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2019/10/29

歌劇「アイーダ」

Aidaヴェルディ後期の傑作とされるオペラ。スエズ運河開通を記念して新しく建てられたカイロ歌劇場で上演するため、エジプトを舞台とした新作オペラの依頼を受けて作られた。パリ・オペラ座からの依頼による「ドン・カルロ」、ロシア・ペテルブルクからの依頼による「運命の力」と並んで、ヴェルディは当時としては「世界を股にかけた」活躍をしていたようである。

ファラオ時代の古代エジプトが舞台。エジプトとの戦いに敗れたエチオピアの王女アイーダは、身分を隠したまま奴隷としてエジプトの王女アムネリスの侍女になっている。彼女はエジプトの将軍ラダメスと恋に落ちていた。同じくラダメスを愛するアムネリスは二人の仲に気づき、激しく嫉妬する。最終的に祖国の勝利よりアイーダへの愛を優先させたラダメスは、彼女とともに国外に逃亡しようとして、父エチオピア王に唆された彼女に軍の機密情報を漏らしてしまい、そのため死刑を宣告されてしまう。

委嘱の経緯に相応しく祝典的な要素が強い作品で、古代エジプトを再現した豪華絢爛なセットに、華やかなバレエの場面も織り込まれるなど、壮大な舞台が映えるスペクタクル・オペラの代表格とされる。第2幕第2場の凱旋の場面は最も有名で、今ではサッカーのテーマ音楽になった行進曲が鳴り響く中、本物の馬まで現れて舞台を闊歩するさまは正に壮観である。

しかし、実際のところ「スペクタクル」と言えるのはこの場面だけで、意外なことにオペラの大半は、上記の三角関係の男女の機微と、その背景となる両国の対立、愛国心と復讐心といった内容が主になっている。したがって、凱旋の場面のような華やかさだけを期待していると、意外に地味な内容に肩透かしを喰らうことになる。

とりわけ、第1幕第2場の神殿での祈祷の場面や、第4幕第2場の地下牢と神殿の二重舞台の場面では、極めて抑制されたトーンの音楽が続き、最後はピアニシモのうちに静かに幕が降りる。「スペクタクル・オペラ」としては全く予想しなかった幕切れに驚いたが、本作が単なる見世物ではない、芸術的価値を有する作品であることの証左と言えよう。

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コメント

いよっ!出ましたね「アイーダ」
僕は三角関係になるほどモテたことはないし、結ばれない愛の苦しみも(残念ながらor幸いにも)知らないけれど、だからこそオペラは楽しい。
清きアイーダも凱旋の合唱もいいけれど、まこてぃんさんの言うとおり、終幕の地下牢の場面が秀逸です。
いくら恋人と一緒だって生き埋めなんて酷すぎる。でも強い愛の力があれば、苦しみは喜びに変わり・・・。
何年かして牢を開けてみると、抱き合った白骨が・・・なんて、いつもこのオペラを見終わると考えてしまいます。(^^)

病魔に打ち勝ち椅子に座っての指揮ぶりも鮮やかだったレヴァイン(76歳)
ふたたびバリトンに転向していい味を出していたドミンゴ(78歳)
ともにMETを追われ、まさしく晩節を汚してしまいましたね。

投稿: ケイタロー | 2019/10/30 13:59

ケイタローさん
お約束のコメント、ありがとうございます。
正直なところスペクタクルを期待して観たクチですが、
観終えて時間が経つにつれ、じわじわと来ています。
三角関係があって陰謀があって最後は人が死んで終わる。
同じような展開でも音楽によってこれほど変わるとは…。

投稿: まこてぃん | 2019/10/31 08:23

じわじわ、ですよねぇ。
オペラは、音楽はもちろんのこと、やはり脚本も大切だと思います。
『アイーダ』の肝は「生き埋め」ではないかと。
ラストが処刑のオペラは『トスカ』とか他にもあるし、プーランクの『カルメル会修道女の対話』なんてギロチンで次々と・・・。(昨シーズンのMETのライブビューイングで観ました。)
『イル・トロヴァトーレ』や『トゥーランドット』も処刑がらみ。
でもラストが「生き埋めの刑」は・・・他にないのでは?
天国での幸せを夢見ながら死を待つアイーダとラダメス。地上で祈るアムネリス。
消え入るような音楽とともに幕が下りる。ジーンときます。

蛇足ですが、僕はオペラのカーテンコールにはどうしても馴染めません。とくに悲劇的な最期を遂げた主人公が、その余韻も覚めやらぬうちに再び現れて、にこやかに投げキッスなんかすると・・・。(苦笑)
ここが歌舞伎と違うところで、日本人のメンタリティには・・・なんて話をすると長くなるので、今日はこのへんで。(笑)

投稿: ケイタロー | 2019/11/01 14:27

ケイタローさん
ラストの二重舞台は卓抜な発想ですが、
ヴェルディ自身が発案したとのことですね。
音楽、脚本、装置。まさに総合芸術です。

カーテンコールは確かに「あらずもがな」な
ところはありますね。
とりわけ、出来が悪かった歌手が登場して
ブーイングを浴びたりしているのを見ると
ちょっと可哀そうな気がします。

投稿: まこてぃん | 2019/11/01 18:24

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