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2019/10/11

歌劇「ドン・カルロ」

Doncarloヴェルディ中期の傑作とされるオペラ。フランス語版やイタリア語版、4幕版や5幕版など各種の版が存在するが、今回鑑賞したのは、イタリア語で全3幕に再構成した、メトロポリタンオペラ1986年公演のビデオである。

16世紀スペインを舞台に、国王フィリッポ2世と、フランスから迎えた若き王妃エリザベッタ、その王妃と一旦婚約関係にありながら解消された王子ドン・カルロ、王子の親友でスペインに弾圧されるフランドルの新教徒を擁護するロドリーゴ侯爵、王子を密かに愛する女官エボリ公女、カトリックの権力者・宗教裁判長など、いずれが主役とも言い難いほど多彩な人物が登場。一人の女性を巡る父と子との、カトリックとプロテスタントとの、政治権力と宗教権力との、それぞれの対立が絡みながら繰り広げられる、愛と政治をめぐる葛藤のドラマが、壮大で重厚な音楽によって描かれている。(ウィキペディアの解説に加筆)

本作はパリ・オペラ座の依頼により作曲され、1867年にオペラ座において初演されている。実は1986年にそのオペラ座で本作を観たことがある。たまたま欧米出張中の自由時間、チケットが入手できたので飛び込んでみたのだが、当時はタイトルぐらいしか知らず、複雑なストーリーをほとんど知らないまま、フランス語版全5幕、およそ4時間もの間、ひたすら音楽だけを聴いていた。指揮はジョルジュ・プレートルだったと記憶する。

それ以来、このオペラはやたらと長大で、内容も退屈に違いないという先入観があったのだが、豈図らんや。3幕合わせて約3時間半が短く感じられるほど、最後まで全く退屈することなく観終えることが出来た。最後の場面、エリザベッタへの愛を押し殺してフランドルへ向かう決心をするドン・カルロと、王子を心の底から愛しながらも彼の決意を理解し、快く送り出してやろうとするエリザベッタとの二重唱は心に迫った。

これまで鑑賞してきたヴェルディのオペラの中では最高傑作であると思う。それに寄与したのがこのMET公演の完成度の高さで、ドミンゴ(ドン・カルロ)、フレーニ(エリザベッタ)、ギャウロフ(フィリッポ)、フルラネット(宗教裁判長)といった錚々たる顔ぶれが遺憾なくその実力を発揮し、名曲ぞろいのアリアや重唱を大変感動的に歌い上げている。

ところで、ドン・カルロが祖父カルロ5世(フィリッポの父)の亡霊(?)によって墓の中に引きずり込まれる結末は謎めいていて、いくつかの解釈があるようだが、もしかするとモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の幕切れと何か関連があるのかもしれない。

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コメント

怒濤のベルディ。
コメントを書くのが楽しみになっています。(笑)

「ドン・カルロ」というと
むかしプラハ国立歌劇場の帰りに、切符に打刻するのを忘れて罰金を取られた苦い思い出がよみがえります。ずいぶん高くて、貧乏旅行には大打撃でした。
で、配役・オケなどは全く覚えていません。(^^!

「スペインはフェリぺ2世(フィリッポ2世)のもとで全盛期を迎え、1571年レパント
海戦でオスマン帝国を破り・・・1580年にポルトガルの王位を兼ね・・・『太陽の沈ま
ぬ帝国』を実現した。」(『詳説世界史』山川出版社)
お父さんのカルロ5世(カール5世)も、受験では頻出のハプスブルク家の王です。
息子のドン・カルロも実在の王子だし、いくら16世紀でも隣国の王室を舞台にオペラを
書くなんて・・・そこがヨーロッパなんでしょうか。

ギャウロフというと
むかしNHKが招いたイタリア・オペラの『ファウスト』でメフィストフェレスを朗々と
歌ったのを、今でも覚えています。(高校生だったし、もちろんテレビです。)
その後フレーニと結婚して。

亡霊というと
「ドン・ジョヴァンニ」の幕切れは恐怖の地獄落ち。怖いです。
これも父の亡霊。テーマは同じ。
ザルツブルクを離れて独立したいモーツァルトを許さなかった父との対立。

全然レベルが違うけれど
「京都に行きたい!」と言う僕に、反対しながらも許してくれた父との確執。
父と息子の葛藤は、「父殺し」の通過儀礼ですね。
最近、よく父の夢を見ます。

投稿: ケイタロー | 2019/10/12 20:29

ケイタローさん
怒涛のコメント、読むのが楽しみです。(笑)
「切符に打刻」ってオペラのチケットのことですか?
それで罰金とはどういうことなのかよく分からないです。

大仏鉄道ラン、何とか天気が回復して良かったですね。
体調が良ければ飲み会だけでも思っていたのですが、
参加が叶わず残念です。皆様によろしく。

投稿: まこてぃん | 2019/10/13 09:13

いえ、オペラじゃなくて乗車券の話で
乗る前に機械で切符に穴を開けるんだったか、日付が刻印されたのか、よく覚えていないんですが、トラムに乗っていると、突然私服警官みたいな屈強な男が検札をはじめて・・・。
僕の拙い英語で言い訳しても通じるはずもなく、押し問答の末、結局何千円か罰金を払いました。覆面パトカーみたいで、それだけ不正乗車が多いのか、ドン・カルロの感動がぶっ飛んでしまった、苦い思い出です。(笑)

投稿: ケイタロー | 2019/10/14 21:12

ケイタローさん
なるほど、電車の切符でしたか。
外国の鉄道は基本的に車内検札だけと思うのですが、
国や路線によっては改札口チェックもあるのですね。
自分もMETの帰りに電車を乗り過ごしそうになって、
折角の感動が半分醒めてしまった経験があります。

投稿: まこてぃん | 2019/10/15 10:57

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