書きが進められ、オペラ全体の一体感が高まっているように感じた。そんなところにも、メロディの美しさだけではない、プッチーニの音楽の魅力があるのかもしれない。

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コメント

ゼフィレッリの舞台をナマで見たとは羨ましい!

2014年の『ラ・ボエーム』は、グリゴーロ目当ての公演が、一転して「METの危機を救
った」オポライスが世界に羽ばたく舞台になりました。24時間以内に2つの役でMET
デビューを果たし、2度死んだディーヴァ。さすがプロです。
ゲルブ総裁から電話を受けた彼女は、ほとんど躊躇することなく引き受けたのではない
でしょうか。METでミミが歌える!世界中に配信されるライブビューイングで、ほかの
劇場関係者の目に留まるかもしれない。このチャンスを逃してなるものか・・・。
(想像ですが)

恥ずかしながら、ミミが死ぬラストシーン、ロドルフォが絶望の中でMimì~Mimì~と
叫ぶところでいつもウルウルしてしまいます。
なので、カーテンコールをして欲しくないオペラのひとつです。

投稿: ケイタロー | 2019/11/25 17:35

ケイタローさん
オポライス、インタビューでは一旦は断ったとか
言っていましたが、次の瞬間には受けましたと。(笑)
ラストシーンについては私も全く同じです。
いい歳をして、そうなると分かっていても、ですね。
直前の遣り取りが、メロディのない普通の劇のセリフ
になっていて、それがより緊迫感を高めています。

投稿: まこてぃん | 2019/11/25 21:00

お二人の掛け合い、陰で?こっそり楽しんでいます。
ケイタローさんがオペラ好きとは全く知りませんでした。
今まで何度もお会いしていたのに!

「ラ・ボエーム」は私は先日、アマオケの演奏会で
鑑賞する機会がありました。セミステージでの公演で、
日本語字幕付き。オケは東大オケOBが主体という
実力集団でした。

私はオペラではR・シュトラウスやワーグナーが
主に好きですが、イタリアオペラもはまると
ぐっときますね(ドイツオペラにはない要素が
かなりあります)。

娘が去年からドイツの歌劇場オケの団員となって
様々なオペラ演奏に挑んでいます。
モーツァルト、ヴェルディ等。まだプッチーニは
ないような。先日は「サロメ」でしたが、
主役が大柄な方で、ちょっと違うかな?と漏らしてました。それでは!

投稿: frun 高橋 | 2019/11/26 16:40

frun 高橋さん
プッチーニが一段落したら、
次はドイツオペラを観ていく予定ですが、
いつになったら「指環」を制覇できることやら…。(苦笑)
娘さんが本場の歌劇場団員になられたとのこと、
いろいろとご苦労が多いことと推察しますが、
今後ますますのご活躍をお祈りします!

投稿: まこてぃん | 2019/11/26 20:56

この場をお借りして
高橋さん、ご無沙汰してます。ここしばらく「大凧」に行けなくて・・・

オペラは、イタリア、ドイツ、フランス、ロシアとそれぞれお国柄があって面白いです。
意味は分からなくても、言葉が違うと雰囲気も変わるし。
サロメは魅惑的な美少女だし、ミミは結核で死ぬので、あまり恰幅のいい歌手だと・・・?!
役に見合った容姿と、歌唱力の兼ね合いがむずかしいです。

R・シュトラウスは『ばらの騎士』が好きです。
ワーグナーは体力がもたなくて。(笑)

娘さん、楽しみですね。ご活躍を祈っています。

投稿: ケイタロー | 2019/11/27 13:21

度々すみません。
いま思い出したんですが
『ラ・ボエーム』を原作にした『RENT』(レント)っていう映画があります。
ブロードウェイ・ミュージカルを映画化したもので、貧困、麻薬、エイズ、ゲイ・・・重いテーマですが、ニューヨークの若者が歌い、踊るご機嫌な映画です。

投稿: ケイタロー | 2019/11/27 14:11

ケイタローさん
確かにワーグナーは体力が必要ですね。
治療が一段落しないことには無理かも…。
『RENT』もそうですが、WOWOWの番組の中では
『ムーラン・ルージュ』も紹介されていました。
これもミュージカルで、ニコール・キッドマン主演です。

投稿: まこてぃん | 2019/11/28 08:58

もはや、「オペラのブログ」みたいになってきましたね。「サロメ」は確かに妖艶であっても少し細身でないといけませんね。でもあの大曲ですから、なかなか難しいでしょうが。しかしジェシー・ノーマンがサロメを録音した時はいかがなものか..とは思いました(^^;。サロメといえば、男性陣のお楽しみがありますが、娘のところの公演(今後も続きます)では、「それでサロメは脱いだのか?」は訊けませんでした。12月は「リゴレット」「ボリス・ゴドゥノフ」「サロメ」「魔笛」が連日行われます。「薔薇の騎士」、いいですね。私は「エレクトラ」も好きです。「指環」は実演に接しないとなかなか聴きとおせないですね。娘は先日、フランクフルトで「マクベス夫人」を観てきてようで、かなり衝撃を受けたようです。まこてぃんさん、ケイタローさんもまた来年お会いできることを!私は12/15にフルマラソン予定です。もうタイムは...(^^;。

投稿: frun 高橋 | 2019/11/28 10:08

ついでながら、娘のところの「魔笛」公演のPR動画です。え?これが魔笛?って感じの演出です。こちら:

https://www.youtube.com/watch?v=W6mAvZDesP8                   

これはいろいろ機材を使って、一般の道具を使わないで行うものです。この「魔笛」のみ、他のオペラは通常形態。いろいろ考えますね。「ワルキューレ」では救急車が来たり、まぁドイツはやりたい放題の演出です。

投稿: frun 高橋 | 2019/11/28 10:20

高橋さん
魔笛の動画、大変驚きました。
まるでスター・ウォーズみたいですね。
数ある歌劇場の中で存在意義を示すには、
様々な冒険的試みが必要なのでしょうね。

投稿: まこてぃん | 2019/11/29 08:57

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