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2019/10/05

『セブン・イヤーズ・イン・チベット』

Sevenyears1997年、米・英。ブラッド・ピット主演。アマゾンの紹介文。

1939年秋、ナチス統制下のオーストリア。有名な登山家ハインリヒ・ハラー(ブラッド・ピット)は世界最高峰の制覇を目指し、ヒマラヤ山脈の最高峰、ナンガ・パルバットを目指して旅立った。だが、第二次世界大戦の勃発により、イギリス植民地のインドで捕らえられ、戦犯の捕虜収容所に送られイギリス軍の捕虜となってしまう。
収容所での生活も2年を超えた1942年9月。同じく捕虜となった登山仲間とともに収容所を脱出し、そこからヒマラヤ山脈を越える決死の脱出。幾多の危機を乗り越え辿り着いたのは外国人にとって禁断の地であるチベットだった。そして、ハラーは若き宗教指導者ダライ・ラマと出会うことに。
実在したオーストリアの世界的登山家ハインリヒ・ハラーの原作を映画化したストーリー。(引用終わり)

退院後は音楽とオペラ三昧の日々だったが、たまには気分を変えて映画を観てみた。ヒマラヤ最高峰の登山や収容所からの逃走など、手に汗握るシーンが続く前半から一転、後半では西洋人はおろか同じアジアの日本人にとってすら別世界のようなチベットでの生活や、ダライ・ラマとの出会いと交流、そして別れが、美しい映像とそれに溶け込むような音楽(チェロ独奏はヨーヨー・マ)によって描かれている。

我が子の誕生を待たずに登山に出発するような身勝手な男だったハインリヒだが、幾多の危機を乗り越えるたびに、さらにはチベットの異文化やダライ・ラマとの交流を通して、人間的に成熟していく過程が窺える。その心の支えとなったのが未だ見ぬ息子の存在で、物語の節目節目でハインリヒが息子への思いを綴った手記が朗読される。

にもかかわらず、本国の妻からは離婚届が送られてきて、息子からは「父親でない人からの手紙は欲しくありません」と拒絶されてしまう。むしろ、ダライ・ラマとの交流が深まる中で父性に目覚めていったのかもしれないが、ダライ・ラマはそれを敏感に見抜いていた。彼はハインリヒに次のように言って、本当の息子に会いに戻るべきだと諭す。図星を指されたハインリヒは思わず嗚咽する。ダライ・ラマがただの子供ではないと痛感させられるシーンだ。

私はあなたの息子でなく
あなたを父と思ったこともない
父親なら気軽に話せない

(息子のことがずっと心にあるなら)
帰国して彼の父になるべきだ
私との仕事はもう終わった

蛇足ながら、ハインリヒの手記や手紙などは全てドイツ語で書かれていたのに、取り戻した友人ペーターの時計に添えたメモが英語で書かれているのはなぜだろう。ダライ・ラマや高官などチベット人とは英語で話しているようなので、ハインリヒは英語も堪能らしいけれど、ドイツ人であるペーターへのメモはドイツ語で書くのが自然ではないか。

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コメント

ふふふ、映画ネタにもおじゃまします。(笑)

勘違いしてました。僕は若き日のダライ・ラマの話で、ハラーが家庭教師で・・・
ハインリヒ・ハラーの映画だったんですね。当たり前か。ブラピ主演だし。
同じ頃、マーティン・スコセッシの『クンドゥン』という、ダライ・ラマを描いた映画もあって・・・ごちゃまぜで。(^^!

チベットってきれいだなぁ、と思っていたら、中国政府が撮影を認めるはずもなく、アンデスとかモロッコとか、どこか別の国で撮った風景なのが残念。でもきれいです。

今年は「チベット動乱」でダライ・ラマ14世がインドに亡命して、ちょうど60年。
あらためて現在のチベットを思う、今日この頃。

投稿: ケイタロー | 2019/10/05 16:58

ケイタローさん
怒涛の連続コメント(笑)、有難うございます。
この映画の重要なテーマのひとつがチベット問題ですね。
「竹のカーテン」の裏で何が起きているのか。
今日の香港情勢などを見ると看過しえない問題です。
本作ではその端緒部分がリアルに描かれていて、
中国サイドは随分神経質になったことでしょう。

投稿: まこてぃん | 2019/10/06 11:21

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