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2019/11/04

バレンボイムのブルックナー交響曲全集

Bruckner1990年代にベルリン・フィルと録音した、バレンボイムにとって2度目となる全集盤。これまでブルックナーはカラヤン、チェリビダッケ、マタチッチ、ヴァントといった指揮者で聴いてきたが、バレンボイム盤は全く眼中になかった。ところが、少し前に彼のベートーヴェン交響曲全集を聴いて感銘を受け、それならばとブルックナー交響曲全集も入手して試聴してみたのだ。あまり聴く機会のない合唱曲「ヘルゴラント」も収録されている。

期待は裏切られなかった。曲によってはこれまで聴いた中でのベストと思える名演奏である。一言でいえば、大管弦楽の圧倒的な音響美を余すところなく具現化した演奏である。彼の交響曲をカトリック信仰の表現であるとして、一種の宗教音楽として崇敬し神格化するような風潮が、特にわが国では一部評論家の影響を受けて根強いが、これらの演奏はそれに対するアンチテーゼのようですらある。

宗教というフィルターを外して眺めれば、他に類を見ないほどの規模と複雑な構成、メロディや和声の美しさを備えた純粋音楽として、彼の交響曲は確固として存在している。その特質をあるがまま最大限に引き出した演奏であり、ブルックナーの音楽をいわば彼岸から此岸に引き戻した、極めてヒューマンなアプローチと言えるのではないか。とりわけ、これまで宗教色が強いと感じていた第3、5、9番の3曲に大きな感銘を受けたのはその現れと言える。

収録場所は第5、7番がシャウシュピールハウス(現コンツェルトハウス)、それ以外は全てフィルハーモニーである。第4、7番以外は全てライヴ録音であるが、残響が完全に消えてもなお拍手が起きないのはさすがである。テルデックによる録音はダイナミックレンジが広く、各楽器の定位や分離、遠近感まで良く表現出来ている。特筆すべきはコントラバスの音で、余計な共鳴音の少ない、特有の摩擦音を含んだ乾いた音は本当に生々しい。

ところで、先のベートーヴェンは6枚990円、このブルックナーは9枚1823円で入手できた。わが国におけるバレンボイムの評価が低いおかげか、こんな素晴らしい全集が1枚200円程度で入手できたことに感謝しなければならない。実は、最近シュターツカペレ・ベルリンと録音したブラームス交響曲全集も入手したところで、こちらも期待できそうだ。

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コメント

まこてぃんさん、いつも読んでいます(RESしてなくてすみません)。ブルックナーということで出てきました(^^;。バレンボイムのブルックナーは8番、9番だけCDで持っていますが、特に印象は薄く..、あらためて聞き直そうかと思いました(この前の、ベートーヴェンのチェロソナタのお話も素敵でした)。マーラーと違ってブルックナーの場合、金管はそう面白くはなく(オルガンをイメージして塊となって吹奏するわけで、主題とかを吹くのは少ない)、どんな風に聴くか、時々悩んだりもします。私の場合、宗教観がどうしても絡むわけですが、確かにそこから離れて聴くのも一案かもしれません。例えば、朝比奈さんは宗教とかは特に考えずに譜面だけ真摯にとらえて指揮していたのかもしれませんね。ところで、先日、平和台陸上競技場を見てきました。2004のまこてぃん完走記を再読しました。では、お体に気を付けて!

投稿: frun 高橋 | 2019/11/05 11:56

う~ん、ブルックナーですか~。
見逃しの三振。怒濤のコメントが浮かびません。(笑)
食わず嫌いというか、知っているのは「ロマンティック」と8番くらいで。長い、重い、繰り返しが多いイメージで、眠くなってきて・・・。(すみません)
以前、朝比奈大フィルで聞いたことがありますが、何番だったか覚えてないくらいで。同じ世代でもブラームスは分かりやすいし、同じ長くてもマーラーは大丈夫なんですが。

で、バレンボイムの評価が低いということですが、やはりピアニストとして評価が高かっただけに。「弾き振り」も視覚的にはウケますが、演奏としてはどうなんでしょうか。アシュケナージもやりますね。
名指揮者には、ピアノやバイオリン奏者から出発した人も多いですが、やはり「二足のわらじ」は厳しいのでは。餅屋は餅屋ではないかと。

デュ・プレとの確執や、彼女が死ぬ前にギドン・クレーメルの元妻との間に子供が生まれていたり、最近ではパワハラが問題になったり、ちょっとアンモラルなところも・・・

すみません。話が逸れてしまって。
ブルックナー、頑張ってみます。

投稿: ケイタロー | 2019/11/05 16:54

高橋さん
コメント、お待ちしておりました。
私の場合、もともとオーディオ趣味から
クラシック音楽に入っていったので、
音質の良い録音に惹かれる傾向が強いです。
難しいことは考えず、ひたすら美しい音に浸りたい
というとき、バレンボイム盤はお勧めです。
福岡完走記、私も再読しました。
もうあれから15年も経つのですね。(遠い目)

ケイタローさん
日本でのバレンボイムの評価が低い原因が、
わが国音楽界の独墺偏重、一部評論家の偏見に加え、
彼のプライベートな事柄にもあるとすれば残念です。
少なくとも彼の演奏を聴く限りにおいては、
ピアニストとしても指揮者としても第一級の音楽家だと
私は確信しています。
ブルックナーでは第7番(特に第1、第2楽章)が
比較的分かりやすいのではないかと思います。

投稿: まこてぃん | 2019/11/06 08:50

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