« バレンボイムのブルックナー交響曲全集 | トップページ | 当世結婚式事情その2 »

2019/11/07

歌劇「オテロ」

Otelloヴェルディ晩年の傑作オペラ。シェイクスピアの悲劇「オセロー」を原作とし、それまでのナンバーオペラ(番号が付されたアリアや重唱などを繋げていく)様式を脱して、一瞬の隙もない緊密な音楽が展開する新たな境地を切り拓いた作品である。ヴェルディと同じ年に生まれたワーグナーが、彼の「楽劇」において音楽の流れを切らさない「無限旋律」の手法を用いたのを意識しなかったはずはない。

文字通り「疑心暗鬼を生ず」の猜疑心から、破滅へと突き進む主人公を中心とした人間心理の揺れ動きを、残酷なまでのリアリティーで描き切った「音楽による心理ドラマ」である。とりわけ、主人公を破滅させようと画策する旗手イアーゴの奸計は憎たらしいほどに見事である。実は彼こそが全体の狂言回しを担っていて、実際ヴェルディはこの悪役に惹かれ、作曲中のこのオペラを「イアーゴ」と称していたそうだ。

刺激的なパッセージや不協和音をふんだんに使った音楽も、それまでのヴェルディ作品とは完全に一線を画し、20世紀音楽の到来が近いことをまざまざと実感させるが、そんな中にあってこそ、第1幕最後の愛の二重唱や第4幕「柳の歌」のメロディの美しさが一層際立って感じられ、ヴェルディの音楽技法の円熟ぶりを物語っている。

今回鑑賞したのは、2017年6月英国ロイヤルオペラ公演の録画。ヨナス・カウフマンがオテロデビューを果たし、マルコ・ヴラトーニャ(イアーゴ)、マリア・アグレスタ(デズデモナ)といった実力派とともに臨んだ新演出公演である。指揮アントニオ・パッパーノ、演出キース・ウォーナー。原作者シェイクスピアのお膝元での公演だけに、舞台と客席が一体となってお馴染みの古典を味わい尽くそうという雰囲気が感じ取れた。

さて、これで手許にない「運命の力」と「ファルスタッフ」を除き、ヴェルディの主要作品は一応鑑賞したことになる。続いては、ヴェルディ後のイタリアオペラから、まずはプッチーニを観ていこうと思う。

|

« バレンボイムのブルックナー交響曲全集 | トップページ | 当世結婚式事情その2 »

コメント

来ましたね「オテロ」。
70を過ぎたヴェルディの傑作。やはりオペラは音楽と脚本、シェークスピアの原作の力が大きい。

ムーア人(黒人orアラブ人)のオテロと美しい白人の妻は、ゲームのオセロの黒と白。
白は善で黒は悪という差別。(「ホワイト国」という言い方もよくないですね)
オテロのコンプレックスが生む猜疑心。イアーゴのオテロに対する同性愛が生む嫉妬。
決して「ハンカチ一枚で妻を殺す嫉妬に狂った男の話」ではありません。(^^)
この作品も最後がいいです。瀕死のオテロがデズデモナににじり寄って・・・
最後は声にならず(楽譜は休符だけだそうです)・・・息絶える。
ジーンときます。

カウフマンはMETのライブビューイングで観ただけですが、バリトンっぽいのでいいでしょうね。格好いいし。
ただ、オテロ歌いといえばドミンゴ。(それしか知らないだけで)
で、DVDはフリットリ、ヌッチ、ムーティ指揮のミラノ・スカラ座管弦楽団。
英国ロイヤルオペラは今年も来日してましたね。関西までは来ませんが。びわこホールがあるのに・・・ブツブツ。
プッチーニ、たのしみにしています。

投稿: ケイタロー | 2019/11/07 17:29

ケイタローさん
人種差別とかLGBTとか、
今日にも通じる問題まで内包した
大変奥の深い作品世界なのですね。
ラストは頭からベッドをずり落ちながら、
血糊を垂らしつつ声を振り絞る迫真の演技でした。
ドミンゴのオテロも是非一度は観なければ…。

投稿: まこてぃん | 2019/11/08 09:48

まこてぃんさんのおかげで、しばらく足が遠のいていたオペラを観る機会が増えて感謝しています。

で、久しぶりに観ると、そうなんです。「オテロ」はまさに‘’今日にも通じる問題まで内包した‘’作品ですね。
シェイクスピアが活躍していた当時のイングランドにとって、オスマン=トルコなどイスラム世界は脅威で、エリザベス女王はムーア人追放令を出しています。でも、一方ではエキゾチックで洗練されたイスラム文明への憧れもあって・・・複雑です。
オテロはキリスト教徒に改宗していますが、お姫様のデズデモナは浅黒いムーア人の俺をいつまでも愛してくれるだろうか?疑心暗鬼。キリスト教白人世界の一員になったつもりでも、結局は異邦人で・・・複雑です。

オテロは、喧嘩する部下たちに「ここはサラセン人(アラブ人)ばかりか、それともトルコ人の凶暴さが乗り移ったか」と言います。
今でもある国の大統領は「イスラム教徒はみんなテロリスト」みたいに言います。
黒人差別やユダヤ人差別も根強く残っています。もちろん僕たちのまわりにも・・・。
異質な他者を認めず排除する病は、人類の宿痾なのでしょうか?
「オテロ」は寓話です。

投稿: ケイタロー | 2019/11/08 16:12

残念ですがオペラの話には全く寄れません。(-"-)
ケイタローさん、世界史専門でした?
オペラを理解するのに役立ってるみたい?

投稿: くー | 2019/11/08 18:43

というより、オペラなどヨーロッパの芸術に憧れて、いろいろ勉強して・・・ほとんど受け売りです。(笑)
くーさんも、ぜひオペラの世界へ。

投稿: ケイタロー | 2019/11/08 23:54

ケイタローさん
ついにコメントの行数が本文を超えました。(笑)
ワーグナーやヴェルディが政治的存在でもあったことを含め、
当時の政治的、世界史的な背景を知った上で鑑賞すると、
オペラというのは実に奥の深い総合芸術ですね。

くーさん
あまり難しく考えず、芝居見物ぐらいの感覚で
楽しんでみてはいかがでしょう。
以前、職場の同僚(女性)に、イケメンテノールの
追っかけみたいな人もいましたよ。(笑)

投稿: まこてぃん | 2019/11/10 09:40

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« バレンボイムのブルックナー交響曲全集 | トップページ | 当世結婚式事情その2 »